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第10話「静寂を聴く少女」

【早朝・澪の部屋】


窓から差し込む朝の光。

澪の部屋は、整然としながらも

壁や棚にスケッチが貼られている。


・塔の内部

・レコード店の光

・歩道橋の“声の抜け殻”

・駅の“アナウンスの帯”


すべて、澪が“音の形”として視覚化したもの。


澪は机に座り、昨日の絵をめくりながら

ゆっくりと呼吸する。


 ――世界は静かだ。


澪にとって、それは

“生まれてからずっと当たり前の世界”だった。


しかし、昨日の“駅のアナウンス”以来、

胸の奥で何かがざわついている。


スケッチブックの新しいページに

小さく文字を書く。


 『“あ”と“り”。

  どちらも、声の途中。

  続きがあるはず。』


描きながら、

澪はふっと目を閉じる。


そして――

記憶の風景が静かに立ち上がる。



---


【幼い頃・澪幼少期】


――世界がまだ“音で満ちていた時代”。

澪は、音が少しだけ聞こえていた。


耳が弱く、

周りの“音の洪水”に圧倒されていた幼いミオ。


学校の廊下、

子どもたちの笑い声、

机を引く音、

先生の呼びかけ。


それらが混ざり合って、

澪には“ただの騒がしい塊”に感じられた。


母親が、

澪の耳に手を当てて言う。


    母

『大丈夫。

 澪の世界はミオのペースで

 ゆっくり広がっていけばいいのよ。』


だが、

幼い澪には“音”よりも――


・声を出す人の手の動き

・物が触れたときの震え

・空気のゆらぎ

・光の“揺れ”


のほうが、よく分かった。


澪は、

“音が見える”わけではなかったが、

“音が起こすゆらぎの輪郭”を

独自の方法で感じ取っていた。


しかしその頃は、誰にも理解されなかった。


・「聞こえないものが見えるの?」

・「本当に?」

・「幻覚じゃなくて?」


幼い澪は、

うまく説明できず、

ただスケッチブックに線を描いていた。


その線が、

やがて“今の静寂の地図”の原型となる。


澪幼少期。

窓の外で、雷の音が鳴る(本来は大きな音)。

澪には聞こえないはずなのに――


“光の揺れ”だけが

視界の隅に強烈に見えた。


    幼い澪(心の声)

『世界が震えてる。

 なんで?

 どうして?』


その問いは、

ずっと胸に残ったままだった。


そして――

世界から音が消えた日。


澪は初めて“静寂が落ち着く”と感じた。


しかし次の瞬間、

街のいたるところに

“音の残り香”のような揺れがあふれた。


・物が落ちる前の空気

・怒鳴り声の“影”

・笑い声の“残像”


それらを、

澪だけがはっきりと“見えて”いた。


    幼い澪(心の声)

『音が消えたら、

 世界がようやく“静かになった”。

 でも、

 みんなが悲しんだ。

 どうして悲しいのか

 わたしには分からなかった。

 だって――

 静けさって、こんなに優しいのに。』


澪は、

静寂を愛してしまった少女だった。


そんな澪が

“音を取り戻す旅”に出るなんて

数年前には想像もしなかった。


だが、

優斗と出会ったことで

“音の世界”に興味を持ち始めた。


澪は、

静かに目を開ける。


朝の光の中、

スケッチブックを閉じて

立ち上がる。


    澪(心の声)

「今日は、

 優斗に聞きたい。

 “音がある世界”はどんなだったのか。」


澪の瞳には、

わずかな決意が宿っていた。


【登校・川沿いの道】


川沿いの道で、

優斗と合流する澪。


健はまだ来ていない。


2人きりの、

珍しい静かな朝。


澪は、

手話で静かに切り出す。


    澪(手話)

『優斗。

 聞きたいことがある。』


優斗は立ち止まり、

澪を見る。


    優斗ノート

 『なに?』


澪は少し迷いながら――

でも勇気を振り絞って聞く。


    澪(手話)

『“音があった世界”って、

 どんなだった?』


優斗は、

一瞬だけ驚いた顔をして、

ゆっくりとノートを開く。


そして、

慎重に言葉を綴る。


    優斗ノート

 『正直、

  俺には“うるさかった”って記憶が多い。

  街も、学校も、

  家の中も。

  だから……

  音が消えたとき、

  “楽になった”って思った瞬間もあった。』


澪は、

その文字に目を伏せる。


    澪(心の声)

『優斗も、

 わたしと同じだったんだ……。

 “音が消えた世界”が

 生きやすくなった子。』


しかし次のページで、

優斗の文字は大きく変わる。


 『でも、

  音がないまま何ヶ月も過ごして

  やっと分かった。


  “音があった世界”には

  嫌な音だけじゃなくて、

  好きな音もあったって。


  笑う声とか、

  呼ばれる声とか、

  音楽とか。


  今は――

  それが、聞きたい。

  たぶん、取り戻したい。』


澪は、

胸の奥が温かくなるのを感じる。


    澪(手話)

『わたし、

 音が怖かった。

 小さいころ。

 だから、

 “静寂”が好き。


 でもね――

 優斗の“好きだった音”は

 気になる。

 わたし、

 それを知らないまま

 “静寂だけ”を選びたくない。』


優斗は、

穏やかに微笑む。


    優斗ノート

 『一緒に探す?

  俺の“好きだった音”。

  世界に残ってる欠片を。』


澪は、

静かに頷く。


その瞬間、

アプリが反応する。


 《新規POINT:RIVERSIDE

  カテゴリ:NATURAL/WATER_SOUND

  強度:★★☆☆☆》


川の水面に、

小さな“ゆらぎの光”。


澪には、

そのゆらぎが

“波形”のように見える。


    澪(心の声)

『川の音……?

 ここに、まだ残ってるの?』


優斗は、

そっと水辺に歩き寄る。


目を閉じる。


微かに――

本当に微かに“音の影”が揺れる。


水が、

昔はもっと“ざわざわ”していた記憶。


    優斗(心の声)

「これは……

 水の音の“残り香”。

 俺の記憶と、

 ミオの静寂の地図が

 重なったのかもしれない。」


澪は、

水面にそっと指を伸ばし、

揺れの線を描き取る。


    澪(手話)

『優斗の好きな音、

 わたしにも見えたよ。』


2人は、

静かに見つめ合う。


この一瞬の“音なき共有”。

それは、

澪にとって

生まれて初めて味わう

“音の温かさ”だった


【放課後・校舎裏のベンチ】


健と葉山も合流し、

4人で簡単な情報共有。


健が、

優斗と澪の空気に気づき

ニヤニヤする。


    メモ

 『なんか……

  2人の距離近くね?

  あれ、

  青春アニメ始まってる?』


澪は真っ赤になり、

思わずタケルの足を小突く。


葉山は苦笑しつつ、

本題を切り出す。


    葉山メモ

 『今日話すのは、

  ミオの“静寂の地図”について。

  正式に話しておくべきことがある。』


3人が息を飲む。


葉山は、

ゆっくり文字を書く。


 『澪は、

  LISTENER-01とは別のタイプの

  “音感受者”。

  正式名称は――


  LISTENER-04:

   “Silence Mapper(静寂地図師)”』


澪、凍りつく。


健、

「カッコよ」と口パク。


優斗は驚きながらも

どこか納得している。


葉山は続ける。


    葉山メモ

 『澪は、

  “音があった世界”の残滓を

  形として視覚化できる。

  耳ではなく、

  脳の別の部分が

  「音の痕跡」を拾っている。

  世界が“沈黙”に突入した後、

  その能力はさらに強くなった。』


澪は、

自分の手を見つめる。


    澪(心の声)

『わたしは、

 音が嫌いだった。

 静けさが好きだった。

 音の世界から逃げたくて仕方なかった。


 でも――

 いま世界が静かになって

 わたしの力が“必要”になった時、

 わたしは……

 本当に静寂だけを選びたいの?』


優斗は、

ミオを真っ直ぐ見る。


    優斗ノート

 『ミオの“静寂”は、

  音を否定するための静寂じゃない。

  ミオが感じてきた“世界の形”そのものだよ。

  その力があるから、

  俺たちは“音の残り”を探せる。

  ……一緒にやろう。

  静寂も、音も。』


澪の目に、

少し涙が浮かぶ。


    澪(手話)

『うん……

 ありがとう。

 静寂も音も、

  ちゃんと“見て”みたい。

  LISTENERSとして。

  わたしの世界の全部を。』


健は泣き笑いでメモを掲げる。


    健のメモ

 『ミオ、覚醒回

  最高だった。

  LISTENERSに必要すぎる能力。

  これで、

  世界の点音全部取れるだろ。

  最強じゃん。』


4人の絆が

また一段階深まる瞬間。


そのとき――

アプリが突然赤く点滅する。


 《大型FIELD:

  NEW CORE DETECTED

  カテゴリ:NATURAL/WAVE/DISTORTION

  位置:海岸》


優斗が目を見開く。


澪は胸に手を当てる。


健は「マジか」と口パク。


葉山は息を呑む。


海――

大規模な“自然音”の源。


ついに、

LISTENERSは

“海の音”に踏み込むことになる。



夕暮れ時の海岸が映し出される。

波打ち際には、

薄い“揺れ”がいくつも走っている。


しかしそれらは、

どれも途中で“千切れて”いる。


波音は戻っていない。

でも――

波の形だけが残っている。


その中心に、

巨大な“歪みのコア”が

ゆっくり揺れているイメージ。


アプリ画面。


 《FIELD_0010:海岸音場コア

  強度:★★★★★

  性質:不明》


    ナレーション

『静寂を愛した少女は、

 いま初めて――

 “世界最大の音”と向き合う。


 それは、

 静けさを壊すのか。

 救うのか。

 あるいは――

 新しい“音の形”なのか。』


波が光のように砕ける。

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