第1話 「音が消えた日」
【夜明け前・研究施設の外観】
まだ薄暗い空。霧が低く漂う。
建物の上空を、飛行機の航行灯が静かに横切る。
(この時点ではまだ「音」はある世界)
SE:風の音/遠くの車の走行音/かすかなサイレン
施設の窓の一つだけが、白く光っている。
【研究施設・実験室】
ガラス張りの無機質な部屋。
中央に、大きな円形の装置。無数のケーブルが床を這う。
コンソールの前で、白衣の男性研究員・女研究員たちが忙しなく動く。
研究員A
「量子音場の同期、あと3%。……安定しています」
研究員B
「本当にやるんですか、所長。まだ検証段階だったはずじゃ……」
所長(50代、落ち着いた声)
「臨界点は今日しか来ない。
我々が“音”を制御できれば、戦争も、騒音公害も、すべて歴史になる」
研究員B
「……でも、万が一のことがあったら」
所長
「“万が一”のために、君たちはここにいる。
――実験開始」
モニターに、波形が次々と立ち上がり、虹色のグラフがうねる。
SE:機械音/警告音/電子音が重なり合う
装置中央のリングがゆっくり回転し始め、内部に淡い光の粒が集まる。
研究員A
「音場の振動数、上昇。臨界まで……10、9、8――」
波形が暴れ始めるモニター。
警報音(SE)
「ピ――――!」
突然、グラフが赤く点滅する。
研究員A
「だめだ、上がりすぎる! 制御できません!」
所長
「減速だ、フィールドを下げろ!」
研究員B
「応答しません! パラメータが……勝手に書き換えられて――」
リングの光が一瞬、白くフラッシュ。
部屋全体が強烈な白に塗りつぶされる。
SE:世界中の音を集めて潰したような“轟音”
→ その瞬間、プツッと切れるように途絶える
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【通学路/朝】
朝焼けの空の下、緩やかな坂道。
制服姿の高校生たちが、それぞれの朝を過ごしている。
【自転車で坂道を下る優斗】
優斗(17)、寝癖のついた黒髪。イヤホンをつけ、立ち漕ぎで坂を下っている。
表情は少しぼんやり、だが口元はリズムを刻んでいる。
実際には“音がない”。
優斗だけが自分の世界でノッている
優斗(心の声)
「――今日も、同じ道。同じ朝。
同じ曲。
でも、澪の顔を見ると、少しだけ変わる」
優斗、ハンドルを片手で押さえながら、イヤホンをぎゅっと押し込む。
彼の唇が、歌詞をなぞるように動いている。
坂の途中、並走するトラックがクラクションを鳴らす。
運転手がイラ立った表情で何か叫ぶが、音はない。
優斗(心の声)
「……また、クラクション。
朝くらい静かにしてくれって、澪なら思うのかな」
優斗、自転車のスピードを緩める。
画面の片隅に、“ノイズのようなちらつき”が一瞬走る(さりげない伏線)。
【信号前の横断歩道】
信号待ちをしている女子生徒たち。
その中に、澪(17)。ショートボブ、穏やかな瞳。片耳に補聴器。
澪は空を見上げている。
空には朝の雲。その向こうに、飛行機雲が一本。
優斗(心の声)
「澪は、いつも空を見ている。
音の代わりに、色を聴いてるみたいに」
優斗、自転車を止め、イヤホンを外す。
コードをくるくる巻いてポケットに入れ、ミオのほうへ歩く。
澪、優斗に気づき、微笑む。
唇だけで「おはよう」と言い、同時に手話で挨拶。
手話:『おはよう』
優斗
(口をはっきり動かしながら)
「おはよう。……今日も空、きれいだな」
澪、指を空に向けてから、手話で話す。
澪(手話)
『雲が、音符みたいに並んでる』
優斗
「……そっか。だったら、合唱だな。空の大合唱」
澪、少し首をかしげる。
優斗、自分で言っておいて照れくさそうに笑う。
優斗(心の声)
「ミオには、“音”の話をしないって決めてたのに。
やっぱり、うまくやれない」
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【登校路を歩く二人】
二人が並んで歩く。
周りの生徒たちは、口を動かしながら賑やかそうにしているが、音はない。
足音も、車の音も、鳥のさえずりも、すべて“沈黙”。
優斗(心の声)
「……なんか、今日はいつもより静かだ」
一瞬、画面に、遠景の街が映る。
車が行き交い、工事現場でクレーンが動き、犬が吠えている。
しかし、完全な無音。
優斗(心の声)
「(首を振る)いや、気のせいだ。
ちゃんと聞けば、いつも通り、うるさいはず――」
優斗、さりげなく耳をさわる。
澪、その仕草を見て、表情を曇らせかけて――ふと、優斗横顔を見つめる。
澪、ぎこちなく手話を組み立てる。
澪(手話)
『今日、放課後、図書室、行く?』
優斗
「ああ、例のレポート?
“音と人間の記憶”ってやつ」
澪、コクンと頷く。
ノートを取り出し、さっと文字を書く。
澪のノート
『音がなくても、思い出は消えない?』
優斗、その文字を見て、少し黙る。
優斗
「……難しい質問するな」
澪、優斗の反応をじっと見る。
優斗、照れ隠しのように笑う。
優斗
「とりあえず、放課後、答え合わせしてみようぜ」
澪、ふっと嬉しそうに笑い、ノートに小さく音符マークを描く。
【教室・午前】
窓から朝の光。教室はざわざわとした気配。
だがやはり音はない。生徒たちの口だけが動いている。
黒板の前で、担任の教師が何か話している。
口パクだけで、声が聞こえない。
黒板にはチョークの粉が舞っているが、その「キイッ」という音もなし。
優斗(心の声)
「……やっぱり変だ。
先生の声が、遠いとかじゃない。
――聞こえない」
優斗、自分の机を指でトントンと叩く。
机の表面が揺れ、鉛筆がわずかに跳ねる。
だが、音はない。
優斗(心の声)
「……え?」
優斗、自分の息遣いを確かめるように、深く息を吸う。
胸が上下する。
でも、呼吸音はない。
優斗
「(小さく口だけ動かす)……うそ、だろ」
隣の席の男子・健が話しかけてくる。
タケルは何か冗談を言っているような表情で笑うが、音はない。
健(口パク)
「――――?」
優斗、聞こえないことにパニックになりそうになり、
「やばい」と口に出しかけて――ふと視線を澪に向ける。
【教室後方・澪】
ミオは静かに教科書を見ていたが、ふと顔を上げる。
教室中の“静寂”に違和感を覚えているような顔。
彼女は唇を読み、教師の話を追っている。
だが、その表情が徐々に曇っていく。
澪(心の声的なモノローグ演出/字幕表示)
『……みんなの声が、聞こえないのは、いつも通り。
でも――今日は、違う。
教室が、“静かすぎる”』
教壇の上で、教師がチョークを手に持つ。
黒板を勢いよく叩き、生徒を静かにさせるジェスチャー。
チョークが折れるスローモーション
本来なら「パキッ」と音がするはずだが、完全な無音。
澪の瞳が大きく見開かれる。
彼女の世界から音はもともと少ない。
しかし、それでも知っている。“振動の気配”が、消えていることを。
澪、立ち上がる。
周囲の生徒(口パク)
「どうした?」「おい、澪?」
担任が何か言っている。
しかし、音はまったくない。
澪は、自分の胸に手を当てる。
鼓動を感じようとする。
でも――画面上には、鼓動の演出すら表示されない。
澪
『私の中の音まで……消えた?』
優斗も立ち上がり、慌ててミオのところへ向かう。
【教室内・優斗と澪】
優斗、澪の前に立つ。
お互いに、何か言葉を探して口を開くが、音はない。
優斗はすぐにそれを諦め、手話を思い出すように、ぎこちなく手を動かす。
優斗(手話・拙い)
『大丈夫? 具合、悪い?』
澪、優斗の手の動きをじっと見て――小さく首を振る。
目だけが「違う」と訴えている。
澪、黒板、教壇、クラスメイトの口を順に指さし、
最後に自分の耳と胸を押さえる。
澪(手話/早口)
『みんな、音、ない。
世界、静かすぎる』
優斗、ようやく理解して、教室全体を見渡す。
クラスメイトたちはざわざわと騒いでいるが、それは“無音のざわめき”。
優斗、窓際へ駆け寄る。
窓の外。校庭でサッカーをしている生徒。
ボールがポストに当たる。
歓声が上がる。
だが、どれも聞こえない。
優斗(心の声)
「……世界から、音が消えた?」
【廊下・非常ベル】
廊下の天井に取り付けられた非常ベルが、赤く点滅し始める。
しかし、ベルの音はしない。
別のクラスの教師が、慌てて廊下を走っていく。
口は何かを叫んでいるが、音はない。
【教室】
担任が手を叩き、クラスに指示を出す仕草をするが、無音。
その様子に、じわじわと恐怖が広がる。
女子生徒(口パク)
「聞こえない!」「何も聞こえない!」
男子生徒(口パク)
「耳が、おかしくなったのか!?」
生徒たちの表情だけをアップにして、音なきパニックを描く。
優斗、澪の手をぎゅっと握る。
澪、驚きつつも、その手を握り返す。
優斗(心の声)
「澪は、ずっとこんな世界にいたのか。
――いや、それとも、今はそれとも違う“何か”なのか」
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【中庭・避難誘導】
生徒たちが校庭に避難してきている。
教師たちはメガホンを使い、生徒たちを整列させようと必死だが、
その声は一切聞こえない。
風でメガホンのストラップが揺れる。
木々の葉がざわめく。
でも、ただ揺れだけがあり、音はない。
校長(メガホンで叫ぶが無音)
「――――――!!」
校長の口パクに合わせて
『落ち着きなさい! 必ず原因はわかります!』
しかし、その「落ち着け」という声が届かないことで、逆に混乱は広がる。
優斗と澪、少し離れた場所に立っている。
周りの生徒たちの不安そうな顔、泣き出す者、怒鳴る仕草をする者――。
優斗は、空を見上げる。
朝の飛行機雲は、さっきよりも太く伸びている。
その先に、微かに光る何かがあるように見える。
優斗(心の声)
「さっきの坂の途中でも、変な感じはしてた。
――これは、たまたまなんかじゃない」
澪が、制服のポケットからスマホを取り出す。
画面にはニュースアプリの通知が表示されている。
『世界各地で“音が聞こえない”現象発生 』
『原因不明の“サイレント・インパクト”か』
次々とポップアップ通知が重なる。
『緊急記者会見予定』『交通機関に混乱』『医療機関に問い合わせ殺到』など。
澪、優斗にスマホを見せる。
優斗、眉をひそめる。
優斗
(口パクだけで)「サイレント……?」
澪、画面をスクロールし、
“原因候補:某研究施設での実験”という文字を見つける。
テロップ:『音響エネルギー研究機関での事故との関連も――』
ミオの目が、わずかに震える。
澪(手話)
『音の研究。
世界から、音を消した?』
優斗、スマホ画面の施設写真を見て、どこかで見たことがあるような既視感を覚える。
画面には、あの冒頭の研究施設によく似た建物。
優斗(心の声)
「――何だ、この感じ。
前にも……夢で、見たことがあるような」
画面が、研究施設の写真と、ユウトの瞳に映る
【放課後・図書室】
学校は一時的に自宅待機をすすめているが、
優斗と澪は、許可をもらい図書室に残っている。
図書室には、数人の生徒。
みなイヤホンを耳に当て、音楽を再生しようとするが、
誰も音が聞こえず、肩を落とす。
図書室のスピーカーからは、校内放送が流れている……はずだが、無音。
モニターには、校長らしき人物が何か説明している映像が映っている。
優斗と澪は、窓際のテーブルに向かい合って座っている。
机の上には、本が山積みされている。
タイトルの背表紙:
『音の科学』『人間の聴覚』『音楽と記憶』『静寂の心理学』
優斗、ノートを開いて、ペンを走らせる。
優斗のノート
『レポートテーマ:音が消えた世界で、僕らは何を聴くのか』
澪はその文字を見て、目を細める。
それから、自分のノートを開いて書き始める。
澪のノート
『音は、空気の振動。
でもわたしには、元から少なかった。
それでも、みんなが笑っているとき、
“何か”はちゃんと聞こえていた。
――それも、今は、消えた。』
澪、ペンを握る指が震える。
優斗、そんなミオを見て、迷った末、
自分のイヤホンを取り出し、テーブルに置く。
優斗
(口パク、ゆっくり)
「これさ。
俺にとっては、“世界を狭くする道具”みたいなもんだった。
周りの音、全部消してくれるから」
澪、小さく首をかしげる。
優斗、イヤホンを指でつまみ、表情を少しだけ苦いものにする。
優斗(心の声)
「どう言えばいい?
音がある世界が、当たり前だった俺が、
澪に“静かさ”の話なんてしていいのか」
優斗、ノートに書いてミオに見せる。
ノート
『本当はさ。
教室のガヤガヤとか、
電車の音とか、
全部、うるさくて嫌いだった。
だから、いつも音楽で上書きしてた。』
澪、その文字を読んで、少し驚いたような顔。
澪、自分のノートにゆっくりとペンを走らせる。
澪のノート
『わたしは、
その「うるさい」が、うらやましかった。』
優斗、言葉を失う。
図書室の窓の外。
夕方が近づき、空の色がわずかにオレンジに変わり始めている。
その空を横切る飛行機雲が、また一本増える。
優斗(心の声)
「同じ世界にいて、同じ景色を見ているのに、
聴こえてるものがまるで違ってた。
――なのに、今は、俺もミオと同じ“静寂”にいる」
図書室のドアが開く。
が、開閉音はない。
入ってきたのは、理科教師の女性・葉山(30代)。
白衣を片手に持ち、少し疲れた表情。
葉山
(メモ帳を取り出し、生徒たちに示しながら)
『帰宅できていない人は、図書室に待機してて下さい。
先生も一緒にいます。』
数人の生徒が頷く。
葉山、優斗とミオのところへ歩み寄る。
二人のノートに視線を落とす。
葉山
(口パク+メモ)
『レポート、こんなときでも進めるなんて、感心ね。
――音のことを、調べてるの?』
優斗、少し戸惑いながらも、頷く。
葉山、窓の外を一瞬見てから、
何か決心したように、ノートを取り出して書き始める。
葉山のノート
『先生、昔、あの研究施設にいたの。
ニュースで見たかしら。
“音を操作する実験”をしていたところ。』
優斗と澪、同時に目を見開く。
優斗(心の声)
「やっぱり……あの施設が、関係してる?」
葉山は続けて書く。
葉山のノート
『今日のこの現象――
わたしには、まったく知らないものじゃない。
何年も前、同じような実験で、
一人の子どもの“世界の音”が、消えたことがある。』
澪の表情が、こわばる。
澪
『一人の子ども……?』
葉山、その視線に気づき、言葉を選ぶようにペンを止める。
【図書室・夕方】
窓の外はオレンジ色に染まり、影が長く伸びている。
図書室の照明が点く。蛍光灯のちらつき。
しかし、点灯音はしない。
葉山、もう一度ペンを持つ。
葉山のノート
『その子は、“音がうるさい”って、いつも言ってた。
世界中の音が、ぜんぶ、頭に流れ込んでくるみたいだって。
だから、実験で“少しだけ音を弱める”はずだった。
――でも、失敗した。』
優斗、息を呑む表情(音はない)。
葉山のノート(続き)
『結果、その子は、
自分の世界から“音”を失った。
耳は問題ないのに、ね。
医者にも、科学者にも、説明できなかった。
あの子は、ずっと“沈黙の世界”で生きることになった。』
澪、自分の胸に手を当てる。
澪
『それって――わたしと、同じ?
……いや、違う。
わたしは、生まれつき。
その子は、途中から……』
葉山、ふとペンを止め、二人を見る。
何かを言いたそうで、躊躇う。
優斗(ノートに書く)
『先生、その子は、今……どうしてるんですか』
葉山、視線を泳がせてから、ゆっくり書く。
葉山のノート
『……わからない。
研究は中止され、
わたしは、あの施設を離れた。
――でも、今日の“音の消失”の波形、
ニュースで一瞬映ったグラフを見て、
確信した。
あのときの実験のデータが、
使われてる。』
優斗、ぐっと拳を握る。
優斗(心の声)
「誰かが、また同じことをした。
今度は、一人じゃなく、世界中に」
澪、自分のノートに書き始める。
澪のノート
『音が消えた世界で、
音を取り戻す方法は、ありますか。』
葉山、その問いを見て、
少しだけ苦しそうに笑う(無音)。
葉山のノート
『――わからない。
けれど、“音を奪った仕組み”を知っている人たちは、
どこかにいる。
その中心が、あの研究施設だとしたら……』
優斗、窓の外の空を見る。
もう夕焼けは終わりかけ、薄暗い群青が広がり始めている。
遠くの丘の上に、施設のシルエットが浮かび上がる――ようなイメージカット。
優斗(心の声)
「もし本当に、そこが原因なら――
“音を返せ”って、言いに行くしかないだろ」
優斗、決意を固めたように立ち上がる。
椅子が引かれるが、もちろん音はしない。
澪も、驚きながら立ち上がる。
スカートの裾がふわりと揺れる。
葉山
(慌てて手を伸ばしつつ、メモ)
『どこへ行くつもり?』
優斗、自分の胸を指さし、
そのまま窓の外――あの施設の方角を指差す。
優斗(口パク+手話を混ぜながら)
『音を、取り戻しに。
――俺たちの世界の、音を』
その言葉に、澪の目が大きく見開かれる。
しばらくしてから、彼女はゆっくりと、自分の耳に触れ、
そして、優斗の胸に手をあてる。
澪(手話)
『わたしたちの、音。』
澪、微笑む。
その笑顔は、不安も混じっているが、どこか希望を含んだもの。
図書室の窓ガラスに、二人の姿と、沈黙の夕空が映り込む。
遠くで、雷光のような瞬き。
しかし、雷鳴はない。
ナレーション
『――この日、世界中から音が消えた。
沈黙の中で、
彼らは初めて、“本当に聴きたいもの”に、
耳を澄ますことになる。』
カメラが窓の外へ抜け、
街全体の俯瞰。
車、電車、人々――すべてが“無音のまま動く”不気味な光景。
最後に、遠くの丘の上、
薄闇の中でぼんやりと光る研究施設のシルエット。
アニメとかや映画見てて色を題材にしたアニメは
あるし、声を題材にしたアニメはあるし
と思いながら、じゃあ音を使ったやつないじゃん
と思い書かせてもらいました。




