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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

風雨とフーウ

子供にとって鴉は神だったのか悪魔だったのか

※あらすじにも書きましたが念の為、残酷な描写や子供に対する虐待描写があるので閲覧注意です。

苦手な方や精神的に弱い人どうしても見たい人は自己責任でお願いします。

この物語はフィクションです。

8月31日

〇〇市某所、11時5分

事件は起きた

〇〇一家殺人事件

両親だけ殺され、子供が一人生き残ったこの事件

世間はいまだ夏休みの最後を満喫する子供達の笑い声が響く

夏休みの終わりに起きた凄惨な事件は何故-

起きたのか

我々報道陣が警察や関係者への取材で見えてきた真実

今夜その真相をお伝えします


事件の起こした容疑者の名前は自称 からすと名乗る男

まずは彼の過去を振り返ることから始まる


彼は過去の自分のことをこう語った


俺は普通の犯罪者

なんのこともない、ただ子供の頃家庭環境も悪く金が無い

学も教養ないからまともな職もつけない

今日も仕事をクビになった

ただ分かるのは幸せな人間を見ると無性にバラバラにしてやりたくなる


借金に困った俺はいつしか強盗に手を付けるようになった、ほかにも空き巣スリひったくりなんでもやった

他にも薬物売買とか反社会的な危ない事柄も経験してる

世間から見てもかなりの極悪人だろう

運が良いのか悪いのか

「一応今は」殺しはしていない、刑期が重くなるし死刑もあり得るからな

「いつかはどうせ」やるんだろうが

今日も戸締りの緩い適当な家を見つけて強盗だ

その手にナイフを握りしめて

もう何回も行ってることだ

慣れすぎてコンビニにでもフラッとよるような感覚だった

最初にあった汗ばむような緊張感も今になっては忘れていた

どこの誰でもよかったし、金持ちでも貧乏人の家でもよかった

金持ちは家の防犯対策があるので

サクッと盗める家の方が都合がいい


いつしか俺の本当の目的は金じゃなくて盗むことそのもに快感を覚えていた.

次第にターゲットは「幸せそうな家族のいそうな家」になっていた


ここまでが容疑者である男の過去だ


幼い頃の家庭環境の確執-

上手くいかない毎日

強盗を繰り返す毎日

そんな毎日を繰り返していく内の、ある日-

8月31日の、11時5分

事件は起こった


現在留置場にいる容疑者から我々取材陣へあてた手紙に

事件が起きた日のことが事細かに記されていた


その日は雷を伴う大雨の日だった

そうして俺はある家に忍び込んだ

いつもように手慣れた手つきでカギをぶち壊して侵入する

後はありそうな場所を適当に漁って荒らして適当におさらばするだけだ

人がいれば手に持ってるナイフで脅して縛って転がしておく

そんな状況はもう何度も経験した

そういつも通りやる


それだけだったはずなのに

今日はなんて日だ

どうやらとびっきりついてない日だったらしい


運の悪いことに

この家には父親と母親と子供一人の三人がいた

しくじった、前に確認した時は最低でも母親と子供しかいないと踏んでいたが

前も今日も平日の昼間なのになんで父親と子供までいやがる

きっと有給でもとってたとか子供が台風で休みとかそんな理由だろう

まぁ理由なんてどうでもいい

片方は女とはいえ大の二人相手は厳しいな

ここは一端撤退すべきか?

無理だな

出入口をあろうことか父親がふさぐようにたっていて

母親と子供はおびえるだけで何もしていないが父親はそうとう苛立っていたのか分けの分からない言葉を喋ってこっちに向かっていく

その姿に俺は微かなイラつきを覚えていた

その父親の姿を昔見たことがある

俺の父親と母親だ


そう考えたら俺は気づいたら父親と飛び交っていた

頭で考えるとかじゃなく本能でアイツを殺したいと思った


そして―

俺は一心不乱にナイフをアイツに突き立ていた

父親の方の意識がなくなると今度は女の方に駆け出して

またナイフを突き立てる、ブシャと雨のような赤い血液が飛び散って舞う

ひと突きで死んだ父親の方と違って女の方は何か分けの分からない言葉をもがき苦しみながら血の海に沈んだ

「あの子なんて生まれなければよかった!」

そう何故だか無性に腹が立つ言葉を喚き散らかしながら


血の海とかした床、地面に転がる二人の死体を見て俺は正気に戻った

バカな奴だな俺は

勢いに任せて殺しなんかしちまって

ヒトとしての最後の一線こえちまったよ

逃げれなくても、多少ボコられるかもしれんが警察のお縄にかかって刑務所で安全に過ごす方がマシだったろう


この世に神がいるとしたら、今までの悪事のツケを払わされたってことだろう

まぁ俺はどこから見ても誰が見ても悪魔なんだがな


「・・・ありがとう」

「殺してくれてありがとう」

だが―

そうではなかった

あの子供にとっては

「救ってくれてありがとう・・・お兄さん」

ありがとう、そう感謝の言葉を伝えたこの家の子供

身にまとっている衣服はボロボロで全身傷や痣だらけ

ごはんもろくにとっていないのか、その体はひどく痩せ細っていた

無意識に手からナイフが落ちていく

大きな雷鳴が視界をピカッと覆いかぶさっていく視界

一瞬真っ白になる

ああそうか

きっとこの子は俺と同じカスみてーな親に虐待された子だ

子供の目は最初こそ怯えて震えていたが、今の俺を見る目はキラキラとした羨望の眼差しに代わっていた

あの子供の眼差しには救世主に見えたらしい

まるで俺を神様かヒーローかと勘違いしてる目だ


そういや昔テレビで見たヒーローに憧れてったけ・・・


ほどなくして俺は捕まって死刑が確定するのをまつばかりの日々だ

だけど―

こんな俺でも最後の最後に誰かを救えたのかだろうか

クズのくせに幸せな死に方してんじゃねーよ俺

「私、将来お兄さんみたいなヒーローになる!」

その笑顔はきっと久しぶりの心からの―

笑顔


これが容疑者の書いた手紙に記されいた事件の詳細だった


強盗殺人犯が両親だけを惨殺して子供だけを見逃した

事件は人々に衝撃を与える

男の起こした行動、後に男が書いた事件の手記は本人の了承後

本として出版されることとなった

ペンネームはからす

鴉の行動、そして手記は社会の片隅

ネット上やSNSで小さな論争を巻き起こしていた


これは事件後保護された子供が語ったインタビューの言葉だ

「お兄さんは私を助けにくれた神様です」

「市役所の人も学校の先生も周りの人も助けてくれなかった、お兄さんだけが私を助けてくれました」

(この映像は未成年プライバシー保護の為加工された音声のみとなっております)


事件の後、子供は精神的ショックが大きく正常な判断が出来ないと診断され

現在も医師によるカウンセリングが必要と判断され入院している

心理学の専門家や臨床心理士、精神科の専門家などから

処置が施されている


後に事件を起こした被告は裁判所でこう語った

「俺の小さい頃と重なってムカつく・・・だから殺した、女の子は可哀そうだから何も出来なかった、僕はただの人殺しです」

「死刑でいいです」

下った判決は、無期懲役

この判決は男の死後神格化され、模倣犯を生み出される可能性があったためだ


それらに対するネットの反応

「何故子供だけを見逃したのか?」

「彼の行動は本当に悪だったのか?」

「彼の行動が無ければ子供は助けられなかったであろう」

「きっと子供だけ生かして苦しむ姿を楽しむ類の悪魔に違いない」

「両親の仇!とか言って復讐しにくる奴を育てたかった中二病だろ、名前が鴉(笑)」

「誰が悪いとかじゃない大人は全員クソだよ、全部大人が悪い」


テレビのコメンテータ

「どんな理由があるにしろ、殺人は肯定されるべきではない」

「彼の家庭が不幸などでないただの快楽殺人者ならこのようなことは起こらなかった」

「子供が両親が死ぬことで解決するのを望むはずがないだろう」

「まず政府や児童相談所やこども家庭庁の怠慢がこの事態をー」


この問題、彼の行動には社会を変えるだけの力は無い

全てはたまたま起きたこと、そう我々報道陣そして警察、識者は結論付けた


それから十数年、あの日と同じ雨と風が強い日

あの時の子供は―


「お兄さん・・・今日も私はあの時の私を救っているよ」

「きっと、鬼は鬼しか産まないんだね・・・ねぇお兄さん」

「感謝されたいわけじゃない、それでも私は―」

彼女は児童相談所では解決できない虐待されてる子供を救うために

その家庭を探し出し、殺人を犯しては児相に通報するという

世間を騒がす連続殺人鬼として、世間を騒がしていた

まるで十数年前のあの事件の再現だと―

そう人々は口々に言った


彼女はこの結末で幸せだったのだろうか

それは誰にも分らない


彼女は虐待されている子供の親を殺すことが救いとは限らないことを知っていた

「ただ愛されたかっただけなのに、出ていけ悪魔!」

涙を流しそう訴えるあの日の私もいた

ただ愛されたかっただけ

きっとそれはあの日奥底に置いてきた私の―


彼女は本当に救われていたのか、それは救いだったのか

子供にとって殺人鬼は悪魔だったのか神様だったのか

鬼から生まれるのはやっぱり鬼の子だったのか

もし、違う世界があるなら

彼女が違った形で救わる未来もあったかもしれない


報道番組はここで終了

ここからは神(物語を作る者)の視点で話させていただこう


これは可能性の物語

ほんの少しの選択で未来は変わっていく


例えば

彼女が自ら裁きを下していれば

異世界に転移して自分の為の物語を紡ぎ得たかもしれないし

自らその生を断っていれば

天使として転生し少女漫画みたいな恋をしたかもしれない

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