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三つ子の魂百までも(社畜の魂も)

 三つ子の魂百までも。

 それは転生者にも当てはまるのだろうか。少なくとも、三つ子以降に形成された社畜の魂は時空を超え、新たな家族を得た後も、脈々と社畜たりえていた。


 前世の、ホワイトカラーな家庭と、今生の家庭にそうギャップがなかったのも、社畜魂が生きながらえた要因かもしれない。そのせいか、転生して若返ったにもかかわらず、目つきがどうにもくたびれたおっさん臭い。

 トコヨさんにも「お坊ちゃまは目が死んでます」などと評される始末だ。


 他の特徴としては、元日本人転生者のお約束なのか、黒髪である。トコヨさんが黒っぽいので(皆は紫と認識しているようだが)気づかなかったが、この世界において黒は珍しいとのことだ。そして、誰に似たのか、くるくる天パである。


 髪色でイジメられたりはしなかったが、転生者ゆえ、幼少期から小難しいことを述べていたのだろう。同世代からはハカセと呼ばれ一目置かれていたように思う。幸いにして視力は良いので、瓶底眼鏡とは無縁だが。


「はい、覚悟を決めてくださいね。では、最初は伯爵家3女の…」


 ええと、もう少し現実逃避をしようじゃないか。

 美辞麗句に彩られてはいるが、あんまり中身のない手紙。それを朗々と読み上げてくれるトコヨさんには申し訳ないが、どのみち回答はNO一択である。


 なにせ俺は今生においてまだ16歳なのだ。

 前世感覚では早すぎだし、もしかしたら今生こそは、どこかに素敵な人が待っているかもしれない。


 そんな非モテ系の妄想をする俺の前世は、典型的なオタクインドア人間だった。服装にも無頓着で、ヨレていようがほつれていようが、清潔で着心地が良ければ何年でも同じ服を着まわしたいタイプである。黒のタートルネックばかり持っていたという某カリスマ経営者にはこの上もないシンパシーを感じる。


 母からは「タークの普段着はどこかやぼったいのよねぇ。礼服だとしゃんとしてるのに、不思議だわ」などと言われ続けてきた。なお、礼服でしゃんとして見えるのは、社畜スキルが未だ健在であるためかと思われる。


 つまるところ、今生においても、残念ながら容姿関連パラメータにポイントは振られていなかったのだと俺は実感している。転生した社畜は、16年をかけて、標準体型の黒髪天パ目つき悪いモブ、に成長したのだ。


「…というわけですが、伯爵家3女にお会いしてみますか?」

「要約すると、わがまま放題な娘だけど、血筋と器量は良いのでもらってくれない、ってことだよね? 確かにうちは準貴族だから雲の上の人ではあるけど」

「では、保留ですね。次は男爵家次女です」

「え、あの、ちょっと…お断りを…」


 今生の我が家、父は官僚で(社畜ではなさそう)、その父の職位で、我がクロスホース家も準貴族に引き上げられている。母は下級貴族の娘で職場結婚らしい。子どもは兄、姉、自分の3人兄弟。兄も国家試験を乗り越えて、無事に父の部下に収まり(やっぱり社畜ではなさそう)、お家は次代も準貴族。姉も下級貴族の家に嫁いでいった。

 そんな、まごうことなき中産階級のホワイトカラーだ。


 ちなみにメイドのトコヨさんは母と一緒にやってきて、母を支え乳母として、兄と姉、そして俺を、母と協力し合って育て上げた。

 そして現在、実家に残って家を継ぐ兄、結婚して他家へ行ってしまった姉とは違い、王都に出て、魔法学園教員として一人暮らしを行う俺のサポートを、母から命じられているのだ。


「無邪気で明るい方だそうですよ?」

「…6歳だったら、まぁそうだろうね。婚約と言うより養子縁組だよ、これじゃ」

「候補として残しておきましょうか?」

「ヤメテ」


 そんな末っ子次男坊の俺は、本来は成人とともに家を出て、平民になる予定(両親としては、どこかの下位貴族家の養子の道も考えてくれていたようだが)であった。


 そこで、食いっぱぐれぬよう、何か一芸を身に着けておこうと、転生モノあるあるを踏襲し、赤ん坊の頃からボールならぬ「魔力が友達」のような毎日を過ごしてきたのだ。その結果が、今の学園准教授職であるわけだから、継続は見事に結実したといえるだろう。


 継続力とは、その対象がなんであれ、正しく「スキル」であり「才能」である。

 これは、社畜スキルの発動たる「仕事への隷属」が、魔力に対しても遺憾なく発揮され、日々の鍛錬が継続できた、そう捉えることもできる。

 

 が、社畜時代とは異なり、魔力と向き合う時間は充実していたのだ。


 それは、魔力操作能力向上という「仕事」が、かつての空虚な作文構築業務――1%しかオレンジ果汁が入っていない砂糖水を、ものすごくオレンジですよと喧伝するかの業務――などではなく「確実に自分のためになる」という実感と納得があったからに他ならない。

 己を削り、日々擦り切れてゆくような、ブルシットなジョブではなく、己を、世界に馴染ませるよう形作っていく実感を伴った経験だったためだ。


 古代中国のスーパー哲学者、孔子も「これを知るものはこれを好むものに如かず。 これを好むものはこれを楽しむものに如かず」と言っている。まさに楽しい、は正義。楽しんで打ち込むことこそが、その道で成功するための最も強力な手段なのだ。


「では、次は子爵家――」


 一方で、こんな準貴族、言い換えれば半平民の次男坊な俺に数多の縁談が舞い込むのは何故か。

 それは、俺が《魔導貴族》の地位を与えられたからに他ならない。

 あの真っ黒空間で、銀版モノリスがのたまった『以降は、魔法に地位もついてくることにしよう』の効果であろうか。


 《魔導貴族》位は、魔導、すなわち新たな「魔法」を見出し、それを「指導」可能とした者に与えられる貴族位で、その地位は子爵以上、との定めがあるのだ。


 ボール、もとい、魔力が友達な、転生者あるある――ただし可愛い幼馴染はいなかった。美人メイドはいた――に満ちた幼少期を満喫していた俺は、魔力操作が楽しすぎて、自重という概念を完全に失念していたのだ。


 そして、今も昔もクール系美人な、自称エルフの血が入っているトコヨさんに、いいとこ見せようとした当時5歳児の俺。

 どうやらいいとこを見せすぎたらしく、厳重に、入念に「常識」というものを叩き込まれたあと、

『お坊ちゃまには類稀なる魔法の才能があります』

と、生徒としてこの魔法学園にドナドナされてしまったのだ。


 そこで、厳重に、入念に「常識」を持った人であることと、あまり目立たない「土魔法使い」を装って、これまで身に着けた数多の非常識技術の中でも比較的常識寄りな魔力操作を披露した結果、早期卒業を経て史上最年少教員として着任、という今を手に入れたのだ。

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