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3話 願いの森の冒険

 パンを小さな口で頬張り、もぐもぐと愛らしく咀嚼しながら、ユイはふいに俺を見上げて微笑んだ。頬にはほんのりと紅が差し、青い瞳がわずかに揺れている。


「あのね、わたし……あの本のような冒険がしたいなぁ~」


 その声はどこか夢見るように甘くて、金髪が風に揺れながら光を弾き、潤んだ瞳が上目遣いで俺を見つめてくる。――そんなふうに頼まれて、断れるわけがなかった。


「ちょうどいい場所があるんだ。あの本の舞台に少し似てるかもしれない。行ってみるか?」


「うんっ!」


 ユイは嬉しそうに両手を胸の前で軽く握って、跳ねるように歩き出す。その後ろ姿を追いながら、俺も自然と足を速めた。


 木々の葉が、風に揺れてやさしい音を立てていた。

 公園の奥、舗装された小道を抜けると、そこにはちょっとした林が広がっていた。まるで誰かの秘密基地のように静かで、空気さえ少し違って感じられる。


「ここ、ちょっと森っぽいだろ。冒険の舞台にはぴったりだと思ってさ」

 俺が言うと、ユイはぱっと顔を明るくした。


「ほんとだ……!ここ、すっごく“それっぽい”!」

 瞳を輝かせながら、ユイは林の中をきょろきょろと見渡す。やわらかな木漏れ日が彼女の金髪に差し込んで、まるで本の中から抜け出したような雰囲気だ。


 ふと、ユイが足元の枝を拾い上げた。少し曲がった細い枝を両手で構え、ぴしっとポーズをとる。


「見てっ!これ、勇者の杖にする!」

「勇者って杖なのか?剣だろー」

「むぅ、いーのっ!……じゃ、これ剣ね!」

「勇者か。じゃあ俺は……従者役か?」

「えへへ、でもかっこよくしてね?」


 そう言って笑うユイは、どこか得意げで、それがまた微笑ましい。

 俺も道端に落ちていた木の葉を胸に飾って、「騎士団風の従者」という設定で彼女の横に立つ。


「この森の奥には、願いを叶える精霊が眠っている……」

「でも、試練があるって、伝説には書いてあるんだよね!」

「さすが勇者。よく読んでるな、伝説の本」

「うふふ、読んだもん!」


 会話のたびにユイは小さく笑い、時折「きゃっ」と軽く走ったり、茂みの向こうを指差したりする。

 「ここにモンスターが出ることにしよっか!」「じゃあ俺が盾になる!」なんてやり取りを繰り返しながら、林の中を少しずつ進んでいく。


 ――それは、ほんの少し汗ばむくらいの探検。

 けれど、たしかにそこには“冒険”があった。彼女にとっても、俺にとっても。


「……ねえ」

 ふと立ち止まって、ユイが空を見上げた。

「……この時間、ずっと続けばいいのに」


 そのつぶやきは、小さくて、でもとても強く心に残る。

 俺は笑って、答えた。


「だったら、また来よう。冒険のつづき、まだ残ってるしな」


「うんっ!」

 元気よく頷いたユイの声が、林に明るく響いた。



チャプター5:帰り道の約束

 空が茜色に染まりはじめる頃、ふたりは森を抜けて、ゆっくりと公園の道を戻っていた。


「たくさん歩いたね……!」

 ユイが木の杖――いや、“勇者の杖”を手に笑った。額には少し汗が滲んでいて、それでもその表情は満ち足りたもので。


「ああ、いい冒険だったな。何匹くらいモンスター倒したっけ?」

「えっとねー、キノコのモンスターが3体と、森の狼が2匹、あと……幻のドラゴンの影!」

「ドラゴンの“影”ってのがまた渋いな」


 ふたりで笑い合いながら、道を歩く。ときおり吹き抜ける風が、ユイの髪をふわりと持ち上げた。

 木の葉が夕日に照らされてきらきらと揺れ、どこか魔法の余韻がまだ残っているように感じられた。


「ねえ……今日みたいなの、またしたいな」

 ユイがふと、足を止めて言った。


「いつでも付き合うよ。勇者殿の命令ならな」

 軽く笑って返すと、ユイは照れたように目を細めた。


「じゃあ……今度は、ちゃんとお弁当持って行こうよ。森の奥に“ピクニックの泉”を見つけるってことで」

「了解、任務に追加だな」

「あとね……」


 言いかけて、ユイは少しだけ躊躇したように俺の方を見た。けれど、すぐに小さく微笑む。


「……また、こうやって一緒に笑えるのが、嬉しい」


 その言葉がやけに真っ直ぐで、俺の胸に優しく届く。

 日が落ちかけた空の下で、ふたりの影が長く伸びていた。


「ユイ」

「ん?」

「また来ような。何度でも」


 彼女は嬉しそうに頷き、夕日に照らされてその瞳が少し潤んで見えた。

 ふたりの帰り道には、静かな風と、どこか特別な絆の気配が漂っていた。

お読みいただきありがとうございます(≧▽≦)

ここで、異世界へと……展開を試みたww

長編になりそうな感じだったので、やめておきましたぁ✨

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