表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

10話 朝の照れ隠し

 ――気づけば、窓の外が少しだけ明るくなっていた。


 カーテンの隙間から漏れる、ほんのりとした朝の光が、部屋の空気をすこしずつ染めていく。

 ユイはまだ、俺の隣で小さな寝息を立てている。


 ほんの少しだけ、頭を預けてきたユイの重さが、心地いい。

 その無防備な寝顔を見るたびに、胸の奥が温かくなる。

 怖い夢を見たのか、それともただ寂しくなったのか。

 それを全部言葉にしなくても、こうして寄り添ってくれたことが、なんだか嬉しかった。


 ユイの髪が、朝の光にふわりと照らされて、金色に揺れる。

 指先が、その髪に触れそうになって――やめた。

 こんなに近くにいるのに、何も触れられない。

 触れたら、きっとこの距離感が崩れてしまいそうで。

 それが少しだけ、怖かった。


「……ん……ユウ……」


 小さな寝言のような声が、唇の端から漏れる。

 思わず心臓が跳ねた。名前を呼ばれただけなのに、それがやけに特別に思えてしまう。


 俺は、静かに息を吐いて、そっと目を閉じる。

 胸の中にまだ残るざわつきを、少しずつ静めるように。


 ユイの存在が、だんだんと大きくなっていくのを感じていた。

 でも、それが恋なのか、守りたいという気持ちなのか、まだ自分でもはっきりしない。

 ただ――


 この時間が、もう少しだけ続けばいいと、そう願っていた。


 やがて、ユイがゆっくりとまぶたを開いた。


「……ん……あ……」


 小さな声と共に、体をもぞもぞと動かす。俺の肩にもたれかかっていたことに気づいたのか、ユイはぱっと身を引いた。


「ご、ごめんなさいっ……!」


 慌てて距離を取ろうとするその姿に、俺はつい笑ってしまった。


「謝らなくていいよ。ちゃんと眠れた?」


 ユイは一瞬、口をへの字に曲げたあと、こくんと頷いた。けれど、頬がうっすら赤く染まっているのは隠せない。


「……うん。……あったかかった……から……」


 その一言が、心にふわっと染み込んだ。


「そっか。それならよかった。」


 俺が優しく返すと、ユイは恥ずかしそうに視線を逸らしながら、ぽつりとつぶやいた。


「……ユウが、そばにいてくれると、安心するんだ……」


 心がまた、軽く跳ねた。


「俺も、ユイのこと、守りたいって思ってるよ。」


 その言葉に、ユイはちょっとだけ口元を緩めた。

 でも、次の瞬間、真剣な表情でこちらを見つめてくる。


「……ねえ、ユウ。わたし、変かな? こんなふうに、一緒にいてほしいって思うの……」


 その問いに、俺はしばらく言葉を探して――でも、すぐに笑って答えた。


「ううん。変じゃないよ。ユイは、ユイのままでいい。俺も、そんなユイが好きだよ。」


「……!」


 ユイの瞳が見開かれる。

 そして、言葉を失ったように黙ったあと、ふわりと、微笑んだ。


「……ありがとう、ユウ」


 朝の光が差し込む部屋の中、

 ささやかな「ありがとう」の声が、心に優しく響いていた。


 朝ご飯を一緒に食べたあと、ユイはどこか落ち着かない様子で、ユウの服の裾をそっと掴んできた。


「ユウ……今日は、いっしょに、どこか……おさんぽ、行きたい」


「ん、もちろん。じゃあ、少し歩こうか」


 休日の午後、二人はのんびりと住宅街の道を歩いていた。ユイはまだ少し眠たそうだったけれど、時折空を見上げては小さく微笑んでいた。


「昨日は、ありがとうね……」


 ぽつりとこぼれた言葉に、ユウは横を向く。


「なにが?」


「……夜、隣にいさせてくれて……ほんとに、安心した」


 ユウはその言葉に、一瞬だけ胸が詰まった気がした。


「俺も、隣にいてくれてよかったよ。嬉しかった」


 ユイは少しだけ驚いたように目を見開き、そしてほんのりと頬を赤らめる。


 それからしばらく、二人は静かに歩き続けた。


 帰り道、夜風が頬を撫でる頃――

 ユウはそっとユイの手を握った。


「……!」


 ユイは少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑顔を浮かべて、その手を握り返した。


「ユウ……」


「うん、手を繋いでみたくて」


「……嬉しい」


 そう言って笑ったユイの表情は、昨夜の涙を忘れるくらい、明るくてあたたかかった。


 しっかりと繋がれたその手のぬくもりが、夜の寒さよりもずっと、心を包んでくれていた。


 そして、二人の歩みは――そっと重なって、新しい関係のはじまりを告げていた。


《おわり》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ