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 一階の広間から、二階へ移動する。

 二階は居住空間で、最初に視界へ入ってくるのは列柱廊だ。広々とした廊下の真ん中にだけ、一般的な成人の身長ふたり分はある高い柱が何本も並んでいて、外に面する所は壁になっている。壁に窓はあるが、数は少なめだ。これも防犯上の理由だった。

「今日はなに?」

 柱廊を歩きながら、隣の男神へ問いかける。

「羊肉と野菜のシチュー、パン、あとチーズ」

「シチューというと、前にも作ってくれたあれ?」

「そう。具材はちょっと違うけどな。今日はカブの代わりに、じゃがいもを使う」

「カブ……あ、前回がカブのポタージュだったから」

「連続だと飽きるだろ」

「私は気にしないけれど」

「おれが気にするんだよ」

 二日おきにしかまともな食事をとらない女神と違って、男神は毎日しっかり食べている。そうなると、飽きの感じ方も違うのだろう。

 男神と食事を共にするようになってから、五十年は経つ。しかし、同じ献立が連続した覚えはほとんどない。調理方法が同じでも今回のように入れる食材を変えたり、付け合わせを変えたり……工夫を凝らしていた。言葉遣いからは想像しにくいが、几帳面な性格なのだ。

 いくつかの扉を過ぎ、突き当たりになる。

 女神が住むのは、一番端の部屋だ。中はどこも似たような造りで、神であっても精霊であっても差はない。

 かまどが備え付けられている厨房の小部屋に入って、男神は担いでいた大きな袋を台の上にのせる。台には他に、油や調味料の壺がある。どれも男神がここに置いていったものだ。女神は料理をしないので、厨房はほとんど男神専用になっている。

「今日は、手伝いはしなくていいよ」

 ついてきた女神へ、男神は言った。

 毎回、ただ待つだけも暇なので、料理の手伝いをしている。とは言っても基本的には、必要な道具や調味料を手が離せない男神へ手渡すとか、食器を用意するくらいなのだが。

「今日のおまえは、いつもよりぼうっとしてるから。危なっかしくて逆に調理に集中できなさそうだ」

 そう指摘されてしまうと、反論の余地がなかった。女神自身も、今の自分は目の前のことに集中できる状態ではないと感じていた。

「……確かに。野菜を切ってなんて頼まれたら、間違えて指をざっくりいく自信があるわ。シチューに私の指が追加で煮込まれてしまうかも」

「怖いたとえするなあ……ってか、煮込む前におれが確認するんだから、指は煮込まないよ。あと野菜は切ってきてある」

 それもそうだ。

 なるべくすぐ完成するよう、男神は毎回下ごしらえを済ませてここに来ている。女神に食材を切ることを頼む時は、本当にまれだ。

 今日だって、男神の持ってきた袋から取り出されるのは、すでに皮が剝かれて一口大に切られたじゃがいも、角切りにされた羊肉などである。

 邪魔にならないように女神が厨房から出ていこうとすると、「ちょっと待ってろ」と引きとめられる。

 言われた通りに、大人しく待つ。

 手のひら大の銀のボウルを、棚から取り出す男神。その中へ、様々な粒をざらざらと入れていった。

 女神は銀のボウルを手渡される。

「煮込むのに時間かかるからさ。出来上がるまで、これでも食べててくれ」

 伝え終わると、女神の背中をぽんっと軽く押し、退出を促してきた。

 以前、『同年代だと思って接してくれて構わない』と許したのは女神だが、今のこれは同年代と言うより、子ども扱いな感じがした。

(まあ、それでも構わないけれどね)

 同年代扱いでも、子ども扱いでも。どちらでもよかった。どちらでも居心地が悪くなるわけではない。

 女神は、男神へと静かに頷き、小部屋から出た。そして、扉を閉める。

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