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お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!  作者: ユーコ
笑い蜘蛛《わらいくも》 スレッドベイン

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05.スレッドベイン戦1

 魔法陣が鳴動し、現れ出たのは、悪夢のような巨体だった。

 体長はおよそ十五メートル。

 脚を広げれば全幅は四十メートルを優に超える。

 巨大な岩の塊が生きて動いている、そうとしか考えられないほど、その存在は圧倒的な威容を放っていた。

 硬質な外殻に覆われた()本の脚は巨木のような太さだった。

 頭部にあたる頭胸部は、成人男性が両腕を広げても届かないほど、大きい。八つの複眼が不気味に輝き、

「キシュァッ!」

 スレッドベインはついに現世にやって来た喜びに震えながら、雄叫びを上げた。

 ウェバー達は自らの女神に深く頭を垂れる。



 少し離れた場所からこの恐ろしい光景を見つめ、ローラは息を呑んだ。

「カチュアさん……」

 ローラが怖いのは、スレッドベインなんかじゃない。

 本当に怖いのは、仲間が死んでしまうこと。


 召喚の儀式が完了し、生け贄となった女性達は、スレッドベインを現世に招く代償として死んだ。

 スレッドベインは周囲を見回し、「シュシュー」とまるで笑い声のような息を吐いた。

 現世に降り立ったスレッドベインはまず死んだ女性達を食らい、自らの滋養にするのだ。


「クキッ」

 死体に近づこうと動いたスレッドベインは、自らの八本の脚のうち、左脚の一本が欠けているのに気付いた。

 その場所は、焼け焦げている。

 くまのすけがウェバーもろとも自爆した跡だ。

 スレッドベインは失った右脚を八つの瞳で忌々しそうに睨んだが、すぐに女性達を捕食しようと動き出す……。



「うさみちゃん」

 ローラの呼びかけにうさみはハッと顔を上げる。

 声はとても透き通っていて、もう何かを決めてしまったように迷いはなかった。

「リックに、『ごめんなさい』って伝えて欲しいの。それから、皆に、『さよなら』って」


 それだけ言うと、ローラは杖を構えた。


 ローラは職業レベル3の治療師だ。

 まだこのレベルの治療師は、蘇生魔法を唱えられない。

 レベル5以上の上級治療師なら蘇生魔法を唱えられるが、ローラはその域に達してない。

 だが、そんなローラが唱えられる唯一の蘇生魔法があった。

 レベル3になった治療師が唱えられる蘇生魔法。

 そして絶対に使ってはいけないと教えられる禁呪でもあった。


 その魔法は指定した半径五十メートル以内の味方全てを蘇らせ、体力魔力を完全に回復させるという素晴らしい効果を持つ。

 だが、その代償に、術者は死亡するのだ。


 ローラは禁呪を唱えた。


「リザレクション・サクリファイス」





 白い神聖な輝きが、カチュア達を包む。

 カチュア達は生き返った。

 体力魔力が完全に回復した!


 カチュアはハッと目覚めた。

「えっ、私、生きてる?」

「カチュアさん! 危ない!」

 誰かがそう叫ぶ。


「えっ?」

 と思う間もなく、カチュアはどこからともなく生えてきたツタに絡み取られ、運ばれる。

「シャッー!」

 カチュアが直前までいたその場所には、驚くほど巨大な蜘蛛の顔があった。

 獲物をかすめ取られ、スレッドベインは怒りの声を上げた。


「!!」

 あまりのことに、カチュアは声も出ない。

「カチュアさん、大丈夫?」

 そんなカチュアに声を掛けてきたのは行方不明になっていたカチュアのママ友グレイスだった。その手にはツタが絡んでいる。

「グレイスさんが助けてくれたの?」

「そう。まさかこんなところでカチュアさんに会うなんて……」

 と彼女は困惑顔だ。

「あの、大丈夫ですか? バーバラちゃんのお母さん、ですよね?」

 ローブを着た魔法使いらしい女性が話しかけてくる。二十歳になるかならないかという年頃のその女性には見覚えがない……いや、以前会ったことがある。

「もしかして、マーガレットちゃんのお姉さん? いつもお世話になってます。キャー! 危なーい。超火力!!」


 今度は別の女性がスレッドベインに襲われそうになっている。

 カチュアはお玉の炎をスレッドベインの腹に向けて放った。

 腹はスレッドベインの急所の一つだ。

 お玉の超火力でも、距離が離れすぎていて効き目は薄いが、スレッドベインを驚かせ、攻撃のスピードを鈍らせる程度の効果はあった。

 その隙に女性は別の女性に助けられ、逃げ出した!


「ふー、危なかったわ」

「あんた、やるわねぇ。ねえ、この化け物の正体を知ってるの?」

 カチュアは見知らぬ女性に褒められた。

 大きな剣を背中に背負った女性剣士だ。

 彼女はカチュアがスレッドベインの『顔』ではなく、『腹』を狙って攻撃したのを目ざとく見ていたのだ。

「知ってるなら教えて。あたしら、訳が分からないままに掴まったから何が何だかサッパリなのよ」

 続いて弓を片手にした女性が言った。


 この場にいる女性達は全部で十四人。

 一人一人孤立しては危険だ。

 数カ所に固まってスレッドベインやウェバーと対戦している。

 この階層に来る冒険者はカチュアを除いて皆、中級以上のランクの冒険者だ。

 場所も敵の正体も分からないまま、闇雲に逃走するのはかえって危険と理解していた。

 何より――。


 カチュアは女性剣士達に今まで集めた情報を伝えた。

「この蜘蛛は邪神スレッドベインよ! 男性には強いけど、女性には弱いの。特に生け贄に選ばれた私達は、スレッドベインに特殊効果を持っていて、攻撃が通じやすいらしいわ。武器は顎。それから『死の糸』と呼ばれる即死効果のある糸を出すわ。弱点は火と頭部よ。でも頭部っていうか、正面はすごく危ないから攻撃するのは後。今はお腹を狙って!」

「オッケー、弱点は火と頭部、そして腹ね」

 女性弓使いはウェバーと彼らが呼び寄せた手下のモンスター達をスパスパと射りながら、言った。

「それとあなた達を捕まえたのはスレッドベインの手下の雄蜘蛛ウェバーよ。彼らにも十分気をつけて! 仮死状態にする糸と、操り状態にする糸の二種類を使ってくるわ」

「情報ありがとう」

 女性剣士は闘志に燃える瞳でスレッドベインとウェバー達をにらみつけた。


「良くもやってくれたわねぇ。百倍にしてお返しするわ!」


 皆バリバリのキャリア冒険者だ。

 相応にプライドも高いのである。



「共闘しましょう。皆に伝える」

 走り出そうとする女性弓使いにカチュアはあわてて声を掛けた。

「待って。皆に話す時に水魔法を使える人がいるか聞いてちょうだい」

「水魔法?」

「そうなの。蜘蛛はお腹に『気門』と呼ばれる呼吸のための穴があってそこから酸素を取り込むらしいの。だから大量の水をお腹に浴びせることが出来たら、一時的に行動不能に出来るはず!」

 さっきはとっさだったのでカチュアはお玉の火を使ったが、腹部の本当の弱点は水。

 これは『白銀の夜明け団』を始めとしたロアアカデミーの研究者達が古文書を読み解き、突き止めたことだ。

「分かった、必ず伝えるわ。私は弓使いのイラーナ。こっちの剣士はマーサ。あんたの名前は?」

「カチュアよ」

「じゃあね、カチュア。グレイスも、後でゆっくり話しましょう」

 にっこり笑って手を振ると、イラーナとマーサは他の者達にカチュアの話を伝えるべく、走り出した。


「あの、グレイスさん、二人と知り合い?」

 そんな場合ではないが、ついカチュアはグレイスに聞いてしまった。

「冒険者ギルド保育園の卒業生のママさんよ」

「そうなんだ、冒険者ギルド保育園の……」

 二人の年齢はカチュアよりちょっと上だ。

 卒業生のママさんと聞いて、急に近親感を覚えるカチュアだった。


「それより、カチュアさん、戦えそう?」

「ええ」

「あの蜘蛛、スレッドベインっていったかしら。あなたを狙っているみたい。援護するから逃げて」

 確かにスレッドベインは再びカチュアを標的に定めたようで、こっちを見ている!

「でもグレイスさん……」

「私、これでも強いのよ。行って!」

 グレイスは元Aランクのチーム『紅蓮の翼団』のメンバーだ。

 実は冒険者ランク98とかなり強い。


「あ、ありがとう、グレイスさん」

 駆け出そうとするカチュアを『マーガレットのお姉ちゃん』が呼び止める。

「カチュアさん、待って! 今魔法を掛けます」

 杖を振って「えい、体力強化付与、魔法付与」と二つの付与魔法を素早く掛けた。

 彼女は付与魔法師。

 付与魔法に特化した魔法使いで、チームのバフ役だ。素早い付与効果でメンバーの力を倍増する。

「ありがとう! えーと……」

「私、シンシアです」

「ありがとう、シンシアさん」

「カチュアさん、これを持って行って」

 とグレイスがカチュアに差し出したのは赤く咲く一輪の大きな花。アマリリスだ。

「魔花アマリリスよ。これでお互いに会話が出来るわ」


 グレイスの職業は、魔法使いの中でも珍しい花魔法師。

 花や草木を操る花魔法の使い手だ。



「ありがとう」とカチュアは胸ポケットにアマリリスを差し込んだ。

「じゃあ、行くわ」

 カチュアは駆けた。

 カチュアは囮として逃げ回りながら、最近得た新たなる力、お鍋の蓋の水攻撃で腹に水を掛ける。


「きゃーっ、こーわーいー!」

 悲鳴を上げながら、カチュアは走る!


 ――この時、長い時を経て、現世に降り立ったスレッドベインは、欲を掻いた。

 蜘蛛は生きている餌を好んで食べる。

 スレッドベインもこの習性を持ち合わせていた。

 全体即死効果を持つ『死の糸』をまき散らせば、簡単にカチュアを殺すことが出来た。

 だが、スレッドベインは好物である『輝ける魂』を持つカチュアや他の女性達を、生きた状態で食べようとしたのだ。

 スレッドベインは知らない。

 戦闘は苦手なカチュアだが、逃げ足『だけ』は速いことを。


 スレッドベインの巨体では地面をちょこまかと走るカチュアを追い切れない。

 加えて、スレッドベインは八脚のうちの一脚を欠損している。そのため小回りが効かない。

 配下のウェバー達も必死にカチュアを捕まえようとするが、

「そうはさせないわ!」

 モーニングスターがウェバーに操られたモンスターを殴りつけ、大鎌がウェバーの命を刈り取る。


「ありがとう!」

 カチュアは駆けつけてくれた二人に礼を言う。

「いいって、私はサリーよ」

 棒の先にスパイク付き鉄球が付いた武器、モーニングスターを振り回しながらサリーが、

「あたしはマリー」

 ともう一人、大鎌使いのマリーが挨拶する。

「私はカチュアよ。今、腹部を攻撃して、スレッドベインを弱らせているわ。上手く行ければ一時的に行動停止に出来るはず! そうしたら皆で頭部の八つの目を攻撃して。そこがスレッドベインの急所よ。攻撃の時は必ず目を狙って。頭部でもそれ以外の場所は効き目がないの」

 それ故に、まずスレッドベインの動きを止める必要があるのだ。

「分かった」

「援護を続けるわ」


「カチュア! 聞こえる?」

 グレイスがくれた花から弓使いのイラーナの声が聞こえてくる。

「イラーナさん!」

 カチュアも花に向かって話しかけた。

「水魔法と氷魔法が使える魔法使いが一人ずついたわ。コロンとオリーファよ。今彼女達が腹部に攻撃を仕掛けている最中。他の連中は彼女達を援護してる」

 イラーナは周囲を駆けて集めた情報をカチュアに伝えた。

 二人の魔法使いが、高さ七メートルを超えるスレッドベインの腹部の呼吸孔へ、水と氷の魔法を放っている。

 彼女達を守るように数名の女性が周囲を囲んでいるのも見えた。


「ありがとう、皆の中に攻撃が得意な人は何名いるか分かる?」

「そうね、あたし、マーサ、それとモーニングスター使いのサリー、大鎌使いのマリー、鉄扇使いのベルゼア、それに双剣使いのキャルに拳法使いのセリアってところかしら」

「七人ね。あとの人の得意技は?」

 攻撃が得意な七名。水と氷の魔法使いが一人ずつ、そして花魔法のグレイスと付与魔法師のシンシア、これにカチュアを合わせて十二名。生け贄になった女性は、もう二人いるはずだ。

「あとはメリダ。アポーツが得意な物質魔法使いよ。彼女は冒険者じゃなくて、ギルド職員らしいわ。もう一人は残念だけど、土魔法の使い手なのよ」

 物質魔法使いは火や氷のような『属性魔法』ではなく、石、鉄、木、水晶などの『物質そのもの』を自在に生成、変形、強化する魔法のことだ。

 物質魔法使いの中でも、メリダは瞬間的に物質を移動させる、アポーツの能力に長けていた。

 冒険者ギルドの職員である彼女はダンジョンに修復工事に派遣されている最中、ウェバーに攫われてしまったのだ。

 土魔法使いはその名の通り、土の属性魔法を操る。色々と便利な魔法だが、戦闘時の攻撃力に限ると、属性魔法の中では少し地味な存在だ。


 カチュアは目を見開いた。

「物質魔法使いと土魔法の使い手? 彼女達はどこ? きゃっ」

 興奮しながら話しているとつい注意力が散漫になってしまった。モススライムと呼ばれる緑色をした中級スライムがカチュアの脚に巻き付いている。

 洞窟の湿気から生まれる半液状の魔物で、動きは遅いが、触れると体力を吸収する嫌なモンスターだ。

 気持ち悪くて、上手くモススライムを引き剥がせない!

 そうしているうちにどんどんカチュアの体力が奪われていく……。


「カチュアに何するのよ!」

 そこに現れたアンが槍でモススライムを一突きした。

「アン! 来てくれたの?」

「遅くなって悪かったわ。怪我はない?」

 そう言うアンの方がボロボロだ。

 アン達はコウモリのモンスター、マッドバッドの巣を通り抜けて、激闘の末にここに来たのだ。

「ないわ。ローラちゃんは!? ローラちゃんは無事なの?」


 カチュアが今いる場所からは、地面に座り込むローラの白のローブがほんの少し見えるだけだ。

 彼女が生きているのか死んでいるのかそれすら分からない。

 カチュアはあの時、一度死んだ。

 生き返らせてくれた人物は、ローラしか考えられない。

 だがローラに蘇生魔法は使えない。

 念のために常備している蘇生魔法の巻物(スクロール)はあるが、巻物(スクロール)に女性達全員を瞬時に蘇らせ、体力魔力を完全に回復させる力はない。

 ローラは何か特別な魔法を使ったのだ。

 不可能を可能にするような、そんな恐ろしい魔法を。


 不安が、カチュアの胸を締め付ける。

 そんなカチュアを慰めるようにアンが両肩に手を置く。

「ローラのところにはリックが向かったわ。今は、無事を信じましょう」

「そうね。さっさとスレッドベインを倒さないと!」


十四人の女性

1カチュア ポーター

2グレイス 花魔法師

3シンシア 付与魔法師

4イラーナ 弓使い

5マーサ 剣士

6キャル 双剣使い

7コロン 水魔法が得意な攻撃魔法使い

8オリーファ 氷魔法が得意な攻撃魔法使い

9セリア 拳法使い

10サリー モーニングスター使い

11マリー 大鎌使い

12ベルゼア 鉄扇使い

13メリダ アポーツが得意な物質魔法使い(冒険者ギルド職員)

14ジョアンナ 土魔法の使い手

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― 新着の感想 ―
『念のために常備している蘇生魔法の巻物』。。。ローラとくまのすけがよみがえる予感が。この物語に悲劇要素は似合わないと思うのです。
錚々たるメンバー!
蘇生魔法のスクロールあるんですよね?それでローラ助かりますよね?!!!
感想一覧
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