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お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!  作者: ユーコ
笑い蜘蛛《わらいくも》 スレッドベイン

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04.スレッドベイン召喚

 チームを代表して、アンが答えた。

「答えは人間、よ」

 人間は、朝(幼少期)は四つ足で這い、昼(成年期)は二本足で歩き、夕(老年期)は杖をついて三本足になる。


 かつてはこの謎を解けず、スフィンクスに食べられてしまった冒険者が大勢いたそうだが、今では冒険者ギルドが積極的に情報提供しているので、誰もが答えを知っている。


「正解だ」


 スフィンクスの声にガンマチームはホッと安堵の息をついた。

「ではメビウスの紐を授けよう」

 スフィンクスのすぐ前に迷路クリアの特典アイテム、メビウスの紐が現れる。

 見た目は大きな黒い輪っかだ。


 ガンマチームがメビウスの紐に近づいたその時――。

 台座に座るスフィンクスが音もなく、駆けた。

「!?」

 一直線に走るその先にいたのは、カチュアとローラだ。

 そしてスフィンクスの背から蜘蛛の魔物ウェバーが姿を見せ、「シュッー」と尻付近にある『糸いぼ』から糸を吐き出した。

「きゃっ」

 糸は一瞬にして二人を巻き取り、スフィンクスの背に乗せられる。


「カチュア、ローラ!」

 アンはとっさに槍でウェバーを攻撃したが、卑怯にもウェバーはカチュア達を盾にする。


「くっ」

 これでは二人に攻撃が当たってしまう。

 すんでのところでアンは攻撃をとめた。

 その間にスフィンクスは迷路へと走り去っていく。


「くそっ!」

「スフィンクスはウェバーに操られていたのか?」

「追うわよ!」

 残されたアン達はウェバー達を追う!






 ***


 ドサッ。

 目的地まで辿り着いたスフィンクスの背からカチュアとローラは乱暴に振り落とされた。

 全身に巻かれたウェバーの糸の効果で仮死状態になっているカチュア達は身じろぎ一つ出来ない。


 ここは、スレッドベイン召喚の儀式のために作られた秘密の祭壇だ。

 ウェバー達は、五十二階に生息するキングモグラを操り、四十九層から五十三層にかけて、垂直に伸びる巨大な空洞を掘らせた。

 各階での空間は狭く、冒険者ギルドの捜索でも見つからなかった場所だ。

 さらに蜘蛛の魔物であるウェバー達は、その空洞に糸を張り巡らせ、縦穴を横断するように“地面”を作り上げていた。

 もっとも、その地面は百八十度傾いており、普通なら滑り落ちてしまうだろう。

 だが特殊な糸で編まれた床は、しっかりと踏みしめることができた。


「……」

 ウェバーは身動き一つ出来ないカチュアとローラを品定めするように順繰り見つめた。

 カチュアとローラ、実は二人とも生け贄の条件を満たした『輝ける魂』の持ち主だった。そのため二人まとめて攫われてしまったのだ。

 ウェバーはしばし二人を見つめた後、スッとカチュアの方に前脚を指し示す。


 ウェバーに操られたスフィンクスは、ウェバーの命令に従い、カチュアに近づいた。

 スフィンクスがカチュアを咥え上げようとした瞬間、カチュアが身に付けていた『防御の腕輪』が光った。

 スフィンクスは壁に叩きつけられる。

 防御の腕輪の力が反応したのだ。

 スフィンクスは行動不能になった!

『防御の腕輪』は壊れてしまった!


 ウェバーは「キキキ」と舌打ちするように顎を鳴らすと、今度は物陰からわらわらと十匹ほどのウェバーが現れ、カチュアの体を持ち上げた。

 動き出そうとするウェバー達だが、カチュアが背負っていた大きなリュックが邪魔だったようだ。リュックを外すと、ローラが倒れているすぐ側に投げ捨てる。

 それからウェバーはカチュアをスレッドベイン召喚の魔法陣まで運んでいく。

 そこでは既に囚われていた十三人の女性達がいる。

 スレッドベイン召喚に必要な生け贄の数は十四。

 十四人目のカチュアが魔法陣に乗ると、巨大な魔法陣は禍々しい色に光った。


 ついに邪神召喚の儀式が始まろうとしていた。




 ……。

 …………。

 …………むきゅっ。


 ウェバーが離れた後、カチュアのリュックから這い出てきたのは、カチュアの傀儡(くぐつ)ぬいぐるみシェフ(食料調達係)くまのすけと傀儡ぬいぐるみバレリーナうさみだった。

 カチュアがウェバーの糸にリュックごとぐるぐる巻きにされたため、くまのすけとうさみも行動不能になってしまったのだ。

 今ようやく二匹は行動出来るようになった。

 まずくまのすけが「シャキーン」と指先から鋭い爪を出し、ローラを拘束していた糸を断つ。

「うっ、ううん……」

 仮死状態のローラがゆっくりと目を覚ます。

 そんなローラの前で、うさみが踊り出す。

『傀儡 ぬいぐるみバレリーナうさみ、うさぎダンス チームに素早さ10アップの効果』

 続いてメッセージが現れる。うさみはダンスに込められたパッションで人間と会話が出来るのだ。

『踊りに込められたメッセージ:(ローラちゃん、静かに。今助けが来る)』

「……」

 ローラは愛用の杖を握りしめ、声を出さずに頷いた。

 連れて行かれたカチュアのことは心配だが、ローラ一人で勝てる相手ではない。

 今は助けを待つしかないのはローラも分かっている。

 ……分かってはいるが。

 ローラは魔法陣の方をそっと見つめた。

 邪悪な気配が近づいてきている。

 邪神召喚の儀式が始まっていた。





 ***


 その少し前、アン達は。

「スフィンクスはどこに行った?」

 アン達は懸命にスフィンクスを追いかけたが、見失ってしまった。

「こっちに逃げたと思ったんだが……」

 アン達が今いる場所は迷路エリアから出た五十四階の端である。

 地図上ではこの先に道はない。

「行き止まりよね……」

 彼らの目の前には、高い壁が無情にそびえ立つ。ガンマチームは途方に暮れた。


「……? 皆、あれ、カチュアさんのくまきちじゃないか?」

 目ざとく小さなぬいぐるみを見つけたのは、リックだ。

 傀儡(くぐつ)ぬいぐるみ剣士くまきち。

 他のカチュアのぬいぐるみと違い、リュックのストラップとして外側にぶら下がっていたくまきちはここで振り落とされたのだ。


 くまきちは、ガンマチームを見ると、壁のとある場所を殴りつけるような仕草をした。

「この壁を壊せってことか?」

「多分」

「よしっ! 行くぞ」

 ベルンハルトはむんっ、と気合いを入れるとフルパワーで壁を殴りつけた。


「うわっっ!」

 ベルンハルトはその途端、勢いよく、壁の向こうに消えた。

「えっ? ベルンハルトさん?」

「これ、スフィンクスの幻影だ」

 壁に見えていたのはスフィンクスの作り出した幻影だった。

 そこにはぽっかりと大きな穴が開いている。


「おーい、聞こえるか?」

 その穴の向こう、すごーく下の方から、ベルンハルトの声が聞こえた。

「この先は長い縦穴だ。ロープか何か使った方がいい」

 この先に、道があるようだ。


「ウェバーはこの先だわ。急ぎましょう」





 ***


 直径三十メートル。

 おびただしい魔物達の血で描かれたその巨大な魔法陣を、スレッドベインの忠実な僕である雄蜘蛛ウェバー達が、取り囲んでいた。

 蜘蛛の巣に似た不気味な紋様の外周部には、十四名の生け贄が、一定の間隔で横たえられていた。

 全員が深く眠らされており、仮死状態と化している。女性達の全身には、ウェバーの糸が巻き付き、その糸は、魔法陣の中央へと伸びていた。


「クキキキ」

 ウェバー達は前脚を高く上げ、人間には理解出来ない不気味な呪文を唱えている。

 声に合わせて、魔法陣の赤黒い光が脈動する。

 魔法陣の中心では魔力が渦巻いており、魔力が増すごとに、生け贄の女性達の体が微かに震える。

 カチュア達の生命力が吸い取られているのだ。

 儀式は最終段階に入り、巨大な魔物の顕現は目前に迫っていた。


 儀式が始まってしまった。

 もう一刻の猶予もない!

 カチュアを救うため、くまのすけが、魔法陣に向かって駆けていく。


「ドゥー」

 くまのすけの行く手を阻むように、地面が不自然に盛り上がり、土煙の中から現れたのは、キングモグラ達だ。

 体長はおよそ一メートル半、世界最大クラスのモグラモンスターだ。

 その口元は笑いの形に奇妙に歪んでいた。

 キングモグラ達は、ウェバーに操られている!

 一方くまのすけはティーカップに入れるくらい小さいぬいぐるみだ。

 そんなキングモグラ達が、次々くまのすけに襲いかかってきた。


 くまのすけは鋭い爪で、キングモグラの群れをなぎ倒していく。

 だが、敵の数が多すぎる。


「儀式を止めないと」

 ローラは立ち上がった。

 よろけながら駆け出そうとしたローラだったが、背後からの声が彼女を呼び止めた。

「……待て」

 ローラが振り返った先にいたのは、あのスフィンクスだ。

 苦しそうに口から血を吐いており、弱っているが、もう笑ってはいない。

 ウェバーの呪縛から解き放たれたのだ。

 スフィンクスは言った。

「お前が行っても儀式は止められない」

「でも……!」

 スフィンクスは弱々しく頭を振る。

「スレッドベインはやって来る。もう誰にも止められない。その前に、逃げよ、娘」

 さらにスフィンクスはローラの横を見て、こう付け加えた。

「そこのウサギも『そうしろ』と言っている」

 ローラの横でうさみはうんと大きく頷いている。

 ローラは驚いて聞いた。

「あなたはうさみちゃんの言葉が分かるの?」

「私は知恵の獣スフィンクスだからな。それと仲間の援護も期待するな」

「どうして?」

「ここに来るまでの道にはコウモリモンスター、マッドバットの巣がある。そこを突破するのは容易なことではない」

「そんな……」



 魔法陣を囲むウェバー達は五十体を超えていた。

 皆、邪悪な歓喜に震えながら、魔法陣の外側で召喚の呪文を唱え続けているが、左に四体、右に四体と、八体だけ、魔法陣の内側にいた。

 生け贄に必要なのは、『輝ける魂』を持つ女性だけではない。

 八体のウェバーもまたスレッドベインが現世に召喚の際の脚となるべく、生け贄に捧げられる。

 彼らはウェバー達の中でも選りすぐりの蜘蛛達で、死ぬる運命にあるが、スレッドベインのために死ぬのは彼らにとって最高の栄誉だ。

 彼らは恍惚とその瞬間を待ちわびていた。


 キングモグラとの戦いで、くまのすけの体はボロボロになっていた。

 耳はなくなり、カチュアに付けてもらった目のボタンも失い、腕は取れ、足の片方もない。

 だがくまのすけは最後の力を振り絞って走る。

 目指すは、八体のウェバーの一体。

 くまのすけには魔法陣の中に飛び込んだ。

 そしてウェバーの背中にしがみつくと、くまのすけにたった一つだけ残されていた、必殺技を繰り出した。


『くまくま狩り術奥義 くまボンバー(自爆します)』


 くまのすけはウェバーもろとも、爆散した。


 生け贄の蜘蛛の一体が消失した。

「クキ……」

「キキキ……」

 ウェバー達は一瞬躊躇したが、魔法陣の中心に蠢く赤い光は禍々しく輝いてる。

 彼らの女神スレッドベインはすぐそこまで来ている。

 ウェバー達は儀式の続行を選択した。

 カチュア達の顔色はいよいよ青白い。魂を削り取られているのだ。

 魔法陣の中央に集まった赤い光はさらに禍々しい光を放つ。

 くまのすけの決死の妨害もむなしく、スレッドベイン召喚の儀式が完成した。


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― 新着の感想 ―
くまのすけ!!
あああ!くまのすけー!
うぇぇー。 くまのすけーーーー。
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