13.【閑話】エド、ジュニア校に入学するその5
「嫌嫌! 絶対嫌!」
頭をぶんぶん振ってスコットは主張した。
皆も呆然としている。
そんな中、エドはおそるおそる手を上げてダンネス先生に質問した。
「あの、ダンネス先生、どうして張り付き毒ミミズを食べるんですか?」
先生はエドににんまり笑いかける。
「いい質問だ。皆、どうしてだか考えてみろ」
そう言われて少年少女達は「うーん」と考えた。
「実は美味しいとか」
「食えば分かるがマズい」
「香りを楽しむ」
「楽しくねぇ」
「じゃあ、食べると強くなるとか?」
「おっ、いい線行ったな。ステータス毒耐性のことは知っているか?」
ウィリアムが手を上げる。
「はい、その名の通り毒に対する耐性です。これが高いと毒状態になりにくくなります」
「その通りだ」
とダンネス先生は頷いた。
「毒耐性は耐性付き装備、レベルアップやスキル獲得などで上がるが、毒を持つモンスターの耐性用エキスを摂取することでも上げることが出来る」
「へぇ」
「そうなんだ」
「このエキスっていうのは、耐性を付ける用に調整したモンスターの体の一部だ。こいつが買うと結構高いんだ。さらに毒耐性を付けるには出来るだけ沢山のエキスを摂取する必要がある」
「ふうん」
「だが、安心しろ。耐性はモンスターを食うことでも得られる」
ダンネス先生は全然安心出来ないことを言って胸を張った。
「えー」
「だがいきなり強毒のモンスターを食うと死ぬ」
ダンネス先生の言葉に皆びくついた。
「まずは弱い毒モンスターを食べて少しずつ毒耐性を付けるのがおすすめだ」
張り付き毒ミミズは毒モンスターの中でも最弱。
毒耐性入門にはもってこいのモンスターなのだそう。
話している間に張り付き毒ミミズはこんがり焼き上がった。
先生は、串焼きを少年少女に突き出して、尋ねた。
「焼けたぞ。食うか?」
ツンと鼻につく苦そうな匂いがしてくる。匂いからしてかなり美味しくなさそうだ。
だが。
「俺、食べてみる」
まず最初にウィリアムが言った。
皆は一気にざわっとなった。
「えっ、食べちゃうの?」
「大丈夫?」
「お腹壊さない?」
そんな中、「僕も食べてみる」と言ったのはエドだ。
「えっ、本気?」
「うん、どんな味なのか興味ある」
「エドは意外と好奇心旺盛だよね」
「僕も食べる」
続いてそう言ったのはマークだ。
「出世したいなら毒耐性は付けた方がいいって聞いた。暗殺の危険があるから」
「出世こえぇ」
「私も食べる」
セレネが意を決して言った。
「じゃあ、僕も食べる」
とイサークが言ったので、スコットは慌てた。
「お前達、本気でこの気持ち悪いモンスターを食べる気なのか?」
「うん、一緒に食べようよ」
エドはスコットを振り返って誘った。
「……」
スコットはちょっと考えた後、「皆が食べるなら食べてやる」と嫌そうに言った。
全員で張り付き毒ミミズの肉を食べることにした。
「先生、食べます!」
「おー、そうか。いっぺんに食うと腹下すからな。ちょっとずつだぞ」
エド達は張り付き毒ミミズの肉を食べた!
「うええっ、マズーい」
「食感も気持ち悪いー」
毒耐性が一アップした!
***
「よーし、皆食ったな。じゃあ次は最後の試験だ」
皆張り付き毒ミミズを食べてぐったりしていたが、最後の試験と聞いて気分が上がる。
「次が最後?」
「どんな試験なんだろう」
わくわくする少年少女達に先生は「手を出せ」と指示する。
少年少女達は疑う気持ちなんてこれっぽっちもなく、先生の前に手を出した。だがダンネス先生が一人一人の両方の手首にはめたのは、真っ黒の鎖だった。
黒くて武骨に光る鎖は、なんだか見ているだけで気分が悪くなる。
「これ、何?」
皆気味悪そうに自分の手首を見つめた。
そんな生徒達にダンネス先生が言った。
「これは重力の鎖という」
「重力の鎖?」
「そうだ、下級ランクのモンスターに、『悪戯マージ』というモンスターがいる。その名の通り、魔法を使うモンスターだ。その悪戯マージの攻撃の一つにこの重力の鎖を造り、はめるという技がある」
「ふうん」
「重力の鎖は闇の魔法使いが魔力で、あるいはダークドワーフが工作で作り出すものだ。作成者の実力によって効果である『加重』は大きく異なる。悪戯マージが作る重力の鎖の加重は一キロ」
一キロと聞いて皆拍子抜けした。
「なんだ」
「一キロか」
「大したことないね」
エド達は口々に感想を言い合う。
そんな少年少女達にダンネス先生の注意が飛ぶ。
「おいおい、モンスター相手に油断は禁物だ。悪戯マージは時間さえ掛ければ重力の鎖をいくつも作り出せる。これがどういう意味か分かるか? 一つ一つは加重一キロ。だが、これを百個作ったらどうなる?」
皆はおののいた。
「そんなの死んじゃうじゃん」
先生は大きく頷いた。
「そういうことだ。実際は悪戯マージが百個もの重力の輪を作り出すには何時間もかかるだろう。だが弱いモンスターも人間を殺すことが出来る力を持っているんだ。油断は禁物だぞ」
「はい!」
悪戯マージには絶対油断しないぞと、皆心に決めて、返事をした。
「モンスターは奥が深いな」
マークは感心している。
ダンネス先生はそんな生徒達に言い渡した。
「一ヶ月時間をやる。その間で重力の鎖を外せたら、入部を認める」
皆、最後の試験の内容に驚いた。
「えっ、外す?」
「これってお試しではめてるだけで、先生が外してくれるんじゃないの?」
「僕達で外せるんですか?」
「どうやって?」
先生に対し、皆口々に疑問を投げかける。
「それを考えるのもテストのうちだ。誰かに答えを聞くのも、誰かに解いてもらうのも自由。とにかく一ヶ月で鎖を外せば入部を許可する」
***
行きは意気揚々と先生の元に向かった一同だが、帰りはとぼとぼと歩いている。
腕に重力の鎖がはまっているが、一キロ以上に重く感じた。
「どうしよう、これ……」
ちょっと引っ張ったくらいでは全然外れそうにない。
「どうしようって、調べてみるかなぁ?」
「うん」
「とりあえず図書館?」
「うん」
歩きながらどんよりと話し合う少年少女達だが、イサークは何かひらめいたようだ。
勢いよく皆を振り返った。
「ねえ、闇属性ってことは、これ、呪いの魔法具だよね。教会に行けば外せない?」
教会は神聖な祈りで呪いを浄化してくれるのだ。
皆は「おおっ」と感心した。
「それだ!」
「多分外せる」
少年少女達は大いに喜んだ。
「でも、僕らの外出許可日って確か……」
「二十日後だね」
「二十日かぁ」
寄宿舎学校なので、エド達は基本的に外出許可日しか外出することは出来ないのだ。
二十日もこんなものをぶら下げる生活は大変そうだ。
「他の方法って何かないかな?」
「協力して調べてみよう」
話し合う少年少女達に向かってスコットが言った。
「ねえ、僕にいい考えがある」
「いい考え?」
「そう、この中で一番早くこの鎖を解けた人が僕らのリーダーっていうのはどう?」
「どうって、六人しかいないんだ。別にリーダーなんて決めなくていい」
とマークが言う。
「うん」
とウィリアムも賛成する。
だが、スコットはムキになって言い返した。
「そんなことない! リーダーは必要だ!」
「うーん、別に」とエドは思うが、「リーダーがいる、いらない」で話は平行線になってしまった。
積極的にリーダーを作りたがっているのはスコットだけだが、肝心の重力の鎖を外すことがそっちのけになっている。
イサークがちょっと呆れたように言った。
「確かにリーダーはいるかもね。今も意見が割れちゃってぐだくだだし」
「まずは一人一人で考えてみよう」
とりあえず中庸な意見を出す穏健派のエドだった。







