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お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!  作者: ユーコ
ドワーフの里

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09.【閑話】エド、ジュニア校に入学するその1

「じゃあ何かあったら呼んでくれたまえ」

 引率の特待生がそう言ってエド達特待生候補達の前から立ち去る。

 彼が廊下の角を曲がり、姿が見えなくなった瞬間、

「うへぇ、なんで僕がこんなこと……」

 一緒にトイレ掃除をすることになった仲間の一人、スコットが不平を言い始めた。


 カチュアの息子エドは無事に難関校ロアアカデミージュニア校に合格し、特待生候補になった。

 特待生は模範となるような生徒が任命されるらしい。

 入学までの間、エド達特待生候補は特待生の適性テストを受けることになった。


 倉庫の備品探しの後、次にエド達に任されたのはなんとトイレ掃除だった。



「大体なんで僕がお前らと一緒なんだ」

 スコットの怒りの矛先はエド達に向かった。

 トイレ掃除のメンバーは、前回倉庫の備品探しで一緒だったエド、マーク、イサーク、ウィリアムだ。


「適性テストが後半戦に入ったからだ。これからはチーム単位で行動するんだ」

 スコットの八つ当たりにマークは冷静に回答する。

「詳しいね、マーク」

 エドは感心した。

「このくらいは常識。ジュニア校に入学する生徒は卒業生の子弟が多いんだ。いろんな情報が入ってくる」

「プレッシャー付きでね」

 イサークがうんざりした様子で横から口を挟んだ。


 家族や親戚が学校の卒業生なのはちょっと羨ましい気がしたが、それはそれで大変なようだ。



「でもトイレ掃除で特待生の適性なんか分かるのかな?」

 エドは首をひねった。


「ジュニア校の罰則にトイレ掃除があるんだ」

 とイサークが言った。

「えっ、これ、罰則? 俺達悪いことしてないよね」

 ウィリアムが驚いて声を上げた。


「特待生の仕事に罰則の監督があるんだって。罰則の内容を知らないと監督出来ないから……だと思う」

 最後の方はちょっと自信なげなイサークだった。


「おい、さぼるなよ、減点されたらお前達のせいだぞ」

 とスコットがエド達に偉そうに言う。


「また減点か」

 マークはうんざり顔だ。



 エドとウィリアムは家のトイレ掃除で培った経験を生かし手際よく、他の少年達は不慣れながらもそこそこにトイレ掃除にいそしむ。

 トイレは主に一年生が使うエリアのトイレで、女児用男児用と別れており、結構広くなかなか終わらない。

「おー、トイレ掃除か? 感心感心」

 そんな彼らに声を掛けてきたのは、見知らぬ中年男だ。

 学校の先生は教師専用のローブを着ているが、この人は冒険者みたいな格好だ。

 体格も冒険者のようでとても先生には見えないが……?


「あの、あなたは?」

 勇気を出してエドが質問した。

「俺はダンネス・ジカー、ここの教師だ」

「えっ、先生なんですか?」

「ああ、体育の教師だ。武術一般を教えている。我が校は文武両道がモットーだ。学問に励むのも大事だが、子供のうちは体を鍛えることも同じくらい重要だぞ」

「は、はい」

 皆、背筋を伸ばしてピシッと返事した。


 ダンネス先生はうむと頷き、エド達の顔を順繰りに見る。

「お前達は新年度の入学生だな。入学したらよろしく頼む。ところで校内に張り付き毒ミミズが出た話は聞いたか?」


「どっ、毒ミミズ?」

 エド達はどよめいた。

「あー、心配するな、既に駆除した。だが残りがどこかに潜んでいる可能性がある。この中で張り付き毒ミミズの生態を知っている者はいるか?」

 ダンネス先生は少年達に質問した。


 親が冒険者だというウィリアムが手を上げる。

「はい、ミミズモンスターの一種で、その名の通り毒を持ちます。狭くて暗い場所を好みます」

 ダンネス先生は満足そうにニヤリと笑う。

「おー、完璧な回答だ。万一張り付き毒ミミズを見かけたら先生か上級生を呼べ。出来るならお前達で倒してしまってもいいぞ」

 ダンネス先生は強気でけしかけた。


「えっ、でも毒があるんですよね?」

 エドは恐る恐る先生に聞いた。

「危なくないんですか?」

 イサークも及び腰だ。

「下級とはいえモンスターだ。危ないだろうな」

「えっ」

 あっさりそう言われて、少年達は戸惑う。


「スライムやこの張り付き毒ミミズは一番弱いとされるFランクモンスターだ。しかし油断すると大人でも彼らの餌食となっちまう」

 いつの間にか家の中に侵入してきた下級モンスター達に襲われる事件は、農村部で稀に起こる悲劇だ。

 そのため、魔物除けなどの設備で家をしっかり防衛する必要がある。


「だがな、男には、いや人には戦わねばならない時がある。その時に勇気をふるい、立ち上がることが出来る者、それこそが英雄というものだ。文武どちらも磨いてきたるべき戦いに備えるんだ」

 それまでの表情から一変、キリッと言い放ったダンネス先生の言葉が少年達の心にかっこよく響く。


「英雄……」

「戦わねばならない時か……」

 なんとなくその気になる少年達である。


「おっ、俺達で倒せますか?」

 ウィリアムの質問にダンネス先生は力強く頷いた。

「まずは敵を知ることだ。張り付き毒ミミズの毒を始め、ミミズモンスターは状態異常を起こす噛みつき攻撃やまき散らし攻撃を仕掛けてくる。迂闊に近づかず、距離を取れ。ミミズモンスターには遠距離攻撃が一番効果的だ。弱点は炎、あるいは弓矢などの武器での物理攻撃もよく効く」


 魔法も遠距離攻撃の武器も使えないエドはダンネス先生に質問した。

「遠距離の攻撃手段がない場合はどうしたらいいんでしょう?」

「出来るだけ長物の武器、剣よりは槍といった距離が取りやすい武器を使え。槍がなければ、ほうき、デッキブラシ、モップ、その場にある使えそうなものを探すんだ。冷静に、勝つための方法を考えろ。これが人に与えられた大いなるもの、知恵だ」

「デッキブラシ……」

「知恵」

 思わず少年達は手にした掃除用具を見つめた。


「張り付き毒ミミズの毒性は強くない。噛まれても毒消しですぐに治るから、デッキブラシでガーンと行け」

「ガ、ガーンと」


「ただ、ミミズにしてかなり大きいぞ。こんぐらい」

 ダンネス先生は両手を使って毒ミミズの大きさを示した。

 手と手の幅は三十センチくらいだ。

「太さはこんぐらい」

 次にダンネス先生は指先で八センチくらいの幅を示した。

 ミミズにしてはかなり大きい。

「結構動きは素早いぞ。それに何故か顔に張り付いてくる」

「……」

 とどめの一言に少年達は青ざめる。


「まあ気ぃつけろや」

 とダンネス先生は去って行った。


「うええっ、ムカデの次はミミズかぁ」

 スコットが頭を抱えて呻いた。


「よし、ミミズが出る前にさっさと掃除を終わらせよう」

 イサークがそう言い、

「うん」

 皆の心は一つになった。



 しばらく黙々とトイレ掃除に励む少年達だが、最後に悲劇が起こった。

 トイレ掃除も終わり、スコットが道具を用具入れに片付けようとした時、彼は見つけてしまった。

 バケツの影に潜む、体長三十センチくらいで、そして太さ八センチくらいの巨大なミミズを。


「ギャーー! 出たー!」


 張り付き毒ミミズが現れた!


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― 新着の感想 ―
更新が途絶えて悲しい すごく面白い作品なだけとても残念 おとうさんと再会できるまで是非頑張って欲しい
おかあさんに会いたい! おかあさんのお玉さばきと、武勇伝が欲しい!
優等生というからには、お漏らし・ゲボ・便器からはみ出したウンチを迅速的確に処理できないといけないんだろうなと思ったけどエリート校でそんなことは起こらんか……
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