08.『新月の指輪』完成!
『モンスターポイント1100ポイント達成! おめでとうございます!
幸運を呼ぶ壺をプレゼント!※類似品にご注意ください』
次にプレゼントされたのは、両手のひらに乗るくらいの大きさの金属製の壺だった。
大きくもなければ小さくもない。
絶妙に邪魔なサイズだ。
そして何より。
「うわー、怪しいー」
カチュアは思わず叫んだ。
「幸運を呼ぶ壺ねぇ」
色は少しくすんだ金色をしているが、素材は金ではなく真鍮か何かだろう。
価値もなさそうだし、見るからに使えない。
ステータスボードがまたピコーンと現れて、新たなる情報を表示した。
『壺はくず入れとしても使えるよ!』
……その情報、どうしても必要かしら? と思うカチュアだった。
サイズからしてあまりたくさん入りそうには見えない。
そして幸運を呼ぶ壺にゴミ、入れて良いのだろうか?
「誰か、これいる?」
カチュアはチームの皆に聞いてみたが、誰も欲しいとは言ってくれなかった。
すごく怪しいが、神様からのプレゼントだ。
カチュアは渋々エコバックの中に幸運を呼ぶ壺を入れた。
テンションだだ下がりの中、最後となるメッセージが表示される。
『モンスターポイント1200ポイント達成! おめでとうございます!
記念に「情報屋を呼ぶ秘密の笛」の効果が充填されました! ダンジョンにとっても詳しい情報屋が呼べちゃうよ! 使ってみてね』
ダンジョンにとっても詳しい情報屋が呼べる笛の効果が再チャージされた。
吹けば情報屋が呼べるが、今日は疲れたのでまた今度にしよう。
***
夜が明ける頃、ついに『新月の指輪』が完成した。
「出来たぞ」
そう言ってボアドはオーグに銀色に輝く指輪を差し出した。
「これが……新月の指輪……」
オーグはおっかなびっくり、手のひらに『新月の指輪』を乗せる。
「これは狼獣人の満月の破壊衝動を抑える効果がある。月に遊ぶのは、狼獣人の本能だ。悪いことじゃない。ただ、もし誰かを襲いたいなんて衝動が抑えられなくなったら、この指輪を使えばいい」
ボアドはオーグにそう言った。
ドワーフも獣人も人間とは少し違う亜人種だ。
人間とは違う価値観を持っている。
「分かりました。ありがとうございます」
オーグは『新月の指輪』をぎゅっと握りしめた。
「それと、そこの姉ちゃん」
長時間の鍛冶仕事で、クルトはへとへとに疲れ果て、ボアドもちょっとくたびれた様子だったが、それにも関わらず、ボアドはアンに向かってにゅっと手を出す。
「槍を見せてみろ」
「だから嫌よ」
さっきネオロに槍を奪われかけたアンはキッパリ断った。
「取りゃしねぇよ。その槍、なんかすげぇ悪いものを戦ったことがあるな?」
ボアドの指摘にアンは息を呑んだ。
「どうしてそれを?」
「槍を貸せ」
そう言われて今度はアンは大人しくボアドに槍を渡した。
ボアドは槍を入念に観察し、「やっぱりな」と柄の部分の一点を指さした。
「ほら、ここにキズが付いているだろう?」
「どこどこ?」
カチュアがのぞき込むと、確かに柄の部分にキズが付いている。
「アストラルストーンは成長する石、使い込めば使い込むほど強くなる最強の武器だ。通常なら自己修復でキズを直す。これは自己修復では直せない強力な闇の武器で付けられたキズだ。今すぐぶっ壊れるようなもんじゃないが放置すると大変なことなるぞ」
ボアドは深刻な表情で言った。
「それってどうすればいいの? ボアドさんが直してくれるの?」
カチュアの質問にボアドは悔しそうに答える。
「今の俺には直せねぇ。腕も材料も足らない」
「今のっていうと、条件さえ整えば、君が直してくれるのか?」
ベルンハルトが聞く。
「ああ、俺が一級になったら直してやる。一級にさえなれば材料の目処も立つ。ここは一級鍛冶師を目指す二級以下の鍛冶屋が住む里。一級鍛冶師達が住む里はさらに別のところにある」
「場所は俺達も知らないんだ」
とクルトが横から口を挟む。
「その一級鍛冶師の里近くに千鉱石の洞窟というのがあるらしい。そこにあるセレス石なら闇のキズを修復出来るはずだ」
「つまり、ボアドさんが一級鍛冶師にならないとアンの槍は修復出来ないってことね」
「いや、そういうわけでもねぇ。あんたら、迷宮都市ロアの人だろう? あそこに住んでいるドワーフの鍛冶師は大抵二級だが、そいつらの師匠は一級や特級だから、伝手があれば引き受けてくれるかもしれない。相談してみるのもいいだろう」
もしかしたら迷宮都市ロアの大富豪ガルファならドワーフ達にも伝手があるかも知れないが、アンは首を横に振る。
「アタシはアンタに修復して欲しいわ。槍が壊れる前に、早く一級鍛冶師になってね。協力するわ」
「そんなもの要らねぇよ、自力で一級鍛冶師になってやる! ……と言いたいところだが、協力してくれるなら助かる。級を上げるには様々な素材を使い、アイテムを作る必要がある。珍しい素材があったらこっちに回してくれ」
「もちろん協力しよう」
とベルンハルトが言う。カチュアも同意見だ。
「早速だが、槍の応急処置をしよう」
「応急処置?」
「ああ、大したことは出来ないが、しないよりはましだ。あんたら、『緑のゴーレム石』を採って来てくれ。このダンジョンロアの三十九階のストーンゴーレムを百体倒せば、手に入れられると聞いたことがある」
「それなら私達持っているわ!」
カチュア達は緑のゴーレム石をボアドに渡した。
緑のゴーレム石はレア度は少し高めだが、使い道のない微妙な鉱石だ。
ドワーフ達の興味を少しでも引ければと思って入手しておいたのがなんとここにきて役立った。
「これ、意味あったのねー」
「でもこれを何に使うんですか?」
リックが首をかしげて尋ねた。
「『緑のゴーレム石』はほんのわずかだが時間遅延効果を持っている。それを使ってキズをこれ以上広げないように保護帯に加工して巻き付ける」
「そんな使い方があるんだ」
「用途は限られるんだが、こういう場合の処置には使えるぞ」
とクルトが言った。
「材料さえあればすぐに処置出来る」
ボアドは手早くアンの槍を応急処置をしてくれた。
「これで一安心だ。それにしても結構いい素材を持っているな」
とボアドがガンマチームを褒めた。
「それほどでもー」
褒められて満更でもないガンマチームである。
「ふむ、あんたらならあれも手に入れられるかもな。そっちの人はなんか弱そうだから、この先に進むなら強くなった方がいいんじゃないか?」
ボアドはそう言ってカチュアを指さした。
実に的確なアドバイスだ!
「まあ、そうだけど……」
「それなら経験値のアンクレットがいいだろう。装備しているだけで経験値が上がるという足輪だ。効果は微々たるもんだが、ダンジョン外でもどこでも歩けば歩くだけで経験値が上がる」
「あら、すごい」
「経験値のアンクレットを作るには機械仕掛けの大亀の心臓、メビウスの紐、ルーセントロックの羽根、この三つの材料が必要だ。もし素材を手に入れたなら俺のところに来てくれ」
「分かったわ」
「あっ、ボアドさん、これどうぞ」
カチュアは早速つながり石をボアドに渡した。
これさえあればドワーフの里に来やすくなる。
「おう、もらっとくぞ」
長い一夜が明けて、カチュア達は無事に『新月の指輪』を手に入れたのだった。
もうすっかりお忘れでしょうが、緑のゴーレム石は62話に出てきました。
次話からは閑話、エド&フレンズの冒険になります。






