08.肉の日!
明日もあるしそろそろお開き。……の前に、カチュアはがま口の中から二瓶、乳酸菌飲料を取り出した。
「はい、飲んで」
「そのバッグ、色々入ってるのね」
「そうね、小さいのに本当、色々入るの。これ、マジックバッグの一種なのかしら」
ジェシカはがま口をじっと見て。
「そうだと思うわ。私は『鑑定』の魔法は使えないから詳しくは分からないけど、その魔法具にはいろんな魔法が掛かっている。マジックバッグの機能もあるし、他は忘れ物防止とか生活防水機能ね」
「それ、どうして分かるの?」
「うーん、なんとなくかしら?」
「そう……」
カチュアはがま口を見つめたが、まったく分からない。
カチュアには魔法の才能はないようだ。
「今日は本当にありがとう! これ、飲んで? デイリーミッションクリアすると毎日もらえるの」
「あら、便利ね。でも私がもらっていいの? 子供達は?」
そう尋ねられて、カチュアは首を横に振る。
「これね、乳酸菌の他に鉄分とお肌のためのコラー○ン成分入りなの」
乳酸菌飲料が必要なのはエドでもバーバラでもない、カチュア世代である。
***
翌日は家事デーで一日家にいて、その翌々日。
カチュアはポーターの仕事の日だ。
いつもの日課をこなし、今日もデイリーミッションボーナスである乳酸菌飲料を手にしたカチュアだったが。
いつもとは違い、ひらひらと一枚の紙が落ちてくる。
「何かしら?」
カチュアがキャッチしたそれは、ダンジョンチラシだった。
だが、カチュアのチラシはがま口の中に入っているはず。
あわててカチュアはがま口を開けてみるが、入れたはずのチラシがない。
「どうして? ……あ、配布日が違う」
よく見るとチラシの隅にちっちゃく書かれた配布の日付が違う。
チラシの有効期限は今日から一週間で、毎週一回配布されるらしい。
チラシの内容は一見同じに見えるが、前回とは薬草デーの採取ポイントが違っている。
カチュアは最新チラシをゲットした!
今日ポーターするチームは先日もご指名頂いた男女五名のお得意様パーティだ。
「よろしくお願いします」
「今日もよろしくー」
と挨拶を交わし、いつも通りにダンジョンに入っていく。
パーティは以前は冒険者ギルドでも五本の指に入ったという凄腕の集まりだ。
今は結婚して子供も出来たので無理ない範囲での探索をメインにしている。
一見ヌルそうなこのチーム、実はタイパの鬼で、いかに低層階で要領良く高価値アイテムをゲットするか知り尽くしている。
最短ルートで四階まで行き、いつもなら、
「カチュアさん、帰っていいよー」
というところで、
「カチュアさん、割り増し料金出すから、もうちょっと一緒にいてくれない?」
と言われた。
「はい、構いませんが……」
こういう時のために、同じ保育園に通うママ友に時間になって戻らなければバーバラのお迎えをしてもらえるよう、頼んでいるから大丈夫。
ただ、お得意様パーティはカチュアの事情が分かっているので、普段こうしたオファーはしてこないのだが。
「珍しいですね」
「ごめんね。でも今日はなんかレアモンスターが良く出現するから。もうちょっと潜りたくて」
「そういえば、お肉モンスターが多めですね」
魔物の中には食べられる種類の魔物がいて、さらに可食可能なモンスターの中でも、食べられるけど美味しくないモンスターと美味しいモンスターに分けられる。
今日は美味しいお肉モンスターにばかり遭遇する。
美味しい肉モンスターのドロップ品は高額で買い取って貰えるので遭遇するとまさに『美味しい』相手だ。
言いながら、カチュアは気づいた。
――今日金曜日だわ。
ダンションチラシによると、金曜日は肉の日。
お肉が美味しいモンスターの出現、ドロップ率が大アップ!!の日である。
結局五階で霜降りモーモというお肉が超美味しいモンスターと遭遇したのである。
ダンジョンから出て、ドロップアイテムを道具屋で売るなどの換金作業までがカチュアの仕事なのだが、
「今日は残業させちゃったから後は私達がやっとくわ」
とダンジョン外でのお仕事がなかったおかげで結局同じくらいの時間に家に帰ることが出来た。
おまけに割り増し料金と霜降りモーモのサーロインの部分を三枚もらったので、
「今夜はステーキよー」
とほっくほくのカチュアである。
***
「はあ……、疲れたー」
14の日、カチュアはポーターの仕事ではなく、一人でダンジョンの中に入った。
今日は4の付く日なので、薬草デーだ。
チラシによると今週の採取ポイントはなんと一階。
「これ、一人で行けちゃうじゃない……?」と思ったのだ。
前回の7の日、ソロで戦った時に分かったが、カチュアの逃げ足は結構早い。
さらにカチュアは小心者センサー内蔵で、常にビクビクしているので敵の位置を素早く察知。一階なら大抵のモンスターから逃げられる。
この体質を利用して、戦わずして薬草ゲットする計画である。
「あ、ドロロン」
だがダンジョン内に入ると、すぐにカチュアは一階ではまず見かけることがないドロロンを見つけた。
ドロロンは普段はドロの中にいるナマズのようなモンスターで、食べると美味しいらしい。
ドロロンはカチュアに気づいていない!
「……もしかして倒せちゃったりする?」
カチュアはそーっと近づき、ドロロンを倒した。
ドロロン、ゲット!
さらに薬草を採取した帰り道。
「あ、スカイフィッシュ」
スカイフィッシュはその名の通り、空中を泳ぐ魚モンスターだ。これもまた滅多にお目にかかれない珍しいモンスターで、食べると美味しいらしい。
スカイフィッシュはカチュアに気づかず、ふよふよと浮いている!
「えい!」
スカイフィッシュ、ゲット!
運良く反撃もされず倒せたカチュアがドロロンとスカイフィッシュ、それに採取ポイントで手に入れた五階より上の階層で手に入るグリーンキノコを一抱えを道具屋で売ると、なんと6万ゴールドにもなった。
「すごーい。お得!」
大喜びのカチュアはチラシを見ながら考える。
「もっと上の階層だと、さらにレアな薬草やお魚やお肉を手に入れられるのよね。……ちょっとチャレンジしてみようかな?」