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お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!  作者: ユーコ
ポイ活

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17.デトックス温泉郷かえるの湯その5

「分かったわ、十の湯に入ってみる」

 カチュアが静かに頷くと、男達はどよめいた。

「あっ、ありがてえ」

「この恩は一生忘れない!」

 と口々に感謝を述べた。


「じゃあ行くのはアタシね」

 アンは名乗りを上げたが、カチュアは首を横に振る。

「ううん、私が行く」


「えっ、カチュアが?」

「『仲良しファミリー団』さんと『白銀の夜明け団』さんの話を聞くと、すぐに殺されないみたいだし、私やローラちゃんじゃあ、何かあった時、アンを上手く助けられるか分からないでしょう。その点、アンなら心配要らないわ」

「だったら私が……」

 とローラが言いかけるが、カチュアはローラに向かって言った。

「ローラちゃんには大事な役目があるから駄目。もし私が怪我をしたら回復してくれる人が必要だから」

「…………」

「囮役は私が適任だと思うの」

「危険だ、カチュアさん」

 とベルンハルトは止めた。


「でも仮によ、アンが行ったらきっと犯人に警戒されるわ。その点、私なら必ず油断してくれるはずよ!」

 カチュアは力説した。

「そりゃそうかもしれないけど」

 カチュアはどう見ても普通の女性である。

 決して強そうには見えないので犯人も油断しそうだ。


「それに私なら武器も防具も持って行けるわ。アンの槍は温泉に持ち込むのは難しいけど、私のお玉とお鍋の蓋なら犯人も『あら、この人、うっかりして料理器具もってきちゃったのかな』って思うはずよ!」


「えっ、そう?」

 ローラが思わず突っ込んだ。




 話し合いの末、カチュアが十の湯に行ってみることになった。

「あのう」

 それまでじっと黙って脂汗を流しながら、話を聞いていたあま吉がカチュアに話しかけた。

「お客さん、本当に十の湯に行かれるんですか?」

「うん、そうしようとと思って」


「本当にですかケロ? 危ないかもしれないんですよ」

「行っても何もないかもしれないし、役に立てないかもしれないけど、でも人の命が掛かっているのよ。出来ることはやってみたいと思うの」

 カチュアが答えると、あま吉は言った。

「分かりました。そこまでのご決意なら、自分も止めません。自分が湯主のがま様の所に行って湯に入る許可をもらってきます。どうかご無事でお戻りくださいでケロ」

「え、いいの?」


 すっかり忘れていたが、十の湯は封鎖されているので、入浴には湯主のがまの許可が必要だ。

「はい、お客さんらがおっしゃる通り、かえるの中にも犯人がいるかもしれません。自分がこっそりがま様にだけ計画をお伝えします」

「ありがとう、あま吉くん」



「カチュアさんと言ったね、本当にありがとう。これを使ってくれ」

 と『白銀の夜明け団』のメンバーがカチュアに金属で出来たわっかを差し出した。


「これは?」

「僕らが作った発明品で、一度だけあらゆる攻撃から身を守ることが出来るというものだ。一度使うと壊れてしまうので、あまり役には立たないが、初撃は完全に防げるはずだ」

「少し前まではもっと大きかったんだが、目立たないよう、小型化してみた」

 今は金色の細い足輪で、つや消しもしてあるので、ぱっと見は身につけていることさえ分からない。

 だが、この発明品、ちょっと前までは長さ五センチくらいの大きな腕輪だったそうで、メンバーの女性も窮屈なので温泉では外してしまっていたらしい。


「ありがとう」

 カチュアは早速足輪を足にはめた。


「カチュア、何かあったらすぐに合図して! すぐに行くわ」

「うん」

 というのはアンとローラの二人。

「僕らもすぐに駆けつける」

 とベルンハルトも言った。

「こんなことに巻き込んで悪いがアンタだけが頼りだ。だが、異変があれば、すぐに逃げてくれよな」

『仲良しファミリー団』のメンバー達は心配そうに眉を寄せる。


 カチュアはいざという時の連絡方法などをガンマチームの皆とあれこれ相談した後、作戦を決行することにした。






 ***


 犯人を油断させるため、カチュアは一人で十の湯に向かった。

 十の湯までの道は今は封鎖されているので、人通りはまったくない。

 だが。

「アマミちゃん」

 途中で、カチュアはエステ係のかえる女子、アマミを見つけ声を掛けた。

 三匹はよく似ているが頭の上に載せたリボンの柄で見分けが付く。ちなみにアマミは青色の水玉リボンだ。


「ケロ!?」

 アマミは驚いてビクッと身を震わせたが、カチュアを見て胸をなで下ろす。

「ああ、お客さんでしたか。どうしてここに?」

 二人(?)は歩きながら話した。

「十の湯に入ろうと思って」

「えっ、十の湯ですか?」

 とアマミは元々丸い瞳をまん丸くする。


「うん、湯主のがま様には許可をもらったわ」


「ですが、行方不明事件はまだ解決してないですケロよ」

「うん、でも、せっかくだから入ってみたくて。十の湯が温泉郷の中では一番色が黒いんでしょう?」

「確かに真っ黒でいいお湯ですケロ。温泉郷の自慢の湯ですが、心配ですケロ」

「ところで、アマミちゃんはどうしてここに?」


「十の湯の責任者のダルマおじいさんのところにお見舞いですケロ」

 とおにぎりや佃煮が入った籠をアマミはチラリと見せた。

 一瞬だったのでカチュアは気付かなかったが、佃煮の具はバッタ。

「あ、そうなんだ。お疲れ様」

「はい、交代で行ってるんです。私、ちょっと怖かったのでお客さんに会えて良かったです」

「あら、怖いってやっばり行方不明のこと?」

 かえる族には行方不明者は出ていないようだが、行方不明事件の現場である。なるべくなら近寄りたくはないだろう。

「それもですが、行方不明事件の後から、ダルマおじいさんの様子がちょっと変なんです」

 とアマミはため息をつく。


「変てどうしたの?」

「病人に向かってこんなことを言うのは悪いと思うのですが、おじいさん、とっても顔色が悪いのに、笑っているんです。それが、なんとも不気味なんですケロ……」

 思い出したのかアマミは震え上がる。


「笑っている?」

「はあ、無理に笑っている感じなんですケロ。こう、口元だけ」

 そう言ってアマミは自分の口角を指先でにゅっと持ち上げた。

「ふうん」

「だから私、長居をしたくないので品物を置いたらすぐに帰るようにしてるんです」




「ここが十の湯です」

 十の湯の入り口の門まで来て、アマミはカチュアに言った

「十の湯に入られるなら、お客さんもダルマおじいさんに挨拶した方がいいかもしれません」

「あ、そうね。じゃあご一緒するわ」


 カチュアはアマミについて行くことになった。

 温泉の隣に小さな庵があって、そこがダルマおじいさんの住まいらしい。

 庵はトーヨーでは小さな小屋という意味らしく、その言葉通り、家はあまり大きくない。

 草葺き屋根の風情がある建物だが、行方不明事件の現場近くと聞いていたせいだろうか、なんだかすべてが不気味に感じる。


「おじいさん、アマミです。お加減はいかがですか」

 アマミは入り口の扉をノックすると、弱々しい老人の声で、「おお、アマミか入ってくれ」と声がする。

「お邪魔するですケロ」

 とアマミは引き戸を開けた。

 中は畳敷きになっていて、明かりを付けていないせいで、薄暗い。

 その場所で、大きなかえるが一匹、布団に横たわっていた。


 あま吉やアマミより大きく、多分立ち上がったらカチュアより背が高いだろう。

 ダルマおじいさんは体が上手く動かないのか、ぎこちなく上半身を起こし、カチュア達の方を見る。


「……!?」

 途端にカチュアはゾオオッと総毛立った。

 アマミが言った通り、ダルマおじいさんはげっそり痩せ細り、とても苦しそうなのに、口元は無理に作ったような笑顔を浮かべている。


「よく来たね」

「はっ、はい。これ、差し入れですケロ」

 アマミは四、五歩歩いて、ダルマおじいさんから少し離れたところに持ってきた荷物を置くと、ぴょーんとジャンプして猛スピードで元の位置に戻る。


「ありがとう、そっちの人は?」

 ダルマおじいさんはカチュアを見て尋ねてきた。

「この人は十の湯に入りに来た人ですケロ」

「ええ、そうなんです。入浴していいですか? 湯主さんの許可は頂いてます」

 ダルマおじいさんはそう聞くと一段と笑みを深める。


「おお、そうですか。ごゆっくりお入りください」

「あ、ありがとうございます……」

 カチュアは恐ろしさに身を震わせる。


「じゃ、行きましょうケロ、お客さん」

「そ、そうね」

 カチュア達はそそくさと庵を後にした。


いつもありがとうございます。作者のユーコです。

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かえるはいないけど、可愛くない妖精が出てくるよ。

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― 新着の感想 ―
家で待ってる子供のことを考えずに危険に突っ込んじゃうお母さんも十分ホラーなのよ…
もはやお鍋本体が必要なのよ ローラさんはもっと突っ込んでいって!
うぇ〜…。 口元だけ笑うって、不気味すぎる。 が、事件とは無関係!とか?(笑)
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