15.デトックス温泉郷かえるの湯その3
「はい。本当ですケロ」
アンの瞳が輝く。
「本当なのね? 一キロ痩せるって話は!」
アンの迫力にあま吉はちょっと引き気味だ。
たらりと額に汗が垂れる。
「たっ、確かに十湯全てに浸かると贅肉が一キロ減ると言われておりますケロ。しかし今は0.9キロしか痩せないと思われます」
「えっ、どうして?」
「十個目の湯、ダルマの湯が今閉鎖されているからですケロ」
「あら、閉鎖されているの?」
「どうして?」
カチュア達は理由が聞こうとしたが、その時元気になったリックが駆け込んできた。
「五番目の湯ではエステとマッサージが受けられるそうですよ。早く先に行きましょう!」
「いいわね」
「行きましょう」
と皆は次の湯に行くことにした。
***
五の湯はヒメアマの湯で、男性はマッサージが、女性はエステが受けられる。
「エステ担当のアマミです」「ナミです」「カジカです」
とカチュア達の担当は女子かえるだった。
温泉内では湯あみ衣という水着のような服を着るが、これが湯が出るとすぐに乾くというスグレモノだ。
ただ、薄手の服なのでそのままでは少し寒いし、恥ずかしい。
温泉から温泉に移動する時はこの湯あみ衣の上に浴衣というちょっと変わった服を羽織るのがデトックス温泉郷流である。
かえる女子はその浴衣を着ていた。この温泉郷の女子の制服らしい。
カチュア達は三人揃って施術を受けて、かえるエステで至福の一時を堪能した。
「あー、気持ち良かった」
「ご満足頂けましたかケロ」
「うん、お肌つやつや」
「すごく良かった~」
エステの最後に美味しい温泉水にグリーンスムージーをブレンドしたというデトックス温泉郷特製、かえる印の美肌ドリンクを飲んで一休みだ。
ドリンクを飲みながら、ふとカチュアは思い出した。
「あの、さっき十個目の湯が閉鎖されているって聞いたけど、どうしてなの?」
「「「ケロ~」」」
三匹のかえる女子はちょっと困った様子で顔を見合わせた。
「怖がらないで欲しいんですケロが」
カチュアの担当アマミはそっとカチュアに囁いた。
「うんうん」
もちろんアンとローラも興味津々だ。
「実は一ヶ月程前、ニンゲンのお客さんが行方不明になる事件がありまして」
「えっ、ゆ、行方不明?」
ナミは深刻そうに呟いた。
「そうなんです、それも立て続けにお二人も」
カジカも大きく頷く。
「いなくなってしまったんです」
「えっ、そんな……」
「それで、その二人、まだ見つかってないの?」
アンが真面目な表情で聞く。
かえる女子達は憂鬱な顔で頷いた。
「はい」
「ここは安心安全なデトックス温泉郷かえるの湯。うちの評判に関わりますから、湯主のガマ様も草の根分けて温泉郷中を探させましたとも」
「でも見つからないのですケロ」
行方不明の客はまるで煙のように消えてしまったらしい。
「従業員の噂では、神隠しじゃないかって」
とかえる女子のナミが言った。
「神隠し?」
カチュアはあまり聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「神様に連れて行かれたとしか思えないっていう手がかり一つない行方不明のことを私達はそう言うんです。そのくらい、不思議な事件なんです」
「結局、最後にお客さんがいなくなってしまった十の湯のダルマの湯を閉鎖することしか出来なくて……」
「ダルマの湯の責任者のダルマおじいさんはそれを気に病んで寝込んでしまったケロ」
「いなくなったニンゲンのお客さんは二人とも女性でした。皆さんも十分お気を付けて」
なんだか不穏な話を聞いてしまった。
「そっか、それで十番目の温泉は入れないのね」
行方不明の女性達も心配だが、アンはチームミッションクリアのため、後二キロ痩せないといけない。
ダルマの湯に入れないのは痛い。
たかが0.1キロ、されど0.1キロである。
どんより落ち込むアンにかえる女子達が声をかける。
「いっ、一体何事ですケロ」
「実はね……」
とカチュアは痩せるためにこのデトックス温泉郷に来たことを話した。
話を聞いたカジカが言った。
「まあ、それでしたら、私達、お役に立てるかもしれないですケロ」
「先ほどのコースはかえる肌すべすべコースでしたが、他にかえるダイエット脂肪燃焼コースがありますケロ」
「ただいま十の湯が使用出来ない代わりにエステ体験をプラス一回お付けしているんですケロ」
「九の湯の後でもう一度エステを体験して欲しいですケロ」
「私達のこの手で」
「必ずお客さんを0.1キロ痩せさせてみせますケロ!」
かえる女子達は意気込んだ。
カチュア達は次の湯で男性陣と合流すると温泉に浸かりながら早速行方不明事件の話をした。
「あ、俺達もその話、聞きました」
とリックが言う。
「不思議な事件ですね。煙のように消えてしまったなんて」
とオーグも言った。
「心配ね。早く見つかるといいんだけど」
カチュアがそう言うと、アンが難しい表情で首を横に振る。
「残念だけど、一ヶ月前でしょう? とっくに連れ去れてるんじゃないかしら」
「うん……」
ローラも暗い顔で同意する。
「だがあま吉の話だと行方不明客が外に出ているはずはないらしいんだ」
とベルンハルトが意外なことを言った。
「えっ、そうなの? あま吉くん?」
「ケロ!?」
案内しながらまったり温泉を堪能していたあま吉は急に話を振られて驚いた様子だ。
「はい、そうなんですケロ。温泉郷の門はお客さん達も通ったあの門ただ一つ。門番によると、行方不明のお客さんがいなくなった時刻から門を通った者は一匹もいなかったそうです。事件発覚後は湯主のがま様が門の警戒レベルを最高クラスの横綱級に上げたので怪しいものはこの温泉郷から入ることも出ることも出来ませんですケロ」
「でもさ、例えばよ、高性能のマジックバッグに入れてしまえば人間だって簡単に外に持ち出せてしまえるでしょう?」
事件直後は温泉郷は完全に閉鎖したそうだが、今は出入りが出来る状態だ。
「愉快な話じゃないかもしれないけど、ほとぼりが冷めた頃、内部のかえるの誰かが行方不明者をマジックバッグに詰めて運んだら、門番だって怪しいものとは認識出来ずに騙されるんじゃない?」
アンはあま吉にそう問いかけたが、あま吉は「いいえ」と首を横に振る。
「今の門番の警戒レベルは横綱級です。これはお客さん達ニンゲンの王宮と同じくらい鉄壁なんですケロ。悪意があったり、様子がおかしい者は絶対に見逃しません。もちろんマジックバッグの中身だって読み取ります」
「じゃあ行方不明のお客さんはまだこの温泉郷のどこかにいるってこと?」
「はい、そうなりますケロ」
「なら、行方不明者はどこにいるんだろう?」
リックの疑問はもっともだ。
あま吉は頭を掻く。
「それがさっぱり分からないのですケロ。温泉郷中を探したんですけど、見つからないのです」
「うーん、確かにそれは不思議な事件ねぇ」
「まあ、このあま吉が付いております。皆様をしっかりお守り致しますのでご安心を」
とあま吉が胸を叩いた。
はっきり言ってあま吉は見た目、あまり強そうには見えない。
だが、カチュア達の用心棒だったらしい。
「えっ、あま吉君、そんなに強いかったの?」
カチュアが思わず尋ねると、
「自分、特に強くはございませんが、この自慢の喉で異変があればすぐに仲間を呼びますケロ~」
とあま吉はかえる声を周囲に響かせた。






