14.デトックス温泉郷かえるの湯その2
どくどくかえるの毒は一定期間かえるに変身してしまうというものだった。
リックがかえるになったら大変である。
カチュア達はすぐにデトックス温泉郷に行くことにした。
アンはあま吉をせっついた。
「じゃあ早速そのデトックス温泉郷とやらに連れて行ってよ」
「よろしいですが、その前にお客さん、お代は払ってもらいますよ」
あま吉の目がキランと光る。
「いくらよ?」
あま吉は「ケケケロ」と悪い顔で笑った。
「金塊ゴーレムを倒してドロップした金塊の半分。もしくは百万ゴールドです、ケロ」
「ひっ、百万ゴールド?」
百万ゴールドと言えば、迷宮都市ロアの宿屋なら大体一人百回泊まれる金額だ。
「ぼったくりじゃないか」
とベルンハルトが憤慨する。
「ですケロ、ダンナ。うちの温泉でしか毒は治せませんよ。どうなさいます? 嫌ならいいんですよ、嫌なら、ケケケロ」
とあま吉は足下を見てくる。
「噂通りのぼったくりねぇ」
とアンは呆れたようにため息をつく。
「ねえねえ、かえるさん」
とカチュアはあま吉に声を掛けた。
「なんです? 一ゴールドだってまけませんですケロよ」
「私達、これ、もらったんだけど使えるかしら?」
カチュアはがま口の中にしまい込んでいた『デトックス温泉郷 かえるの湯 団体様ご招待券』のチケットをあま吉に見せた。
「拝見するですケロ」
あま吉はそれを見て驚いた。
「確かにうちの特別優待券ですケロ。ニンゲンには配ってないはずなんですけど、ホンモノですケロ」
あま吉はがっくり肩を落とした。
「ぼったくれると思ったのに、残念ですケロ……」
やっぱりぼったくる気だったようだ。
「早くして」
とローラが言う。
リックのことが心配な様子だ。
「では皆さんをデトックス温泉郷にお連れするですケロ。付いてきて下さい」
そう言うとあま吉は近くの壁にぴょんと飛んで行き、壁を触る。
「よいしょっと」
驚いたことにあま吉はペラリと石の壁を押しのけた。
壁はただの壁紙だった!
その奥にはいかにもかえるが出てきそうな草ぼうぼうの小道になっている。明かりもなく、ちょっと怖い。
「ささ、こちらにどうぞ」
とあま吉はカチュア達を小道に誘う。数歩歩いたところに沼があり、沼の表面には緑の魔法陣が描かれている。
「この中に飛び込んで下さい」
ここまで来たら行くしかない。
カチュア達は覚悟を決めて、魔法陣に飛び込んだ。
***
魔法陣の向こう側は薄暗かった小道とは打って変わってここちよい光に満ちた昼ののどかな田舎の景色だった。
カチュア達の目の前には大きな門がある。
門には見慣れない形の瓦が使われている。遠いトーヨー風の建築物のようだ。
門の上の両端にかえるの焼き物が載っていた。
そして門に掲げられた看板には『デトックス温泉郷 かえるの湯』と書かれていた。
「ここがデトックス温泉郷 かえるの湯です。ささ、どうぞ先にお進みください」
あま吉はそう促すが、大きな門は閉じている。
「大丈夫かしら」と思いながら、カチュア達が門に近づくと、
「危険な者ではないな。入れ」
と、どこからともなく声がして、ひとりでに門が開く。
「えっ、どういう仕組み?」
「デトックス温泉郷は、かえる魔法で閉ざされた空間でして、出入りはこの門を使う以外方法がありません。門は怪しい者は入れないので安心して欲しいですケロ」
中に入るとアンが言った。
「あら硫黄の匂いはしないのね」
「イオウ?」
「温泉と言えば硫黄の香りなのよ」
「へぇ」
実はカチュア、ついでにリックもローラも温泉は初めてだった。迷宮都市ロアの周辺に温泉は沸いてないのだ。
「ここの湯は珍しいモール温泉でございますケロ」
とあま吉き自慢げに言った。
「モール温泉?」
「泥土層を通して湧出する温泉のことです。お湯が黒いので驚かないでくださいケロ」
「黒いんだぁ」
カチュアが感心すると、あま吉は喉を膨らませて得意げに反り返る。
「ハイです。まず温泉の説明をさせて頂きますケロ。温泉郷には一の湯はアマの湯、二の湯はイボの湯、三の湯はウシの湯といった具合に十個の湯がございます。どう入られてもお客さんのご自由ですが、手前どもは一の湯から順番に入る入浴法をおすすめしております」
「へぇ」
「湯にはそれぞれの担当かえるのがまのあぶらが入っており、万病に効くと評判ですが、特に怪我や毒の治療に効果が高いのが特徴です。がまのあぶらの効果は担当かえるによって微妙に異なりますので、数種類の湯に入ることで相乗効果が期待出来ますケロ」
「ん? ねえ、あれ何?」
とアンは遠くに見える金ぴかの御殿を指さす。
「あれはかえる城ですケロ。お客さんのお宿兼ご休憩所兼従業員の宿舎兼湯主のガマ様のお住まいでもあります」
「へぇ」
トーヨーのお城風でかなり変わった建物だ。
カチュア達は興味をそそられる。
「かえる城にご案内する前に、湯にお入りになった方がいいですケロ。そちらの方の毒は三の湯くらいで抜けると思います」
とあま吉はリックを指さす。
「じゃあ先に温泉に入りましょう」
一の湯と書かれた門をくぐるとなんだか温かい湯気が見えてくる。
かすかに硫黄の匂いがする。
そして男性用と女性用と書かれたそれぞれのれんが掛かった建物の入り口がある。
「こちらが更衣室ですケロ」
「じゃあ温泉出たら待ち合わせねー」
気楽に言って男女で別れるつもりのガンマチームだったが、あま吉がくるりと振り返って言った。
「あ、温泉郷は一部を除き、混浴です」
「えっ」
「こっ、混浴?」
ちょっと嬉しい男性陣に対して、衝撃を受ける女性陣。
驚きのあまり、ローラはつい、支えていた手を離して、リックを落っことしそうになる。
「えっ、裸ってこと?」
「裸でも構いませんけど、よろしければこの湯あみ衣にお着替え下さい」
とあま吉は皆に湯あみ衣を配る。
「湯あみ衣?」
水着のような服だ。
「裸じゃないのね」
とカチュア達女性陣はホッとした。
カチュア達は着替えて、早速温泉に入ることにした。
温泉にはどう入っても構わないらしいが、毒を抜くには五分から十分程度温泉に浸かり、次の湯に入るという方法がおすすめらしい。
まずはリックの毒の治療を優先しよう。
更衣室の隣が体を洗う『洗い場』になっており、
「まずここで体を洗うの」
とアンが教えてくれた。
体を洗った後は、いよいよ温泉に入る。
カチュアは湯あみ衣は水着のような服で裸ではないが結構露出が激しい。
そのため、「ちょっと恥ずかしいな」と思っていたが、いざお湯に入ると、
「うわー、温泉気持ちいいー」
思わず声が出る気持ちよさだ。
それにあま吉が言った通り、お湯の色が黒いので、入ってしまうと気にならない。
温泉を見回すと、あま吉によく似たかえる達が「ケロケロ」と気持ちよさそうに浸かっている。
他に見慣れない動物達も入浴しているが、人間はいなそうだ。
カチュア達は温泉巡りを続け、三の湯に入るとリックの毒は完全に消えたようだ。
「あっ、元気になりました」
「それは良かったわ」
と皆ホッとした。
三の湯を出ると、すぐにアンはあま吉に声を掛けた。
「かえる君、教えて欲しいんだけど」
「なんですかケロ?」
リックが元気になるまではと、アンはずっと我慢していたことをついに聞いた。
「ここの温泉、入ると痩せるって聞いたんだけど、本当?」






