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お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!  作者: ユーコ
ポイ活

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01.カチュア、決意表明

 モンスターポイントを二万ポイント集める。

 百二十階にいるブラックドラゴンを倒す。


 どちらにしてもモンスター達を鎮めるのはかなり大変なことが判明した。


「とりあえずカチュアは出来る限りでいいから、モンスターポイントを貯める。そんでアタシらは百二十階にいるブラックドラゴンを倒すために力を付けながら、上層階を目指すってことでオーケー?」

 とアンが話をまとめた。

「はい、それでお願いします」

 とカチュアは頼んだ。


 二万ポイント貯められる気はしないが、頑張りたい気持ちはカチュアにだってあるのだ。

 特に国境地帯にいる夫、アランのことは超心配だ。







 ***


「カチュア」

「あ、ジェシカ。お帰りなさい」


 ダンジョンから帰宅すると、そこには下宿人のジェシカの姿があった。

 いつも忙しい彼女がこんな時間に家にいるのは珍しい。


「聞いたわよ、国境地帯のこと。移動制限区域に指定されたんだって?」

「うん、そうなの」


 どうやら、カチュア達のことを心配して駆けつけてくれたらしい。

 ジェシカも一緒に夕食を食べ、子供達を寝かしつけた後、大人だけでちょっと飲むことにした。



 ジェシカが持参した白ワインを開けてちびちびと飲む。

「わざわざ来てくれて、ありがとうね」

「ううん、何も出来なくてごめん。心配よね、アランのこと」


 国境地帯にいるアランから三ヶ月に一度、手紙が届くが、それだけだ。

 向こうが今、どんな状況なのか、カチュア達には何の情報も入ってこない。


「うん、でも私、頑張るから!」


「……? 何を頑張るの?」

 アランの代わりに家を守るというには意気込み方がなんか違う。

 ジェシカは思わずカチュアに尋ねた。


「えーと」

 カチュアは考え込んだ。

 王家の伝承のことは元チームメンバーとはいえ、ベルンハルトに無断で話しては駄目だろう。


 うーんと悩んでカチュアは言った。


「……百二十階に行くのを頑張る」

「えっ、百二十階?」

「そう、頑張って、ブラックドラゴンを倒すわ」


 ブラックドラゴン退治は冒険者ギルドの特殊クエストなので、それを目標にしてもおかしくない。


 カチュアの決意表明に対し、ジェシカは。

「ブラックドラゴンねぇ、まあ、ベルンハルト様とアン先輩が一緒なら、百二十階に行けるかもしれないけど、ブラックドラゴンは本当に危険よ」


「うん、アン達から前にブラックドラゴンを退治しようとして失敗したって聞いたわ」


 すごく強い二人がチームを組んでも敵わなかった相手だ。

 カチュアも強敵なのは分かっている。


「そう……、聞いたのね」


 ジェシカは思いにふけるように視線を窓の外に向ける。

 外は既にとっぷりと夜が更けていた。

 その真っ暗な闇の色は、かつて相対したブラックドラゴンの漆黒の鱗を思い出させる。


「あの時、二人がブラックドラゴンを退治出来なかったのは、私のせいなんだ」

「えっ、そうなの?」

「うん、私が、ブラックドラゴンが放った闇のブレスを浴びちゃって、モンスターになりそうだったから……」

 カチュアは飛び上がるほど驚いた。


「えっ、モ、モンスターに?」


「そうなのよ、暗黒神の影ともいわれるブラックドラゴンの闇のブレスは生き物を魔物に変える力があるの」


「怖っ!」

「だから特殊クエストの討伐対象なのよ」


「それで、ジェシカは無事だったのよね?」

「うん、処置が早かったからね」

「良かったー」

 カチュアはほうっと息をついた。


 ジェシカは真剣な口調で語った。

「あの時、もうちょっとでブラックドラゴン退治を出来た。なのに、二人は戦いを中断して私を助けてくれたの。だから彼らは本当に私の恩人なのよ」


「そうなんだ」


「その後、ブラックドラゴンに再アタックする前に、ベルンハルト様の居所が国王陛下に知れて、急遽王宮に戻ることになったの。アン先輩も一緒に。そこでチームは解散したの」

「そうだったんだー」

 別れる時、二人はジェシカに冒険に役立つお宝をたくさんくれたそうだ。

 それを使ってジェシカは冒険者として独り立ち出来た。


「カチュアも気をつけてね。無茶は絶対に、駄目よ」

 深刻な声でジェシカは忠告する。


「うん、分かったわ」

 カチュアには大事な子供と愛する夫がいる。

 それに今、ガンマチームがいるのは三十八階。百二十階到達はまだまだ先の話だった。

 率直に言ってしまうとあまり現実味はない。もちろん全力でたどり着くつもりだが。


「あ、ガルファ商会の皆さんはお元気?」

「元気よ、どうして?」

「獣耳カチューシャを流行らせてくれたのはガルファさんでしょう? もしお目に掛かる機会があったら、ガンマチームの皆がお礼を言ってたって伝えてもらえないかしら?」


 チームの皆でそんな話をしていたのだ。

 ちょうどいいタイミングでジェシカに会えて良かった。


「伝えておくわ。実は私もガルファ氏からカチュア達にメッセージを預かっているのよ」


「えっ、何?」


「おほん」

 とジェシカは咳払いしてから言った。

「『商売人でありながら、獣耳カチューシャという発想は、思いもつかぬものでした。オーグさんの姉上には心から感謝致します』だって」


「分かったわ。伝えておく」


 そこでジェシカとカチュアのサシ飲みは終了になったが、カチュアは眠らず、戸棚をガサガサと開け始めた。


「えーと裁縫箱、裁縫箱」

「え、今から何かやるの?」

「このぬいぐるみを直そうと思って」


 そう言ってカチュアがジェシカに見せたのは、手のひらサイズの小さなクマのぬいぐるみだった。

 お腹はざっくり切れて綿がはみ出た状態で、耳も片目も今にも取れてしまいそうだ。


「何これ?」

「三十八階はメルヘンエリアでしょう? あの階のモンスターと戦うとドロップ品で『ボロボロのぬいぐるみ』が手に入るの」

「あ、そうだったわね」


『ボロボロのぬいぐるみ』はアンが倒したクマのぬいぐるみモンスター、ぬいベアからドロップしたものだ。

 ぬいベアのレアドロップアイテムは『綺麗なクマのぬいぐるみ』で、道具屋で高値で売れるが、これはノーマルドロップ品その二である。

 はっきり言ってゴミだが、

「可愛いから直そうと思って」

 なんか気に入ったカチュアはアンに頼んで譲り受けた。

「え、これがいいの?」と怪訝そうに首をかしげられたが、アンは『ボロボロのぬいぐるみ』をくれた。


「色はこれで良さそうね」

 カチュアは家にあった余り布をぬいぐるみにあてがい、色を合わせてみた。

 本当は家にある在庫を見て、明日町で買い足すものがあるかどうか確認するだけのつもりだったが、必要なものはすべて揃っていたのでつい作業を始めてしまった。

 はさみで布を切り、同色の糸でチクチクと縫う。

 ジェシカは、なんとなく一連の作業を見守った。


 やがて「出来たわ」とカチュアがジェシカにぬいぐるみを掲げてみせた。


「どれどれ、あら、よく出来たじゃない?」


 ボロボロのぬいぐるみはジェシカがそう言って褒めるくらい、なかなか上手く修復出来た。

 新品同様の出来映えだ。


「バーバラが喜ぶわね」

 とジェシカは言ったが、カチュアは首を横に振る。


「さっき聞いたら、あの子、『いらない』って」

「あー」

 ジェシカは苦笑いする。

 バーバラはいわゆる女の子が好きそうな可愛いものに関心がない子なのだ。


「まあ、また聞いてみるけど」


 だが、母だからカチュアには分かる。

 あの感じは本当にいらない時のリアクションだ。


「残念ね」

「私が使うからいいわよ。それにまだたくさんあるから次のバザーに出すつもりなの」

「ぬいぐるみのドロップ品がそんなにたくさんあるの?」

「うん、十体くらい」


 ガンマチームはちぎっては投げちぎっては投げとガンガン突き進んだので、十個以上の『ボロボロのぬいぐるみ』がカチュアのリュックに入っている。

 ちなみにノーマルドロップ品その一は子供用の滋養強壮薬、回復ポーション(イチゴ味)だ。

 こちらは需要が高いので道具屋に持って行くといい金額で買い取ってもらえる。


「どう?可愛い?」

 カチュアはつくろったぬいぐるみの首の後ろにひもを付け、愛用のリュックに取り付けた。

 クマのぬいぐるみチャームの完成だ。


「可愛い可愛い」

 とジェシカは褒めた。


 リュックはカチュアがレアレア茸デラックス戦の後、ガルファ道具店から無料でもらった念願のマイリュックだ。

 マジックバッグ機能付きで、見た目よりずっと多くのものが収納出来る。



「ありがとう。じゃあ、バーバラがいらないなら私がもらうわ」


 それでカチュアとジェシカの飲み会はお開きになった。


「お休みなさーい」

「お休みー」


 この二人、一見大丈夫そうに見えるが、実は全然大丈夫ではない。

 結構、酔っ払っている。


 ぬいぐるみをつくろうのに使った針が、まだクマの体に付いたままなことを、二人は気づいていない……。


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― 新着の感想 ―
ぬいぐるみの恩返し?があるかな?
検針して〜。怖い〜。
その針がいい仕事をするんですね。
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