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お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!  作者: ユーコ
聖剣の行方

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17.目標!二万ポイント

 聖剣のありかは分かった。

 ベルンハルトの話だと、宝物庫からなくなった聖剣は、今「神の御許」に戻り、再び試練を乗り越えた者達に与えられる状態になったのでは?ということだ。


「要するにカチュアさんがモンスターポイントを二万ポイント集めると、聖剣が手に入るってことですよね」

 オーグがざっくりと話をまとめる。

「王家に伝わる伝説の剣、見たいですね」

「うん」

 リックとローラは楽しみにしている。


 話していても仕方ないので、ガンマチームは早速ダンジョン探索に向かった。


 向かったのは、前回の続き、三十八階である。

 三十八階はパステルカラーのメルヘンエリアだ。

 出現モンスターもウサギやクマだが、リアル路線ではなく、可愛いぬいぐるみである。


「ゆくぞ、峰打ち拳!」

 そんなぬいぐるみを一瞬でボコボコにし、器用にHP1状態にしたベルンハルトはウキウキで、カチュアを振り返った。

「さあ、カチュアさん、とどめだ」


「無理よ、ムリムリ」


 だがカチュアはすっかり怖じ気づいていた。


「アンタ、『絶対に許さない、絶対にだ』って言ってたじゃない?」

 とアンがビシッと指摘した。

「そうだけど。二万ポイントは無理よ。ポイント三倍デーでも六千体以上よ。無理」



 現在のカチュアのモンスターポイントカードの数は、108。

 二万ポイントは遙か彼方だ。


 それにぬいぐるみモンスターは可愛い。

 凶暴なモンスターを倒すのも無理だが、これはこれで無理……。


「しょうがないわね」

 アンが自分の槍を使ってクマのぬいぐるみモンスターにとどめを刺した。


「アン、邪魔をしないでくれ」

 ベルンハルトは渋い顔でアンを見つめる。

「駄目よ、カチュアは無理。前衛職ってアンタが思っている以上に特殊技能なのよ。生きてるものに攻撃するって、普通の人間には心理的障壁が高いの」

 アンはそう言ってカチュアをかばう。


「カチュアは自分や仲間が追い詰められた時、そして食べたい食材以外とは、戦えないわ」


「しかしスキル【主婦/主夫】の持ち主はカチュアさんだ。彼女のモンスターポイントを積み上げないと、聖剣を手に入れられないんだ」


「それはアンタの都合よ。現実問題、カチュアには出来ないの」


「死ぬ気でやればやれないことはない!」

 ベルンハルトは根性論でねじ伏せようとしてきた。


「これには王国の多くの人の命が掛かっているんだ!」

 ベルンハルトは焦っていた。

 それにこれはカチュアのためでもある。

 国境地帯にいるカチュアの夫アランだって、聖剣がなければこの先どうなるのか分からない。

 初代の女王達が聖剣を授かるまで、いくつもの災いが起こり、多くの人が亡くなり、住む場所や職を失ったという。

 そんな事態になる前に、ベルンハルトは聖剣を元の場所に戻したいのだ。


 ベルンハルトの国を思う気持ちは本物だ。

 すごい気迫だったが、アンは一歩も引かず言い返す。


「だからって、アンタがカチュアを追い詰めていい理由にはならない!」


 対立する二人の間に割って入ったのは、リックだ。



「あの、ベルンハルトさん、質問していいですか?」

「質問? ああ、もちろんだ」

 ベルンハルトは不意の質問に面食らうが、言い争うのを止めて、リックの方を向く。


「そもそも聖剣の話ってなんかおかしくないですか?」

「おかしいとは?」

「王配さんがスキル【主夫】の持ち主なのは分かりました。モンスターポイントカードのポイントを集めて聖剣を手に入れたことも」

「ああ、その理解で間違いない」

 とベルンハルトは頷く。


「でも、さっきベルンハルトさんが聞かせてくれた王家の伝承だと、王配さんと女王様とその仲間、『皆』で聖剣を手に入れたみたいですよね」

「……そうだな」

「もしポイントカードのポイントだけが聖剣を手に入れる条件なら、そういう記述にはならないと思います」

 リックはお宝好きなので、意外と古い書物の解読が得意なのだ。

「だったら、私達も何か出来ることがあるはず」

 とローラが言った。


「…………」

 ベルンハルトは腕を組んで考え込む。


「確かにリック君の言う通りだ。僕は第二王子で、王家の伝承のすべてを知る立場にはない。そもそも聖剣そのものが、その存在を表立っては消されている。だがそれを差し引いても、聖剣を手に入れた下りはおかしな言い回しだ」


 試練を乗り越えた初代女王と王配になった僕の祖先、そして二人と志を同じくした仲間達が神より『暗黒を倒せ』と授けられたのが、聖剣。

 ベルンハルトはそう言った。


「はい、おかしいんですよ」

 リックは主張する。

 歴史書には正史とそれ以外があり、正史では聖剣は存在そのものが抹消されている。

 正史は必ずしも本当のことが記されるとは限らない。

 権力者にとって都合の良くない事実や人々をいたずらに混乱させるようなことは書かれないのだ。

 しかし隠された書物、王家に残された伝承は、後世に何があったか確実に伝えるため、真実をありのまま書いたはずだ。

 事実、ベルンハルトはこの王家の伝承に導かれて、ダンジョンロアにやってきた。



「……だとすれば、試練を乗り越えるにはカチュアさんだけではなく、僕らの力も必要ということか」


「そうです。ベルンハルトさん、試練について何か知りませんか?」

「それが……まったく分からないんだ」

 ベルンハルトはため息をつく。


「あの、その王配さんの武器もお玉とお鍋のふただったんですか?」


「いや、彼の武器はペンと紙だったそうだ。それは剣より強かったと言い伝えられている」


「ペンと紙……」

 そっちが良かった気がするカチュアだ。


「でも、ペンと紙でどんなこと出来たんでしょうね」


「それは不思議なペンで神紙(かみかみ)と呼ばれる紙に『とても美味しい料理』と書くとその通りに料理が出てきたという」

「あら、便利」

「……それでどうやってモンスターを倒したんでしょう?」

「彼がモンスターを倒した記述は非常に少ない」



「それってやっぱりカチュアと同じく初代女王の王配も戦闘職ではなかったってことよね」

「そうだな。彼は最強の支援職だったと言い伝えられている」


「スキル【主婦/主夫】は最強の支援職……」


「カチュアさん」

「は、はい」

 ベルンハルトはずいっとカチュアに近づくと頭を下げた。


「申し訳ない。気が急いてしまって、君にはすまないことをした」

「そんな、いいのよ。私こそ、ごめんなさい。分かってるんだけど、モンスターを前にすると戦えないの」

 カチュアもベルンハルトに謝った。


「いや、僕らは仲間だ。落ち着いて、一つずつやっていこう」


「ベルンハルトさん……」


「実は聖剣以外にモンスターを鎮護する方法はいくつかあるんだ」

 とベルンハルトは言い出した。

「アンタ、それ、早く言いなさいよ」

「その方法にどの程度の効果があるのか分からないんだ。二万体倒す方がよっぽど確実で手っ取り早いと僕は思った」

「二万体、倒す方が手っ取り早いですか」

 リックも聞いて呆れている。

 前衛で戦うリックだって二万体倒すのは簡単なことではない。


「初代の女王達の時代、六つの厄災がやってきたと言われている。最初の敵は(まが)つ竜、ブラックドラゴン」

「あ、それは知ってます」

 リックが声を上げた。


 これは正史に書かれている皆知っている有名な話だ。

 初代の女王達は力を合わせて六つの厄災を倒したのだ。


「ブラックドラゴンって、このダンジョンの百二十階にいるっていうあの竜ですか?」

 オークがベルンハルトに聞いた。

 色々あってすっかり忘れていたが、ブラックドラゴン退治は冒険者ギルドの特殊クエストに指定されている。

 特殊クエストはEランク以上の冒険者が全員強制で参加させられる公共性が非常に高いクエストのことだ。


「ああ、ブラックドラゴンはかつて僕らが倒せなかった敵だ。あの時僕にもう少し力があれば!」

 ベルンハルトは悔しそうにそう言った。

「あれはアンタのせいじゃないわよ」

 とアンが慰める。

 かつて二人がチームを組んでいた頃の話のようだ。


「僕もあの頃よりは強くなった。協力して行こう」


「……百二十階に?」

 カチュアが聞くと、ベルンハルトは頷いた。

「百二十階に」


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― 新着の感想 ―
特売品一家族あたりn個みたいな縛りがあるんだし、ポイントもなんかそういう? 職場で春のパン祭り点数シールを「どなたかどうぞ」ってホワイトボードに貼ってたのを思い出します。お礼のパンになって返ってきまし…
可愛いぬいぐるみをボコボコに殴る巨漢... 絵面が酷すぎる(笑)!
主夫、王配ときていたので初代女王の王配さんはパーティの財布を握っていた(パーティの財政かつ後方支援をしていた)のだろうと思っていたのですがどうも授けられた武器を見ても間違い無さそうですね。ここからどう…
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