06.モンスターポイントゲット!
7の日、カチュアは朝のデイリーミッションをこなした後、ダンジョンに向かった。
「おはようございます」
顔なじみの門番に挨拶すると、門番は不審そうな顔でカチュアを見返す。
「おや、カチュアさん、今日はポーターの仕事じゃないのかい?」
カチュアはいつも支給されるポーター装備ではなく、普段着の丈夫なワンピースにお玉とお鍋のふたという装備だ。
「そうなんです」
「大丈夫かい? あんまり深入りせず、気をつけて行くんだよ」
「はい、ありがとうございます。気をつけます」
カチュアは門番と別れてダンジョン内に入る。
門番にも忠告されたようにもちろん深入りはしない。
「とにかく四体倒せばいいのよー」
とそれだけを呪文のように唱えながら、カチュアはダンジョンを進む。
だが。
「ひょえーーー!」
いざモンスターと遭遇するとカチュアは怖じ気づき、全力で逃げてしまう。
エドとバーバラ、二人の子供のママであるカチュアは意外と足腰が強く、幸か不幸かモンスターから逃げ切れてしまう。
「こんなことじゃ駄目なのに」
だがお魚さばくのも得意ではないカチュアにとってモンスターを倒すのは、難易度が高い!高すぎる!
その時だった。
「たっ、助けてー! 誰かー」
どこか遠くで子供の悲鳴が上がる。
「!?」
その瞬間、カチュアは自分でも驚くようなスピードで子供の声がした方に駆け出した。
そこには小さな二人の子供がモンスターに襲われている姿が!
「子供になんてコトするのよー!」
子供達の前に飛び出すと、カチュアは夢中でお玉を振り回した。
カチュアは四体のスライムを一瞬でなぎ倒した。
モンスターポイント12ポイントゲット!
***
「エドのお母さん、ありがとう」
と二人の男の子はぐしゃぐしゃの泣き顔でカチュアにお礼を言った。
「あら、あなたたち、レン君とラン君じゃない」
騎士団の官舎に住む双子で、エドと同じ八歳だ。
お母さんのナタリーはカチュアの井戸端友達でもある。
「どうしてダンジョンに? 冒険者じゃないとダンジョンに入ってはいけないのは知っているでしょう?」
迷宮都市ロアには冒険者登録していない者がダンジョンに入ることを禁じている。
冒険者登録が出来るのは、九歳から。
まだ八歳のレンとランでは冒険者登録は出来ない。
登録出来ないのもそうだが、そもそも戦闘能力のない子供がこんなところに来てはいけない。
「誰か大人の人と一緒に来たの?」
「ううん、二人で」
「門番さんが居眠りしている時に入ったの」
「二人だけで来るなんて無謀よ。ナタリーさんにナイショで来たの?」
「うん……」
「ごめんなさい」
「まあ、飴でも舐めなさい。怪我はないわね? おばちゃんと一緒に帰るわよ」
とカチュアは双子に飴をあげて帰路につく。
途中で女神像に寄って、カチュアは双子と一緒に今日もお祈りする。
本来ならカチュアは家にいる日だった。もしポーターの仕事をしていたとしても、冒険者と一緒なら一階をうろつくなんてことはしない。
「女神様のお導きだったかもしれないわ」
しみじみそう思うカチュアだった。
ダンジョンから出たカチュアは双子を官舎にいる双子の母ナタリーの元に送り届けた。
双子の家にたどり着く前に、
「ラン、レン!」
髪を振り乱して双子を探すナタリーがこちらを見つけ、駆け寄ってくる。
「どこに行ってたの!?」
「……ダンジョン」
「『スライム帽子』探しに行った」
「偶然中にいるところを見つけたの」
とカチュアからも説明する。
「カチュアさんが?本当にありがとう。そんな危ないことしちゃ駄目だって母さん、言ったでしょう!」
と双子に雷が落ちる。
「ごめんなさい」
「だってぇ、ボリスの誕生日プレゼントにあげたくて……あいつ『スライム帽子』欲しがってるから」
「ボリスの……」
これには双子の母のナタリーも驚いたようだ。
ボリスは双子の弟、五歳だ。
カチュアはてっきり双子は自分たちのために『スライム帽子』を探しに行ったと思っていたが。
「ボリス君のためだったのね……」
「スライムを倒しに行ったの」
「スライムを倒すと『スライム帽子』もらえるから」
「…………」
カチュアは考えた。
ポイント、貯まってるのよね。
がま口をパチンと開き、カチュアはモンスターポイントカードを取り出す。
一、二、三……、九、十。
十コマ目に押されたマスコットキャラクター『ろあちゃん』スタンプを指でなぞった瞬間、ステータスボードが「ピコーン」と開き、メッセージがカチュアの目に飛び込んできた。
『モンスターポイント10ポイント達成! おめでとうございます!』
「きゃっ」
そしてカチュアの頭上から何か落ちてくる。
落ちてきたのは、『スライム帽子』だ。
『スライム帽子:
スライムの形の可愛い帽子。防御力+5』
「あ、『スライム帽子』だ」
「『スライム帽子』ー!」
双子が『スライム帽子』を見て目を輝かす。
「はい、これ、おばちゃんからプレゼントよ」
カチュアは双子に『スライム帽子』を差し出した。
「うわぁ」
「『スライム帽子』だぁ」
双子は『スライム帽子』を受け取ろうとしたが、カチュアはまだ帽子の端をぐぐぐっと掴んで離さない。
「二人ともよく聞いてね。一階のスライムはただのスライムで、『スライム帽子』が欲しいならもっともーっと強いスライムをたくさん倒さないと駄目なの。だ・か・ら!」
カチュアは双子の目を見つめて言った。
「もう絶対、二人だけでダンジョンに入っては駄目よ。『スライム帽子』に誓って二人とも、おばちゃんと約束よ!」
カチュアは再度双子に言い含める。
なんかやらかしそうな子達なのだ。
「うん、約束!」
「エドのお母さん、ありがとう!」
「……帽子もらっちゃって、本当に良かったの?」
とナタリーはカチュアに尋ねる。
「いいの、あの子達、『スライム帽子』がないとまた取りに行きかねないでしょう?」
男の子の双子の行動力、半端ない。
「ありがとう。言い出したら聞かない子達だから困っちゃうわ」
「でもいい子達よ、弟のためなんて。誰もが出来ることじゃないわ。ボリス君も誕生日おめでとう」
カチュアもナタリーもまだまだ新人ママだ。正解なんて分からない。
「本当にありがとう、あ、良かったら、おかず、持って行って! エドくん、ロールキャベツ好きでしょう? ちょうどアップルパイも焼いたところなの」
「ありがとう! 嬉しい。今晩のおかず、どうしようかと思ってた!」
市場に寄らずに帰って来たので、買い物出来なかったのだ。
「それにしても」
とナタリーはため息をつく。
「一応、学校の先生に話しておくわ。うちの子達が『スライム帽子』目当てにダンジョンに入ったってこと」
今回は運良く怪我もなく無事に戻ってこられたものの、他の子が真似したら大変なことになる。
「うん、私も冒険者ギルドの受付に話しておくわ」
今は門番一人で入り口の監視をしている状態だ。
騒動が落ち着くまでは人員を増やすなりして、監視を強化してもらった方がいいだろう。
双子と別れて、数十メートル先の自宅に帰る道すがら、カチュアは考えた。
「ああは言ったけど、『スライム帽子』、どうしよう……」
ポイント特典は使ってしまったから道具屋から買うしかないが、一家につき一個の制約がある。
「急いで隣の町に住む従姉妹のマリアに来てもらって買ってもらう……かなぁ?」
そんなことを考えながら、家の前まで来ると話し声がする。
「わーい、ありがとう、ジェシカちゃん! これ欲しかったんだぁ」
とバーバラが抱えているのはなんと『スライム帽子』。
それにバーバラが話しかけている相手は。
「ジェシカ!」
「カチュア、バーバラのお迎えしておいたわよ」
同居人のジェシカが帰ってきていたのだ。






