16.スキル【主婦/主夫】
「えっ、スキル【主婦】ですか?」
ガンマチームは驚いた。
まさか、まったく無名のレアスキル【主婦】のことが、ベルンハルトの口から出てくるとは。
「知っているのか?」
ガンマチームの反応に、ベルンハルトはひどくあわてて質問してくる。
「はい、まあ……」
あまりの勢いに気圧されたカチュアに代わってアンが答えた。
「絶対に誰にも言わないって約束して。だったら教えるわ」
「ああ、約束しよう。教えてくれ。僕はこのレアスキルの持ち主を探している」
「(言っていい?)」
「(いいわよ)」
アンとカチュアはアイコンタクトを交わした後、アンはベルンハルトに向き直る。
「良かったわね。アンタが探しているのはここにいるカチュアよ」
「えっ、カチュアさんが? スキルの持ち主なのか?」
「ええ、そう」
「…………」
カチュアの返事を聞いて、ベルンハルトは深く考え込んだ。
「カチュアさん」
しばらくしてベルンハルトは深刻な面持ちで呼びかけてきた。
「は、はい」
つられてカチュアも緊張してしまう。
「カチュアさんはモンスターポイントカードを持っているか?」
「え、ベルンハルトさん、モンスターポイントカードを知ってるの?」
「良ければ見せてくれないか?」
「そりゃ構わないけど……」
カチュアの他、誰も見ることが出来ないカードだ。
見せたところで意味がない気がするが、ベルンハルトの切実な様子にカチュアはモンスターポイントカードをがま口から取り出し、彼に差し出す。
「はい、これよ」
「ああ、ありがとう」
ベルンハルトはカチュアからモンスターポイントカードを受け取った。
魔法使いのジェシカも見えてはないがモンスターポイントカードに触ることが出来た。
拳で語る筋肉言語が得意なベルンハルトだが、もしかして魔法の才能もあるのかもしれない。
ベルンハルトはポイントカードをじっと見つめた後、呟いた。
「これがモンスターポイントカードか……」
「え、ベルンハルトさん、ポイントカードが見えるの?」
「見える。もしかしてカチュアさん以外にこのカードは見えないのか?」
「ええ」
とアンが頷く。
「僕は、スキル【しゅふ】の所有者の末裔に当たる。そのせいかもしれない」
「ベルンハルトさんがスキル【主婦】の所有者の子孫……」
「僕はこのカードを求めてダンジョンロアにやってきた。百回女神像に祈ると授かると聞いたんだが……」
「あ、それでもらったのよ、私」
ベルンハルトはがっくりと肩を落とした。
「僕には何の導きもなかった」
「えー」
確かにダンジョンロアの中で女神像に百回祈るなんて行為は普通の冒険者なら数年の内に絶対達成してしまう。
なのにスキル【主婦/主夫】はまったく無名のスキルだ。
「スキル【主婦/主夫】は神に選ばれた者だけが授かるスキルなのだろう。この力を正しいことに使える者だけがスキル【主婦/主夫】に目覚める」
ベルンハルトの呟きにカチュアは困惑した。
「私、そんなすごい人じゃないと思うけど……。普通の主婦よ」
ベルンハルトは大きな背中を丸めて、必死な顔でポイントカードを見ている。
「どこだ? 王家に残された伝承では、ポイントカードの特典に聖剣があるはずなんだが……」
……………………。
「えっ?」
たっぷり一分は止まったガンマチームである。
「ポイントカードの特典? 聖剣が!?」
「ああ、聖剣を授かったのは、初代国王の夫、王配である彼が、スキル【主夫】の持ち主だった」
「えっ、男の人?」
「って言うか、王配?」
「あー、思い出したわ。王家に変わったレアスキル持ちがいたって聞いんだったわ、コイツから」
とアンが言った。
「ああ、僕の遠いご先祖が、聖剣を手に入れたのだ」
「……ポイントで?」
ベルンハルトは真顔で頷いた。
「ポイントで」
***
どうしよう。
その場はめちゃくちゃ気まずい沈黙に支配された。
なんとなくかっこよさげだった聖剣が一気にダサく思えてしまう……。
ベルンハルトのみが気にせずポイントカードを見つめている。
やがて彼は叫んだ。
「あった! ここだ!」
「えっ、本当にあったの?」
カチュアだって一応ポイントカードを見ているが、聖剣なんてなかったはずだ。
「ほら、ここを見てくれ!」
ベルンハルトはポイントカードの下の方をぐっと押し込んだ。
「!?」
ただの板のように思えたポイントカードだが、そうすると表示が切り替わり、ポイントカードのまだ到達していない特典も読めるようになった。
カチュアも知らなかった機能だ!
「伝承通りだ。これはスクロールというらしい」
「スクロール……」
ベルンハルトは真剣そのものといった表情でポイントカードをカチュアに差し出してきた。
「カチュアさんも確認してくれ」
「どこ?」
「二万ポイントのところだ!」
「二万ポイント!?」
カチュアは思わず悲鳴を上げた。
気づかないのも無理はない。
スクロール機能を知っててもカチュアは読もうなんて思わなかっただろう。
だが。
「本当だわ……。二万ポイントのところに『闇の化身を倒す伝説の剣、聖剣をプレゼント。これで世界を救っちゃおう!』って書いてある」
「救っちゃおうって……」
とリックが脱力したように呟く。
うん、ベルンハルト以外チーム全員、そう思ってる。
「試練を乗り越えた初代女王と王配になった僕の祖先、そして二人と志を同じくした仲間達が神より『暗黒を倒せ』と授けられたのが、聖剣だそうだ。そしてその聖剣で彼らは闇の化身を討ち果たした」
とベルンハルトが説明する。
「無理矢理綺麗寄りにまとめると伝承と一致するわね」
とアンが言った。
ポイントを集めることを試練と言い張ったら、確かに伝承に間違いはない。
「よし、二万ポイントを貯めたら、聖剣が再び人の手に戻る。頑張ろう、カチュアさん!」
ベルンハルトは聖剣の手がかりが見つかり、とてつもなく晴れやかな笑顔で言った。
対するカチュアは青ざめている。
「……無理よぉ」






