13.絶許案件
早速カチュアは次にガンマチームのメンバーに会った時に獣耳カチューシャが流行中なのを伝えた。
「そうみたいですね」
「うん」
驚いたことに本気で流行っているらしい。
道行く人の中にも獣耳カチューシャを付けている人を見かける。
「もしかしてガルファ氏のおかげかな?」
ガルファにどんぐり杯を渡したのは、三週間ほど前のことだ。
獣耳カチューシャはまたたく間に流行した。
「あの人以外いないよな」
「うん」
ナージャの話を聞いたガルファは「なんとかする」と言っていたのだ。
「名うての商人って本当なんだー」とガンマチームは感心した。
オーグはもちろん、ガンマチームの全員がオーグの姉ナージャのことは心配だった。
流行っているからといって、ちょっとフォーマルな食事会に狼耳(本物)で行くのはどうかと思うが、流行ってないよりは全然いいだろう。
そして獣耳カチューシャの流行と共に心なしか、獣人に対する差別的な行為が少なくなってきている。
「…………」
オーグは包帯に覆われた顔に触れ、そしてゆっくりと包帯を外した。
「えっ、いいの?」
「大丈夫?」
とガンマチームのメンバーはオーグを気遣う。
オーグはずっと人狼であるのを隠していたからだ。
「はい、この先は、強敵揃いです。風を感じないと、動きが鈍くなりますから」
オーグは何か吹っ切れたようなすがすがしい表情だ。
***
カチュア達は目指すラウムストーンがある三十七階に到達した。
ベルンハルトが加わり、戦力がマシマシしたので、超絶ハイスピードでここまでこれた。
ダンジョン内は一般の常識ではあり得ない構造になっている。
ダンジョンの中なのに、三十七階には断崖絶壁がドーンとそびえていた。
カチュア達が断崖絶壁に近づくと
「ピェー」
鋭い叫び声が上がり、空から何かが猛然と襲いかかってくる。
一つ目の鳥だ。
外見は真っ黒く、カラスに似た姿だが、コンドルなどの大型の猛禽類よりもさらに大きい!
羽を広げれば優に四メートルを越える、巨大な鳥だ。
「来たか、一つ目の鳥、とうっ!」
人間が飛んでいる敵と戦うのはかなり不利なのだが、ベルンハルトは高く飛び上がると空中でパンチやキックを繰り出し、一つ目の鳥と戦い始めた。
ベルンハルト達が一つ目の鳥を引きつけている隙に身軽なオーグとリックが断崖絶壁をよじ登り、巣の中を探す。
中には青黒い光を放つ大きな石の塊がある。
ラウムストーンだ。
カチュア達はラウムストーンをゲットした!
無事にラウムストーンを手に入れられたが、ドワーフにはまだ会えない。
ラウムストーンは珍しい鉱石だが、珍しい中では普通よりの鉱石である。
ドワーフ達に会うにはもっと珍しい鉱石が必要だ。
次に目指すのは三十九階。
「そこにはストーンゴーレム達がいて、ストーンゴーレムを百体倒すとイベントクリアとなり、報酬の緑のゴーレム石を手に入れられる。これも珍しい鉱石だ」
ストーンゴーレムは魔法が効きづらく硬い割にドロップ品、経験値共にパッとしない。
いわゆる「美味しくない」モンスターなのでストーンゴーレムを狩る者は多くない。
緑のゴーレム石もストーンゴーレムを倒すことでしか手に入らない鉱石だが、実を言うとさして優れた特徴はなく、これという使い道があるわけではない。
宝石とは違うので道具屋で高く売れるというアイテムでもない。
だが入手方法が極端に限られる鉱石のため、レアといえばレア。ドワーフ達には好まれる石らしい。
カチュア達は三十九階に向かう。
……とその前に。
「あ、私、次々回からしばらくの間お休みくださーい」
カチュアはウキウキ気分でチームの皆にお休みを宣言した。
「どうしたの?」
「息子の試験が終わったの。だから、夫の所に行ってくるわ」
カチュアの家では、エドがロアアカデミーのジュニア校入学試験の書類審査に合格し、次の筆記試験が無事に終了した。
合格発表は試験の二週間後なので、その間にカチュア達は国境地帯に単身赴任中のアランの元に行く計画を立てていた。
「だから私、ちょっとお休みねー」
カチュアはめちゃくちゃ嬉しそうである。
「あー、前に言ってたやつかぁ」
「気をつけてー」
快くカチュアを送り出すガンマチームだった。
しかし。
次にガンマチームに会った時、カチュアはズトーンと落ち込んでいた。
「えっ、旅行中止になっちゃったんですか?」
「あらー」
なんと、カチュアが利用しようと思っていた民間用の転移魔法陣が使用禁止になってしまったのだ。
カチュア達の旅行先、国境地帯は移動制限区域に指定され、それを受けて安全のため、民間人の立ち入りが禁止された。
国境地帯は元々隣国と領土問題で緊迫した状況にある上、最近はモンスターが凶暴化して危ないのだそうだ。
「夫に会えるかと思ったんだけど……」
浮かれてまくっていたカチュアは、反動でかなり落ち込んでいる。
あまりの落胆ぶりに急遽、冒険者ギルドの会議室で「カチュアを慰める会」が開かれることになった。
カチュアの話を聞き、ベルンハルトは深刻そうに眉を寄せる。
「聖剣がなくなり、鎮護の力が弱まった。魔物達の行動が活発化している! 早くなんとかしなければ」
「これって聖剣がなくなったせいなの?」
カチュアはむくっと顔を上げる。
「ああ、おそらく」
カチュアはふるふると拳を握った。
王家のお宝なんてちょっと自分には関係ない気がしていたが、全然そうじゃなかったのである。
「~~~! モンスターめー! 許せない! ベルンハルトさん!」
「は、はい!」
「皆!」
「「「「はい!」」」」
「協力して絶対聖剣を見つけるわよ!」
カチュアのあまりの迫力にガンマチームはビシッと背筋が伸びた。
「「「「「はい!!」」」」」
「ベルンハルトさん、ドワーフの他に聖剣の手がかりは何かないの?」
もう今からは本気である。
カチュアはベルンハルトに詰め寄った。
「そうよ、大体、『導き』って何よ」
と横からアンが聞く。
「『導き』は女神から与えられるカードだ」
「カード?」
「ああ、そこに記されているという。僕も見たことがないので全く分からないが、そう伝承が残っている」
「ふーん」
ベルンハルトは用心深く周囲を見回し、誰も聞いていないことを確認したが、さらに声を潜めてガンマチームに尋ねた。
「君達はスキル【しゅふ】というのを知っているか?」
「えっ、スキル【主婦】?」






