12.流行ってるの!?
「えっ、剣に意思があるの?」
ガンマチームは驚いたが。
「でも魔法の本もいることだし、聖剣には意思があるのかも?」
どういう仕組みか全く分からないが、魔法の本は意思を持っているように見える。
ならば、剣も……?
「なんで聖剣はダンジョンロアにあると分かったの?」
ローラはそう、ベルンハルトに尋ねた。
何があったのかは分からないというベルンハルトだが、聖剣がダンジョンロアの中にあることは確信している様子だ。
「初代の女王達が聖剣を授かった場所が、ダンジョンロアだったのだ。もともと聖剣はふさわしい者の所に現れるという。王家は初代からずっと聖剣を預かっていたが、いよいよその役目が終わったのかもしれない」
ベルンハルトはそう呟くと、肩を落とす。
「だから僕の前にも『導き』すら示されないのだろう。一刻も早く聖剣を元の場所に戻さないと大変なことになるというのに……」
ガンマチームが思わず同情するほどの落ち込みようだ。
「大変ですね」
「俺達も一緒に探しますよ」
オーグとリックが慰める。
「ああ、助かるよ」
男子の友情、美しい。
「とはいえさぁ、手がかりはないんでしょう?」
一方、食後のデザートの林檎を食べながら、トドメを刺してくるのは、アンである。
「うん」
とローラも同意する。
「どうやって探せばいいのかしらねぇ」
カチュアはため息をつく。
「僕に一つ、考えがある」
ベルンハルトが言った。
「考えですか?」
「ああ、ドワーフに聞いてみようと思う。彼らなら、聖剣について何か知っているかもしれない」
「ドワーフか……」
「そういえば月のなんとかっていう指輪……だったと思うけど、そんな感じのアイテムはドワーフが作れるって」
例によって適当にしか覚えていないカチュアである。
「新月の指輪――です」
オーグが探している満月の夜の破壊衝動を抑える指輪だ。
「ドワーフは俺らも探してたんです」
「ドワーフは珍しい宝、特に鉱石に目がない。まずは三十七階を目指そう」
「三十七階?」
「そこにラウムストーンがある」
ラウムストーンは、三十七階にある切り立った崖の上に作られた鳥の巣の中にあるそうだ。
鳥の名前は一つ目の鳥、その名の通り、目が一つしかない鳥のモンスターだ。
巣は断崖絶壁の上に一つしかない。
彼らにとってそこは巣作りの一等地で、一番強い一つ目の鳥のつがいだけがその場所で巣を作る。そのため近くに巣はないそうだ。
「一つ目の鳥は巣に近づいた者を攻撃する習性がある。だが、倒してもすぐ別の一つ目の鳥が巣を陣取ってしまう」
ラウムストーンを手に入れるには、二手に分かれ、一方が一つ目の鳥の相手をし、その隙にもう一方が断崖絶壁を乗り越えて、巣に向かい、ラウムストーンを手に入れる作戦だ。
まずはラウムストーンを手に入れよう。
珍しい鉱石を手に入れれば、ドワーフに出会えるかもしれない!
***
「「「ごちそうさまでしたー」」」
「気をつけて帰ってねー」
話し合いが終わり、ガンマチームは解散した。
「そんじゃ、アタシも帰るわ。ごちそうさま」
「じゃあね、アンも気をつけてね」
もうすっかり夜になってしまったが、ローラはリックと一緒だし、アンは強いから一人でも大丈夫だろう。
「アン」
ベルンハルトは帰ろうとするアンに声を掛けた。
「何?」
振り返ったアンは素っ気なく返事する。
だがベルンハルトはそんなアンにひるむことなく話しかけた。
「探したよ、いきなり出ていくなんて、何があったんだ? 君はまだ病み上がりだっていうのに」
アンはうんざりした様子で手を振ってみせた。
「もう治ったわよ。一年も食っちゃ寝してたから太ったのよ、アタシ」
「でも君は二年も眠り続けていた。僕のせいで……」
「…………」
「僕は君から奪ってばかりだ」
ベルンハルトは苦しそうな表情になる。とても、後悔してる様子だ。
アンはそんなベルンハルトを見つめて、静かに言った。
「アンタがそうだから、アタシは出て行ったの」
「えっ?」
「あれもこれもアタシが好きでしたことよ。いつまでも罪悪感に囚われることはないわ。お互い先に進みましょう。じゃあね」
アンはそう言うと、ベルンハルトを残し、去って行ってしまう。
「それでも、僕は君のことが、どうしても諦められないんだ……」
「うわー、これからどうなるの?」
ベルンハルトが一人寂しく呟くのを、物陰からカチュアが聞いていた。
だって、家のすぐ側で話すんだもの。
***
ベルンハルトが加わり、ガンマチームは快調に先に進む。
カチュアのスキル【主婦】についてはまだベルンハルトに話していない。
隠していたわけではないが、次に一緒にダンジョン探索をした時は、ベルンハルトが当然のように三十一階行きの転移魔法の巻物を取り出したので、カチュアの女神像ワープは使用せず、特にチラシのイベントがある日でもなかったので、言い忘れたのだ。
その次と、その次の次もそうだったので、ベルンハルト加入から二週間が経った今もカチュアはベルンハルトにスキルの話をしてない。
「あ、今日も忘れてたわ」
ダンジョンからの帰り道、ガンマチームの皆と別れた後、カチュアは今日もベルンハルトにスキルの話をするのを忘れていたことに気づいた。
「うーん、でもまあ、いいか」
いずれ何かのイベントの時にでも説明すれば十分だろう。
名前も知られてないレアスキルだし、いきなり言っても信じてもらえないかもしれない。
「お迎えに来たわよー」
「ママー」
夕食の買い出しを終えて、冒険者ギルド保育園にバーバラを迎えに行くと、バーバラが抱きついてきた。
(可愛いー)
我が子にキュン死しかけるカチュアにバーバラが言った。
「ママ、じゅうみみかちゅしゃ買ってー」
どうやら可愛い攻撃を掛けて何かおねだりしたい模様。
だが。
「じゅうみみかちゅしゃって何?」
カチュアは首をかしげる。
「え、カチュアさん、獣耳カチューシャを知らないの?」
近くにいたママ友が教えてくれた。
「獣耳カチューシャ?」
「今王都で大ブレイクのアイテムよ。もちろん、この迷宮都市ロアでもね!」
「えっ、獣耳カチューシャが?」
「そうよ、猫耳、犬耳、熊耳、豹耳とバリエーションが豊富なんだけど、一番人気はワイルド可愛い狼耳カチューシャね」
ふと見るとママ友の頭にも可愛い狼耳が乗っている。
「可愛いでしょう?カチューシャ」
ママ友はそう言うと、自慢げに自分の頭の上にあるふわふわの狼耳に触る。
ママ友は獣人族ではない。
獣耳は本物ではなく、作り物だ。
しかし本物の動物の耳のようにふわふわで確かによく出来ている……。
ハッとカチュアが周囲を見回すと、そこには獣耳付けた子供達とお母さん達の姿が。
「流行ってるの!?」
獣耳カチューシャ、ブレイク中!






