10.究極の選択
カチュア達は大ビンチに陥った。
悪魔剣士は疲れ切った今のガンマチームが勝てる相手ではない。
「ふー」
アンは槍を構え直すと細く長い息を吐き出す。
そしてチームの皆を振り返った。
「転移魔法の巻物を使って逃げて。コイツは私が引きつける!」
アンは悪魔剣士に向かって突っ込んでいった。
「アン!」
アンは逃げろと言うが、そんなことは出来ない。
ローラが声を上げる。
「聖別する。リック、オーグ、武器を出して」
この隙にすることは、逃げることじゃない。戦いの準備だ。
ローラはリック達の武器を強化し、カチュアはがま口を開いて飴(モンスター味)を取り出す。これを悪魔剣士の口にぽいっと放り込むタイミングをじっと狙う。
アンは槍を悪魔剣士に突き刺す。
悪魔剣士にダメージ!
「……っ!」
だが続く二撃目で、攻撃が読まれ、アンの槍ははじかれた。
アンはその拍子に体勢を崩してしまう。
悪魔剣士は剣を振りかぶり、アン目がけて剣を振り下ろす。
その時。
ガンマチームの背後から突如現れた巨大な何かが、アンと悪魔剣士の間に滑り込む。
「真剣白羽取り!」
人一人を真っ二つにする悪魔剣士の剣を、その男は素手で受け止めた。
「――ベル!」
「アン、無事か?」
ベルンハルトだ。
悪魔剣士は突如現れた男にたじろいだ様子で、動きを止めた。
「今だわ!」
カチュアは悪魔剣士の口を目がけ、飴を放り込んだ。
十個は外したけど十一個目が見事悪魔剣士の口に飴が入り、悪魔剣士、飴ちゃんでスローの効果。
「むっ、動きが鈍くなった。今の隙に」
ベルンハルトは素早く聖属性でスケルトンに特攻効果がある武器、『聖なるナックル』を装備した。
「はっー!」
そして気合いを入れた一撃を悪魔剣士の腹に叩き込んだ。
見事決まった一撃に、悪魔剣士は体を前に折り曲げる。
「ふんふんふんふんふんー!」
その隙にベルンハルトは目にも留まらぬ速さで拳を繰り出す。
弱らせたところで、とどめのアッパーが決まる!
ベルンハルト、悪魔剣士、撃破!
***
「ここまで来れば大丈夫ね」
悪魔剣士を倒した後、ガンマチームとベルンハルトは、転移魔法の巻物を使って一階に戻ってきた。
危ない所だった。
無事に帰れたガンマチームは「はーっ」と息をつく。
そんなガンマチームに「大丈夫か?」と涼しげに言うのは、ベルンハルト。
あれほどの戦闘の後なのにベルンハルトはピンピンしている。
「あー、まあ、助けてくれてありがとう、ベル」
アンは言いにくそうに、ベルンハルトにお礼を言う。
ベルンハルトはにっこりと笑った。
「君が無事で良かったよ、アン」
「ベルンハルトさんもダンジョン探索中だったんですか?」
「すごい偶然」
「おかげで助かりました」
「…………」
ガンマチームの感謝の言葉に、ベルンハルトは一瞬黙った後、
「そうだな、間に合って良かった」
と笑顔で言った。
だがすぐにベルンハルトは表情を引き締める。
「しかし骸骨剣士が二体続けて受肉するとは、不思議なこともあるものだ」
ベルンハルトは真面目な表情で考え込む。
「あー、それは……」
言えないけど、カチュアのスキル【主婦】のチラシ効果である。
「前から思っていたんだが、君達のチームは、人数が足りない。さっきのように突発的な事態が発生した時に、容易に崩れてしまう。もう少しメンバーを増やした方がいい」
ベルンハルトはそう忠告してきた。
確かにこの先は強敵揃い。
どんどん戦闘は厳しくなる。
ベルンハルトの言葉は的を射ている。
シンと静まり、沈黙を破ったのは、なんとカチュアだ。
「ベルンハルトさんはガンマチームに入ってくれないの?」
とカチュアはベルンハルトに尋ねた。
「えっ、カチュアさん?」
チーム全員がぎょっとする。
確かにそれが一番だが、ベルンハルトはアンの元彼(?)だ。
ベルンハルトがチームに入るのを他ならぬアンが嫌がっている。
ベルンハルトは苦笑いする。
「それは……」
「ベルンハルトさんが助けに来てくれたのは、偶然じゃないわよね」
カチュアはビシッと指摘する。
「うっ……」
ベルンハルトは痛い所を突かれた。
この広いダンジョン内でガンマチームのピンチに偶然居合わせるなんてことは、あり得ないのだ。
続けてカチュアは言った。
「ベルンハルトさんはずっと私達っていうか、アンのこと見張ってたわよね、二十三階の『力試しの岩戸』の時から」
「えっ、あんな前から?」
「そうなんですか、ベルンハルトさん」
「カチュア、アンタ、なんで気づいたの? ベルンハルトは『身隠しのマント』を着てるから、識別阻害魔法が効いて側にいても分からないのに……」
アンは見張られていることに気づかなかった。
ブランクのせいでカンが鈍っていたのが原因だが、チーム内でものんびりぽよぽよのカチュアだけは気づいていたとは。
「あ、偶然よ。『力試しの岩戸』で私、端っこにいたでしょう? だからよ」
そしてカチュア、ビビリ故に気配には敏感なのだ。
「確かにそうだ。僕はそこのカチュアさんだったか? 君の隣で岩戸を押した」
『力試しの岩戸』は重すぎてガンマチームの力だけでは動かなかった。
見かねたベルンハルトはつい、力を貸した。
「あの頃からガンマチームを見張ってたんですか?」
リックは引いている。
だってもう数ヶ月前のことなのだ。
ベルンハルトは頷いた。
「ダンジョンで偶然、アンを見かけて、それから暇があればつい……」
「だから俺達がどんぐり杯を欲しがっているのが分かったんですね」
「ああ、一度上階に行かねばならなかったから、そのついでに取ってきた」
「要するにアンタは、ずっとアタシらを見張ってた訳ね……」
怒るより呆れてしまうアンだった。
「アン、この人、この先もアンのこと見張るわよ。目の前で見張られるのと、遠くで見張られるのとどっちがいい?」
カチュアは聞いた。
アンの答えは。
「どっちも嫌!」
とはいえ、戦力不足はアンも分かっている。
「分かったわ。チームに入れてあげる」
とアンはしぶしぶ言った。
「アン、ありがとう!」
ベルンハルトはパッと笑顔になる。
だがアンは。
「そ・の・ま・え・に! いい加減アンタの目的を吐きなさい。アンタは何しにこの迷宮都市ロアに来たの?」
アンはずっとはっきりしなかったベルンハルトの目的を白状させる気だ。
ベルンハルトは頭を掻く。
「はぐらかしたつもりはないよ。本当にアンが見つかるかもしれないと思って、ここに来た。だが王命によりここに来たのもまた事実だ」
「王命?」
「ああ、僕はあるものを探している。その手がかりが、このロアダンジョンの中に隠されているんだ。でも正直に言って、手詰まりですね」
ベルンハルトはちょっと弱った様子だ。
「そうなんですか?」
「ああ、王家にはそれを探す手かがりとなる『導き』が残されていたが、肝心の『導き』が僕は得られなくてね」
「ふーん」
「だから、アンタが探しているのは何なのよ」
なかなか核心触れようとしないベルンハルトにアンはいらだっている。
「すまない。とても重要なことなので、今は言えない。どこかに場所を移して話そう」
ここはロアダンジョンの一階だ。
幸い辺りに人はいないようだが、内緒話に適した場所ではない。
「そうね」
「そろそろカチュアさんもお迎えだし」
「また今度?」
「じゃあ続きはうちで話す?」
カチュアはガンマチームとベルンハルトを家に誘った。






