20.レアレア茸デラックス戦その3
「そう、あんただ。正確に言うと、あんたが装備している絶対防衛アーマーが必要だ」
ジャックの作戦は、こうだ。
高速ポーションを飲んだカチュアがローラの盾となり、ローラはカチュアに守られながら、レアレア茸デラックスに近づき、アンラッキーハニーをふりかける。
毒蛇も別の種類の毒蛇から噛まれると、死ぬことがある。
レアレア茸デラックスも自分とは別の種類の幸運値低下攻撃なら効く可能性があるのだ。
アンラッキーハニーの効果でレアレア茸デラックスの幸運値が下がったところを、アン、オーグ、クリフが攻撃する。
カチュアの絶対防衛アーマーは魔法効果にも強い耐性があり、レアレア茸デラックスの超不運胞子は効かない。
つまりカチュアだけでもアタックは可能だが、カチュアは戦いに不慣れだ。
作戦にはレアレア茸デラックスに蜂蜜を掛ける役と盾役の二人いるのが望ましい。
「…………」
作戦を聞き、クリフは眉をしかめた。
ジャックの計画は試してみる価値はある。
しかし、カチュアもローラも聞いている話では、支援職で戦闘に関しては素人も同然。
カチュアのような後衛が、前衛の中でも特殊な「盾役」をこなすのはかなり難しい。
能力だけではなく、襲い来るモンスターを前に一歩も引かず身を挺して味方を守るのは、とてつもない胆力を必要とするのだ。
だがカチュアは、落ち着いた声で名乗り出た。
「私、やります」
「カチュアさん」
「カチュア、危険よ」
「でもジェシカ、他に方法はある?私はこの計画、いいと思う」
そうカチュアに聞かれては、ジェシカ達は黙るしかない。
カチュアのがま口に入っている飴はモンスターの気持ちを静める効果があるが、すごろく蛇はレアレア茸デラックスの洗脳下にいるため、飴を食べようとしない。
「安心して。駄目そうなら、ジェシカにもらった転移魔法の巻物で私とローラちゃんは離脱する。そしたら作戦は失敗よ。皆も逃げて」
小心者なカチュアは小心者故に逃げ道はちゃんと確保しているのだ。
「私が行く。そしてローラちゃんは私が守る!」
***
カチュアは高速ポーションを飲んだ。
「行くわ」
ミッション開始!
まずカチュアが十メートルほど離れたローラとリックのいる場所まで走って移動する。
「ローラちゃん、リック君!」
「カチュアさん」
カチュアはローラにアンラッキーハニーを渡し、ミッションを説明した。
「それは危険ッスよ」
リックは止めたが、ローラは「やる」とアンラッキーハニーを受け取った。
「ローラ」
ローラが作った蛇よけの結界が壊れかけてきていた。
「結界はもうあまり持たない。その前に一回だけ、やらせて」
蛇が平気な女性は少数派だろう。
例に漏れずカチュアも「可愛いカエルのケロちゃんは好きだけど、蛇は嫌い」なタイプだ。
そんなカチュアは大量の蛇を前にプチパニックに陥った。
「いーやー!来ないでー!」
お玉を振り回し、お玉に付いている赤のボタンをポチポチ連打しまくった。
お玉からボーボー火が出ている。
これが火事場の馬鹿力か、本当なら攻撃力1しかないはずのカチュアの攻撃は決まりまくっている。
カチュアのせいで、すごろく蛇は全滅しそうな勢いだ。
運良く黒焦げやお玉のポカポカ攻撃を免れたすごろく蛇は、洗脳より本能の方が勝るのか、レアレア茸デラックスを守らず逃げてしまう。
そんなカチュアに守られてローラは傷一つなくレアレア茸デラックスに近づき…………。
「シューッ」
レアレア茸デラックスは巨体を震わせ、カチュア達に向かって超不運胞子を噴霧する。
だがローラのリフレクトローブは胞子攻撃をはじいた。
「その攻撃は効かない」
ローラは瓶のふたを外し、レアレア茸デラックスに向かって思いっきりアンラッキーハニーを振りかけた。
『夜明けのギャンブル団』の商人が鑑定魔法でレアレア茸デラックスのステータスを確認する。
「レアレア茸デラックス、幸運度0です!」
「よし!」
「行くわよ!」
「おう!」
武器を構え待機していたオーグ、アン、クリフがレアレア茸デラックスに向かって駆け出す。
レアレア茸デラックスはオーグ達に超不運胞子を振りまこうとしたが、
「しゅぅぅ」
と悲しげな音しか出ず、攻撃は不発。
「思い知ったか、デラックス!これが幸運値0の世界だ」
とジャックがふははっと勝ち誇る。
この隙にオーグ達が攻撃を仕掛けた。
レアレア茸デラックスは姿形は大きいものの、防御力は普通のきのこと変わらない。
最初にオーグが一撃を食らわせ、続いてアンとクリスの同時攻撃が決まる!
「的が大きいと外さなくていいねぇ」
攻撃役三人はあっという間にレアレア茸デラックスを切り身にした。
カチュア達はレアレア茸デラックスを倒した。
レアレア茸デラックスのドロップ品、レアレア茸(切り身)を3つゲット!
***
戦闘の後は、皆満身創痍だったので、すぐに撤収した。
そして高速ポーションを飲んだカチュアは三日間寝込んでしまった。
その間、子供達の世話とカチュアの看病をしたのはジェシカだ。
カチュアがようやく元気になって寝室ではなく、食卓でご飯が食べられるようになった時には、ジェシカは色々大変で少しやつれた様子だった。
「ごめんね、ありがとー」
ジェシカお手製のオートミールを牛乳で煮た定番の病人食を食べるカチュアはジェシカにお礼を言った。
ジェシカは今日も朝から大変で、今はバーバラを保育園まで送ってきた後なのだ。
「ううん、こっちこそ、ごめん。守れなくて」
「そんなの気にしなくていいのに」
カチュアが元気になったと聞いてガンマチームの皆がカチュアの家までお見舞いに来てくれた。
カチュアが眠っていた間のことを、教えてもらった。
結局、レアレア茸デラックスからレアレア茸(切り身)は三つドロップした。
ドロップ品はガンマチームとジェシカ達の『飛雪の豹団』、それとお宝ハンター『夜明けのギャンブル団』で等分に分けた。
『夜明けのギャンブル団』のジャック達は、
「もらうわけにはいかねぇ」
と恐縮して最初受け取ろうとしなかったが、彼らがいなければレアレア茸デラックスに勝てなかっただろう、というのはガンマチームとジェシカ達の総意だ。
最終的には受け取ってもらった。
指名クエストはクリアということになり、借りた装備はすべてもらうことになった。
それとは別にミッション報酬として100万ゴールド。
そして道具屋カードの最上級カード、プラチナカードもくれる話になったが。
「それ、断ろうと思うんですよね」
とリックが言った。
「あ、それがいいと思う」
とカチュアは同意した。
「えっ、どうして?道具屋プラチナカード、お得よ」
側で話を聞いていたジェシカは驚いた。
「こういうのは、コツコツとランクアップするのがいいのよー」
カチュアは熱く説明した。
「ですよねー」
とリック。
代わりに道具屋ブロンズカードをくれるそうだ。
それはありがたくもらおう。
ガンマチームは道具屋ブロンズカードを手に入れた!
「えっ、先輩達はそれでいいんですか?」
ジェシカには分からない世界だ。
「正直アタシにも分からないけど」
と苦笑いしてアンが言った。
「プラチナカードを受け取らないのは賛成だね」
「どうしてです?先輩」
「まだCランクのアタシらがプラチナカードなんて所持したら、他のチームに目を付けられるだろ?」
「まあ、確かに」
ジェシカも納得する。
プラチナカードは最低でもBランク以上のチームが所持出来るカードだ。
「さてと、アタシらは帰るわ」
話が終わるとガンマチームの皆はすぐに立ち上がる。
「あら、もう帰るの?」
「ええ、まだ本調子じゃないんだから、あんまり長居しちゃ、悪いよ」
「無理しないで」
「お大事に」
「また」
とガンマチームは帰って行く。
「あの、先輩」
カチュアの代わりに玄関まで見送りに出たジェシカはそっとアンに声を掛けた。
「何?」
「また、一緒に戦えて嬉しかったです」
それを聞いたアンはにっこり笑った。
「アタシもよ」
「それで、あの、ベルンハルトで……様はアン先輩がロアにいることを知ってるんですか?」
「知らないと思うわ。言ってないもの」
「えっ、ナイショで来ちゃったんですか?」
「そういうこと。だから、アンタも黙っててよね」
「は、はい」
ジェシカは内心「大丈夫かなぁ」と思いながら、頷いた。






