18.レアレア茸デラックス戦その1
レアレア茸採取ミッションが開始された。
ガンマチームとジェシカ、クリフは作戦決行の朝、ダンジョンロアの前に集結した。
「行きましょう」
一階に入るとすぐにカチュア達はジェシカの魔法で三十階に転移する。
「うわー」
「ここかぁ」
転移したのは深い森の中だった。
少し薄暗い雰囲気のそれは野外系のマップではよく見るタイプだ。
だが――。
曲がりなりにも二十五階まで行ったカチュア達には分かっている。
実はあまり特徴のないマップの方が、厄介なモンスターが出現しやすいのだ。
「レアレア茸は向こうにある草原に出現するわ」
草原にはレアレア茸以外に強いモンスターが出現することもあるので、転移直後に囲まれたら危ないと、転移魔法のアクセスポイントは比較的安全な少し離れた森の中に設定された。
騒ぐとモンスターとのエンカウント率が上がってしまう。
目的地までは出来るだけ静かに移動するのがダンジョン探索の鉄則なのだが……。
「のわーーーー!」
野太い声が森に響き渡った。
「ミスティックピクシーじゃねーか!超レア!初めて見たぞ!」
声の主はクリフだった。
クリフは興奮している!
クリフの視線の先には、妖精のモンスター、ピクシーのレア種ミスティックピクシーがふよふよ浮いている。
「こら待て!捕まえてやる!」
クリフはミスティックピクシー目がけ走り出そうとしたが、アンに首根っこをひっつかまれる。
「クリフさんだっけ?今は駄目よ」
「だが……」
クリフは血走った目でアンを振り返る。
「目的を忘れたの?レアレア茸を採りに行くんじゃなかった?」
アンの言葉にクリフは我に返った。
「そっ、そうだった。だが間違いない。あれはミスティックピクシーだった。すんげぇレア種が急に現れて取り乱した。すまない」
とクリフは皆に謝る。
クリフはBランクの冒険者チーム『飛雪の豹団』のリーダーだ。
本来なら冷静で慎重な性格なのだが、さしもの彼もレアの中でもさらに珍しい幻のピクシーと呼ばれるミスティックピクシーを前に、思わず興奮してしまった。
ジェシカは呆然と呟いた。
「こんな低層にミスティックピクシーが出現するなんて……。これがレアウィークの威力。これなら、レアレア茸を手に入れられるかもしれないわ。行きましょう!」
カチュアは絶対防衛アーマーを着込んでいるので、動きはいつもよりのろい。
そのカチュアに合わせて移動するので、一行はゆっくりしたスピードで森を抜け、草原に向かっている。
草原に出たカチュア達の前に見たのはモンスターと人の影。
「あれ?」
「誰かいる?」
どこかの冒険者チーム十名ほどがモンスターと戦闘中だ!
冒険者チームはもうボロボロで全員、地面をのたうち回っている。今にも全滅させられそうだ。
彼らと戦っているのは大量の蛇だ。
三十階に生息する蛇のモンスター、すごろく蛇である。
すごろく蛇は体長50センチほど。
決して大きな蛇ではないが、数が多い。
優に百匹を越えるだろう。
さらにジェシカ達からの事前情報で、猛毒を持つ危険な蛇モンスターだと聞いている。
それと……。
ジェシカは息を呑んだ。
冒険者達から少しは離れた場所で、自身を防衛させるようにすごろく蛇を周囲に侍らせている超巨大きのこは。
「あれは!レアレア茸デラックス……!」
レアレア茸のレア種、レアレア茸デラックスだった。
***
「レアレア茸だけでも珍しいのに。レア種のデラックスだわ!」
レアウィーク、お得過ぎ……!
戦慄するジェシカとクリフだった。
ジェシカ達にはレアレア茸デラックスと交戦中の冒険者チームに心当たりがあった。
他ならぬジェシカ達がレアレア茸の採取を依頼したトレジャーハント専門の冒険者チーム、『夜明けのギャンブル団』だった。
リーダーは賭博師、商人、道化師など、幸運値が高いメンバーで構成されている。
支援職が多いため、戦闘力で劣ると思われがちだが、猛獣使い、怪力男などの力自慢や魔法使いの頭脳派も揃い、手に入れたゴールドとお宝アイテムのおかげで装備は一級。
個人の平均レベルも高く、チームランクはBランクだ。
迷宮都市ロアでは一目置かれる名うてのチームだった。
「ジェシカ達の知り合い?」
「助けよう!」
「おーい、大丈夫か」
ガンマチーム達は、二手に別れた。
治療師のローラとローラを守る護衛役のジェシカとクリフは『夜明けのギャンブル団』に大急ぎで駆け寄り、リックやオーグ達はレアレア茸デラックスとすごろく蛇を足止めし、ローラ達と怪我人を守る役目だ。
なお、絶対防衛アーマー装備のカチュアはノロノロと皆のあとを追いかけ中である。
「ジャックさん、無事?」
「大丈夫か?」
ジェシカとクリフはリーダーの賭博師、ジャックに声を掛ける。
ジャックはかなり痛むのか、地面を転がり起き上がれない。
「あんたら、『飛雪の豹団』の……?」
「何があった?」
「分からん、レアレア茸を探していたら、いきなりあのでっかいヤツが来たんだ」
ジャック達はガンマチームのチラシ効果に巻き込まれ、レアレア茸デラックスに遭遇してしまったようだ。
その時、リックがすごろく蛇の攻撃を躱した。
忍者装備『上忍』でキメたリックにとっては難なく避けられるスピードだ。
レアレア茸、そしてそのレア種であるレアレア茸デラックスは出現率こそ低いものの、特殊能力をのぞけば、普通のキノコモンスターと変わりないと言われている。
「一回攻撃してみるッス」
そのままリックはレアレア茸デラックスに突っ込んでいく。
リックはガンマチームの斥候で、足の速さを生かして、最初に戦闘を仕掛ける役なのだ。
だがそれを見たジャックは血相を変えて怒鳴った。
「馬鹿!止めろ!攻撃を仕掛けるな!」
しかしリックは既にレアレア茸デラックスに向かって走り出した後だった。
リックがレアレア茸デラックスに近づいた瞬間、レアレア茸デラックスはその巨大なきのこ笠を動かし、「シューッ」と胞子をばらまいた。
リックはその胞子を浴びてしまう。
そして。
「うわっ」
身軽さとバランス能力には定評がある盗賊リックだが、何もないところで転んだ。
そこにすごろく蛇が襲いかかり、リックは避けられず、噛みつかれてしまう。
「リック!」
ガンマチームは蒼白になるが、不用意に近づけば、リックの二の舞になってしまう。
リックは地面をのたうち回り、叫んだ。
「かゆーい!」
ジャックがボリボリと蛇の噛み跡を掻きながら呟いた。
「いわんこっちゃない。それはすごろく蛇の最初の攻撃だ。『かゆい』『しみる』『こむら返り』などの嫌な効果を順に仕掛けてくるぞ。おまけにあいつは最後にとんでもねぇ武器も持ってる」
「さっきの胞子は何?」
ジェシカはジャックに尋ねた。
ジャック達はお宝ハンター。
お宝アイテムを持つモンスターの情報には精通している。
「レアレア茸の胞子はこっちのステータス値操作を無効化する支援効果無効化胞子だが、レア種のレアレア茸デラックスのはそれより威力が強ええ。幸運値を下げる超不運胞子だ」
超不運胞子の効果は、幸運マイナス100。
その効果で、素早く身のこなしが軽いリックが「何もないところで転ぶ」という本来あり得ない不運に見舞われた。
「そんな……」
「それとすごろく蛇を甘く見るなよ。あいつの『あがり』の攻撃は即死の猛毒だぞ」
すごろく蛇の攻撃の大半は命に関わるものではない。しかし、じっくり足止めした最後に即死の猛毒を仕掛けてくるのだ。
超不運胞子にはほんのわずかだが、洗脳効果も含まれている。
成分はごくごく微量なため、人間のような大きな生き物には通じにくいが、すごろく蛇のような小型サイズの生物は洗脳されてしまう。
レアレア茸デラックスはその洗脳効果で自身を守るよう、すごろく蛇達に命令を出しているのだ。
レアレア茸デラックスの周りを囲むように、すごろく蛇がうようよしている。
それはまさに鉄壁の布陣だった……!






