17.ミッション三十階!その2
「…………」
オーグは少し考え込んだ。
しばらくして顔を上げた彼はジェシカとクリフを見つめる。
「もし三十階に行くなら、俺は……」
そう言った後、オーグはリックの方を見て、言い直した。
「俺達は、ローラとカチュアさんのことが心配なんです。二人を守ってもらえますか」
リックも「そう、それ」と頷く。
クリフとジェシカは頷いた。
代表してクリフが答える。
「確約は出来ない。だが出来る限りのことはする。俺達は三十階に何度も行っていてエリアは熟知している。これでも『飛雪の豹団』はそこそこ名が売れたチームでね、経験はあるつもりだ。二人のことは全力で守らせてもらう」
それを聞いて、オーグはアンとカチュアに言った。
「俺、皆がいいなら受けてみたいと思います。レアレア茸が必要な人がいるなら、届けてあげたい」
「俺達も賛成です」
「うん」
リックとローラも同意だ。
「そっか」
「うん、ありがとう」
アンはジェシカ達に向き直る。
「じゃあ、引き受けるよ、そのミッション」
ジェシカとクリフは安心したようだ。
「ほう」と息をつく。
「ありがとう!その代わり、出来る限りのバックアップはさせてもらうわ。マネキンを見てみて。あなた方の為に用意した装備よ」
「さあ、手に取ってみて。気に入らなかったら別のものを用意するわ」
ジェシカに促され、ガンマチームは防具を着せられたマネキンに近づいた。
リックが目を丸くして叫んだ。
「えっ、これって忍者装備の『上忍』装束じゃないですか!」
リック憧れの忍者装備の高級グレードだ。
「これ……」
オーグが見ているのは、いぶし銀に輝く胸当てと手甲に足甲。軽装甲の一揃えだ。
「ミスリル製だ。軽くて丈夫。スピード重視の前衛にはぴったりだろ」
クリフが自慢そうに説明する。
ローラはそっとそのローブの裾をつまんでみる。
「……すごい魔法」
そのローブもただのローブではない。強力な魔法が掛けられていた。
「それは、リフレクトローブ。その名前の通り、反射するローブよ」
リフレクトロープは全ての魔法を反射させる作用を持つ防具だ。
敵の仕掛ける魔法はもちろんのこと、味方の強化呪文まではじいてしまう。
自分自身に掛ける魔法と、アイテム使用だけは有効だ。
リフレクトローブの効果を消す反射防止機能の腕輪をはめれば、魔法をはじかなくなるが、その際はリフレクトローブはただのローブになってしまう。
かなり使い勝手が難しい防具なのだが……。
「ガンマチームさんは少人数で、支援役はあなたとカチュアだけだって聞いたから、この装備も使いこなせると思ったの」
「アン先輩のは」
「地竜の皮だね、これは」
地竜は比較的良く見かけるドラゴン種だが、ドラゴンの皮を使ったドラゴンメイルは超高級品だ。
「…………」
マネキンはもう一体あった。
カチュア用らしいが、それは重装戦士が着るようなすんごいプレートアーマーだった。
皆のと違ってちょっとかっこ悪い。
「ジェシカ、これ、私のなの?」
カチュアは念のためにジェシカに聞いてみた。
「そうよ、これは守りに特化した防具、絶対防衛アーマーよ」
「えー」
「これはね、学者や技術者の非戦闘員を安全にダンジョン内に送り届けるために開発されたアーマーなの。見た目よりかなり軽くて、とっても丈夫よ」
ジェシカは自信満々で言った。
絶対防衛アーマー。
別名移動要塞とも呼ばれる防具である。
鉄壁のガードを誇るが、戦闘力は1固定となり、素早さは10固定。
これはダンジョン内最弱モンスター、スライムにダメージを与えられず、初級学校の一年生にも余裕で追い抜かれるスピードである。
「いざとなったらこの高速ポーションを飲んで逃げて」
とジェシカはカチュアに一本のポーションを渡す。
「そんな便利なものがあるのね」
ジェシカはカチュアに念を押した。
「いい?『いざとなったら』、よ。普段は飲まないでね。それ、10分間、高速で動ける代わりに三日間、寝込んじゃうから」
「怖っ!」
そしてくるりと振り返ると、今度はオーグ達に声を掛けた。
「オーグ君とリック君には武器も用意したわ。使い慣れたものがいいなら無理に進めないけど、良かったら見てみて」
「ありがとうございます……でも、あの、この武器と防具、貸してもらえるってことですか?」
リックは買えばすごい金額になりそうな武器と防具に引きながら尋ねた。
「ええ、三十階に着くまではこの装備、全て貸すわ」
「もし、レアレア茸を手に入れられたら、クエスト報酬としてそのまま受け取ってくれ」
とジェシカ達は言った。
ここまで大盤振る舞いだと、嬉しいより、とまどうガンマチームだった。
「うわ、責任重大」
「太っ腹」
「いいんですか?」
「ええ、一緒に頑張りましょう!ガンマチームさん」
***
作戦決行は三日後に決まり、その前日。
「いつも本当にごめんね」
カチュアは夜遅い時にはエド達を預かってもらっている同じ官舎のナンシー宅に手土産を持ってご挨拶に行った。
実際にダンジョンに行くのは明日だが、朝早く預けるので、挨拶は前日にすませておく。
ナンシーは手を顔の前でパタパタと振る。
「いやいや、気にしないでよ、そんなこと」
「でも最近はうちばっかりお世話になって。ごめんね」
「いいって、うちの下の子が赤ちゃんの頃は何度も預かってくれたでしょう。あの時のお返しよ。それよりこのお菓子、ガルファ菓子店のお菓子よね?」
ジェシカに「持って行って」ともらったのは、ガルファ商会系列店の商品だった。
「うん」
子供が喜ぶ苺のショートケーキに、大人好みのオレンジパウンドケーキのセットである。
「行列必至の人気商品よ。どうもありがとう。ここのお菓子、食べたかったんだー。王都でも人気なんだって」
「そうなんだ」
「ガルファ商会といえば国内有数の大店だもんね。商会長のガルシア氏のお嬢様は第三王子様の婚約者候補になったらしいわよ」
「へー、すごいのねぇ」
最近ちょっと忙しくて流行に遅れがちなカチュアは感心した。
ガルファ商会は迷宮都市ロアでは有名なので、オーナーに関する噂話は主婦も注目なのだ。
ガルファ氏は爵位を持っていない平民だが、豪商ともなれば爵位に関係なく王家にも嫁げるらしい。
「お嬢様がもし王子妃になったら、この迷宮都市ロアから王子妃誕生なのね。すごいわぁ」
などとナンシーは気の早いことを言う。
「そうなるといいわね」
ガルファ氏もガルファ氏のお嬢様も見たことはないが、地元から王子妃が誕生すると思うとちょっとわくわくしてくるカチュアだった。






