14.指名クエストその2
こんな機会でなければ、一生食べられないかもしれないので、カチュアも「最上級霜降りモーモの肉のコース、普通盛り」でお願いした。
最上級霜降りモーモには一度遭遇し、お肉をGETしたことがあったが、道具屋で売ってしまって食べられなかったのだ。
「アンタらもそれにしなさいよ、そのガルなんとかさんのおごりでしょう、ここ」
アンの一言で、ジェシカ達もそれにした。
肉はほっぺたが落ちそうな程、美味しい。
「あー、おいしい」
「本当、口の中でとろけるわー」
「美味しい」
「うめー」
肉を食べると人は元気になるらしい。
最上級霜降りモーモの肉効果で、その場は和やかな雰囲気に包まれた。
「それにしても、世間は狭いわね。アンとジェシカが知り合いだなんて驚いたわ」
「それは私のセリフよ。なんでカチュアがアンネリア先輩と同じチームなの? どこで知り合ったの?」
「えーと、冒険者ギルドのパーティーマッチングで」
「え、パーティーマッチング? そんなわけないでしょう? 先輩とでん……」
「ジ・ェ・シ・カ」
アンが笑顔でジェシカの名を呼ぶと、
「……はい」
ジェシカは即座に黙った。
代わってアンがカチュアに言う。
「昔の話よ。今の私はただのアン。ところでカチュアとジェシカ、アンタ達はどういう関係なの?」
それはジェシカの連れの男性も知りたかったようで、興味津々だ。
カチュアは普通の主婦、ジェシカの方は魔法使い。
ジェシカは魔法学校を卒業しているので、普通学校に通っていたカチュアとは学校も違うはずだ。
「えーと、ジェシカは元々ご近所の幼なじみで、昔からの友達なのよ。夫の又従姉でもあるの。今、うちの夫が単身赴任中だから、心配して下宿してくれてるの」
「要するに家族ぐるみの付き合いってこと?」
「そう」
「なのになんでカチュアのチーム名も知らないの?」
「俺もそれは聞きたい」
と男性がアンの問いに同意する。
ジェシカはアンの視線に縮こまる。
「面目ありません、先輩。カチュアがチームを作ってダンジョン探索を始めたのは聞いていたんですが、チーム名は聞きそびれて……。後からバーバラに聞いたら……」
バーバラは保育園に通うカチュアの娘である。
「聞いたら?」
「『ママはマンマチームにいるの!』っていうから、てっきり保育園のママさん同士で作った同好会みたいなものかと……」
カチュア達のチームの名は、ガンマチーム。
惜しい。似てるけどちょっと違う。
ジェシカが勘違いしたもう一つの理由は、バーバラからカチュアが毎日家に帰って来ており、生活はあまり変わっていないと聞いたからだった。
ジェシカもそうだが、上層階を目指す冒険者は何日もダンジョン内で寝泊まりするのが当たり前の生活になる。
さらにカチュアに冒険者として強くなっている気配はみじんも感じられないので、てっきりジェシカはカチュアが所属してるのはエンジョイ派のマンマチームだと思い込んだ。
「あー、そういうこと」
アンも大いに納得した。
***
「ガンマチームにお願いしたいのは、三十階にあるレアレア茸(切り身)の入手です」
主役のステーキを食べ終えた後、ジェシカは本題に入った。
「…………」
アンとカチュアは顔を見合わせる。
偶然にもレアレア茸はカチュア達も探している最上級状態異常解除ポーションの材料だ。
「訳を聞いても? 三十階ならアンタ達、とっくに到達しているんじゃないの?」
「はい。ですが、レアレア茸は幸運値がとても高くないと出現しないきのこ型のモンスターなのです。遭遇自体、稀、そこからさらにドロップをさせるのが難しくて」
「我々も色々な道具や魔法で幸運値を上げてみたんですが、レアレア茸はそういうステータス操作を解除する支援効果無効化胞子をまき散らすんです」
ジェシカのチームメンバーの男性、クリフが続いて言う。
「何度も三十階に行きましたが、レアレア茸を手に入れられず、正直言って、もうお手上げなんです」
「そんな中、最近、ガンマチームが珍しい薬草を市場に流していると聞きまして。お願いします、どうかクエストを受けて下さい!」
二人はそろって頭を下げた。
「……ちょっと失礼」
カチュアとアンは二人からクルッと背を向け、ひそひそと話す。
「どうする? カチュア」
「えっ、私に聞くの?」
「だってこの依頼、アンタのスキル頼みだもの。レアレア茸、見つかりそう?」
「うーん、やってみないと分からないけど、レアウィークならもしかしてイケルかも」
「試してみる価値はあるね。でもカチュア、レアウィークはあのクイーンヒエヒエ鉄蟻が出てきた週、一回こっきりだろう?またレアウィークは来るのかい?」
「断言は出来ないわ。でもなんとなくまた来そうな気がするのよ、レアウィーク」
「理由は?」
「ただのカンなんだけど、チラシにあった文言とか、文字のサイズとか、年に数回ありそうなイベントの感じだったのよ」
「なるほど、主婦ならではの『読み』ね。つまり、数ヶ月か、遅くても一年以内にレアウィークが来るとすれば、受けても良さそうね、この依頼」
「えっ、いいの?」
カチュアは驚きの声を上げる。
「あら、カチュアは反対?」
「ううん、その逆。出来れば受けたいわ。でもレアレア茸は私達にとっても必要でしょう? よそのチームに渡すなんてって言われると思ってた」
カチュアにとってジェシカは大事な友人だ。
力になりたいと思ったが、チームの一員としてはチームを優先しないといけないとも考えていた。
そんなカチュアにアンは言った。
「まあ普通に考えると自分達の分が優先だけどさ。九十九階のアレのこともあるし、レアレア茸だけ手に入れても意味ないから、アタシらの分は後回しでいい。こっちは年に数回、もしかしたらチャンスがあるんだし、また手に入れる機会もあるでしょう」
アンは念のためか、九十九階のアイテム、『どんぐり杯』のことはぼかした言い方をする。
「そうね。ありがとう、アン」
「お礼は言いっこなしよ。アタシにとってもジェシカは可愛い後輩なの」
アンはそう言って、片目をつむってみせた。
「さてと」
とアンはジェシカ達を振り返る。
「依頼を受けるわ」
ジェシカ達はパッと顔色を明るくする。
「本当ですか! 先輩」
「ただし、私達も運頼みだ。実際に手に入れられるかは、確約出来ないよ。なんせアタシらはまだ三十階に到達してさえいないんだ」
「それは、もちろん分かってます!」
「それじゃあ、引き受けた」
カチュア達は指名クエストを受けることになった。






