12.ポーションの材料探しその4
無事に二十三階の『力試しの岩戸』を越えたカチュア達は、その後も順調に冒険を続け、二十五階に到着した。
ダンジョン内は階ごとに雰囲気ががらりと変わる。
一番多いのはレンガ造りの迷路が続くレンガエリアだが、二十三階のような坑道だったり、深い森や墓地なんて階もある。
二十五階は階段を上がった瞬間、目の前に一面の草原が広がっていた。
何故かダンジョン内なのに、空といっていいのか、天井というべきか、遙か上に月が出ていた。
二十五階は時間固定マップで、いつでも夜なのだ。
アンは遠くに見える小高い丘を指さした。
「あれが、月光の丘だね」
二十五階には建物と呼べるものはほとんどない。
「ほとんど」というのは、丘から少し離れた所に大きな木があり、それが上階に続く螺旋階段だそうだ。
その木以外は遮蔽物は何もなく、おかげで小さくではあるが目的地の丘が見えている。
『月光の丘』というロマンチックな名前通り、丘はほんのり月光に照らされていた。
しかし目視は出来ているものの、草原はいばらの茂みや意外と流れが速い小川などが行く手を阻み、一直線に月光の丘まで進むことは出来ない。
出現するモンスターをチクチク倒しながら、カチュア達は月光の丘に向かった。
月光の丘に最上級状態異常解除ポーションの材料である『月下美人草』があるという。
月下美人草は超超高級美容薬『美人のポーション』の原料として有名だ。
三十階まではまだ低層階の扱いで、Cランク以上、レベルを上げ装備を調えたならDランクの冒険者チームでも、到達するのは難しくない。
なのに『美人のポーション』が超超高級品なのか?
その秘密は、月下美人草の珍しい特性にあった。
月下美人草は五人で力を合わせて一輪しか摘めない。しかもそれを摘めるのは一度だけであとは一生採取不可能というアイテムだそうだ。
「調べたところ、正確に言うとちょっと違って、暦が一巡する間は『採取不能』だそうです」
とリックが教えてくれた。
「ってどういうこと?」
「月と太陽と星の暦ってあるじゃないですか。あれが一巡するのが六十年なんだそうです」
カチュア達が普段使っているのは太陽の動きが元になっている太陽暦なのだが、その太陽暦に月や星の動きを組み合わせた大きな周期が存在する。
主に宗教行事などで使われる神様の暦だ。
「そうなんだ」
「暦が変わったら、また摘めるようになるそうですが……」
「六十年に一度だけなら一生って言うのと変わらないわねー」
そんな話をしながら、カチュア達は月光の丘にたどり着いた。
「これが月下美人草?」
「……多分」
月光に照らされた丘は一面、緑の絨毯だが、どこを見ても花は一輪も咲いていない。
おかしなことに丘は、厚みのある葉を持つ植物一種類だけの花畑を構成していた。
花はいずれも硬いつぼみのまま、閉じている。
「月下美人草は、五人以上の人間がサークルを作り、月に祈ると咲くそうです」
月の女神は暦が巡る間、一度だけ人々の祈りに答えてくれるそうだ。
「やってみましょう」
「うん!」
五人は選んだ一株を囲み、手を繋ぎ、祈りを捧げると……。
「あ、咲いた」
「綺麗……」
大きな白い花が咲いた。
カチュア達は月下美人草を手に入れた!
***
無事に月下美人草を手に入れたカチュア達の次なる目的は?
「三十階のレアレア茸ね」
アイテムの正式名称はレアレア茸(切り身)である。
きのこのモンスター、レアレア茸がドロップするアイテムだ。
「レアレアっていうだけあって珍しいきのこだそうです」
「そっかー、でもレアも何も三十階にたどり着くのが先よね」
「モンスターもどんどん強くなっているから、俺達もレベルアップしていかないと」
「頑張る」
冒険者ギルドではチームを組むと無料でロッカーを貸し出してくれる。
カチュア達は摘んできた月下美人草をそこにしまった。
ロッカーは特別な素材で出来ており、中は時間が止まっているというスゴいもので、チームランクによってロッカーの大きさが分けられている。
Fランクの時は30センチ四方くらいのボックスタイプでかなり小さかったが、それでも重宝したものだ。
Cランクになったガンマチームには扉一枚分くらいの大きさのロッカーが与えられている。
今のカチュア達にとっては十分なサイズだが、長年冒険者チームを組んでいるとこのロッカーだけでは足りなくなり、他に倉庫を借りるそうだ。
用事を済ませたカチュア達は、いつものように受付に、「ありがとうございましたー」と声を掛けて帰ろうとしたのだが、
「あっ、ガンマチームさん」
さっと受付嬢が出てきてカチュア達に言う。
「ちょっとお話があるんですがよろしいですか?」
改まった口調にカチュア達は少し戸惑うが、話しかけられたのはこういう時ノーとは言えないカチュアだった。
つい、カチュアは「はい、ちょっとだけなら」と頷いてしまった。
「ではこちらへ」
と受付ではなく、カチュア達はその奥のギルド職員の会議室に通された。
あまり人に聞かれたくない用件を話す時に使われる部屋だ。
「私達、何かした?」
「心当たりないっス」
カチュア達はコソコソと話し合うが、誰にも思い当たる節はない。
一体何の用だろうか?
カチュア達がソファに腰掛けた直後、ノックの音がして、
「ガンマチームさん、お呼び出しして申し訳ありません」
やってきたのは、受付嬢の上司、クエスト課の課長であった。
えっ、こんな偉い人来ちゃうの?
やっぱり私達何かしたの?
とカチュアは息を呑んだ。
オーグが落ち込んだ様子で呟いた。
「俺が人狼だから追い出されるんじゃ……」
「そんなのアンタは悪くないわよ」
アンはビシッとオーグに言った後、クエスト課の課長に向き直る。
「うちのチームに何の用ですか?」
課長はアンを見てほんの少し目を瞬かせた後、話し出した。
「実はガンマチームさんにお願いがありまして」
「お願い?」
「はい、ガンマチームさんに指名クエストが入りました。それを受けて欲しいんです」






