02.ポーションの材料探しその1
話が済むと、カチュア達はダンジョンに向かった。
レシピに載っていた材料はどれもダンジョンの上階にある。
探索を進めて、材料を探そうということになったのだ。
最上級状態異常解除ポーションの材料は。
「十二階のゾンビからドロップする腐った土。十四階のジャイアント蜂のドロップ品アンラッキーハニー、十五階の百年亀の甲羅、十八階のナイトメアのたてがみか……」
一部「飲み物に混ぜていいの、それ?」と思うような材料があるが、集めるしかない。
最上級ポーションの材料でありながら、カチュア達でも頑張れば手が届きそうなものばかりなのも、探索を優先したい理由の一つだ。
ただ、最後の材料は、大変そうだ。
「一番手強そうなのは、九十九階にあるどんぐり杯ね……」
カチュア達はまだようやく十階にたどり着いたところ。
九十九階はカチュア達にとって途方もなく遠い道のりだ。
そして妙に牧歌的な名前のアイテムである。
どんぐり杯の『どんぐり』はあの木の実のどんぐりのことを指すのだろうか?
低層階の情報は冒険者ギルドで無償で公開しているので、冒険者ギルドに加入していれば誰でも閲覧出来る。
だが階数が上がるにつれてそうした公開情報は少なくなり、九十九階の情報はほとんどない。
上層階についての情報は到達したパーティーの財産で、それを明かしてもらうとなると、かなり高額の情報料を支払う必要があるそうだ。
いずれカチュア達も九十九階の情報が必要とする日がくる。……かもしれないが、まずは他のアイテムを手に入れよう。
しかしその前に。
「一階の女神像様のところ寄っていっていいかしら?」
とカチュアはパーティの仲間にお願いした。
「構いませんけど」
「どうしたんですか?」
「料理してたらちょっとやけどしちゃって。女神像様に治してもらおうかと」
ローラの回復魔法で治してもらうことも出来るが、女神像は入ってすぐそこだ。
もったいない精神でカチュアは女神像に頼ることにした。
カチュアと一緒に全員連れ立って女神像のほこらに向かう。
「今日も行ってきます。どうか見守っていてください、女神様」
カチュアがいつもの通り、女神像に祈った時、
ピコッとステータスボードが出現した。
『ワープしますか? ワープしたい時は、ワープと言うだけで楽々転移!』
カチュアは驚いて悲鳴を上げた。
「はっ? えっ、ワープ!?」
「カチュアさん、どうしたんですか?」
その瞬間、カチュア達はワープした。
「なっ、何があったの?」
普段動じないアンも驚いている。
「あー、びっくりした。今なんか転移魔法みたいに揺れましたよね」
「びっくり」
「地震か?」
一同は辺りを見回す。
部屋の中は一見先ほどまでと変わらない一階の女神像のほこらに見えるが、どこか違う。
「ここ、十階じゃない?」
カチュア達はあわててほこらの外を覗くと、女王蟻を失ったせいか、モエモエ鉄蟻の姿は見えず、代わりに同じく十階に生息するモンスター、大モグラが生息域を拡大している。
やはり十階の女神像のほこらのようだ。
「カチュア、アンタ、転移魔法使えたの?」
カチュアはぶんぶん首を振って否定する。
「そんなわけないわよー」
「じゃあ、スキル【主婦】のせい?」
「……多分」
言われてみるとカチュアはうっすら心当たりがあった。
「もしかして」
とカチュアはがま口からモンスターポイントカードを取り出し、モンスターポイントカードの四十ポイントにスタンプが押されているのを確認する。
カードには、
「女神像ワーププレゼント!」
と書かれていた。
すっかり忘れていたが、モンスターポイントカードの四十ポイント達成でもらえた機能、
『冒険に便利な新機能をプレゼント! これさえあれば移動も楽々! ワー……』
の続きは、『プ』だったのだ。
「女神像ワープってことは、好きな場所にワープ出来るわけではなく、十階ごとにある女神像から別の場所に安置されている女神像にワープ出来るってことかしら」
転移魔法は術者が決めた場所にワープ出来る。本人が行ったことがある場所という制約はあるが、どこでも行ける。
その点カチュアのワープは女神像限定で、若干不便だが、転移魔法に掛かる魔法コストがない。
万能ではないが十分便利で、これさえあれば、どうしようかなーと悩んでいたバーバラのお迎えにそれほど影響しない。
かゆいところに手が届く、主婦向きのスキルである。
「助かるわー」
とカチュアは女神像に感謝した。
***
カチュア達は上階に向かい、十二階にたどりついたところまでは順調だったが、そこでつまづいた。
最上級状態異常解除ポーションの材料、十二階のゾンビからドロップする『腐った土』が見つからないのだ。
十二階は薄暗い墓場エリアで、ゾンビはどんどん出没する。
どんどん倒すが、ゾンビ達を倒せば簡単に手に入るはずの『腐った土』がドロップしないのだ。
「何でなんですかね」
「どうしてかしらねー」
ゾンビは聖なるものが苦手で、教会で聖別した水、聖水で清めた空間には入り込めない。
ゾンビ倒しに明け暮れる……って言ってもまだ二日間くらいだが、墓地エリアで足踏みしている間にパーティはレベルアップしていた。
ゾンビは戦闘中に仲間を呼ぶモンスターだ。一匹だけ瀕死状態で倒さずにいると延々、仲間を呼んでくる。
ゾンビは攻撃力も並み、素早さはかなり遅く、代わりに体力が高いという特徴がある。
経験値は普通程度で、単体で見るとさほど美味しくはないのだが、湧きやすく比較的安全に倒せるとあって、経験値稼ぎにはもってこいのモンスターだ。
ゾンビは聖魔法と火魔法に弱く、聖魔法のレベルが一アップして、レベル2になったローラが武器に『聖別』が出来るようになると、さらにらくらく倒せるようになった。
カチュアとローラは戦闘の邪魔にならないように聖別した安全地帯で戦闘を眺めながら、
「出ねー! 全然出ねー!」
と叫ぶリックの声をバックにおしゃべりをしている、という状態だっだ。
「くそっ、また腐葉土だ」と悪態をつくオーグの声も時々聞こえる。
ドロップアイテムは出てない訳ではないのだ。
ゾンビの第一通常ドロップアイテムは『腐った土』。第二通常ドロップアイテムは『腐葉土』である。
どちらも通常ドロップアイテムだが、比率としては『腐葉土』の方がやや珍しいよりだ。
『腐った土』は道具屋に持ち込んでも値段も付かないただのゴミだが、『腐葉土』は畑の土として優秀で、農家に買って貰える。
そのちょっぴりだけお得な『腐葉土』しかドロップしないのである。
『腐葉土』は十リットル1000ゴールドくらいなので、決して高くはないが、カチュアもレベルアップしてレベル10になった。
中級ポーターになったので、ギルドから借りるリュックも二十倍も入る中級マジックバッグとなり、いままでは「どうしようかなー」と思っていたものも持ち帰れるようになったのだ。
「うん?」
戦闘を見ていたカチュアがふと目をこする。
「どうしたの? カチュアさん」
「なんかねー、目がゴロゴロするのよ、なんかゴミみたいなのが見えて……」
何故かゴミはアン達パーティを見ている時だけに見える……。
「ハッ、違うわ!」
カチュアは気づいた。
パーティではない。
ゾンビが視界にいる時に小さくステータスボードが出ていたのだ。クイーンヒエヒエ鉄蟻の時に見えたサブスキル【料理】素材目利きの効果である。
「ローラちゃん、大変」
「何?」
「アン達の武器に『聖別』したわよね」
「うん、1.5倍の特効効果が付くから」
「やっぱり! それよ!」
カチュアは興奮して立ち上がった。
「?」
「『聖別』した武器で攻撃するとゾンビのステータスがゾンビから綺麗なゾンビに変化するの」
その状態で倒すと、ドロップアイテムの『腐った土』が綺麗な腐った土、『腐葉土』となるのだ。
「ああ、なるほど」
パーティは『聖別』効果が消えた後、ゾンビを倒した。
カチュア達はただの『腐った土』を手に入れた!






