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02.スキル【主婦/主夫】プレゼント!

「ロ、ログインボーナス!? 一体何なの?」


 悲鳴を上げるカチュアだが、異常事態はまだ続く。目の前の女神像が突然光り出したのだ。

「きゃっ?」

 体力魔力回復時にも女神像は輝くのだが、それよりずっと大きくまばゆい光だった。

 思わずカチュアは目を閉じる。


「…………?」

 しばらくしてそーっと目を開くと、何事もなかったように女神像は佇んでいる。

 いや、よく見ると、女神像の前に何か落ちている。

 さっきまでこんなものはなかった。


「……これ、なにかしら?」



 サイズは手のひらよりちょっと大きめ。上部に金属が付いており、下部は布で出来ている。

 ややいびつな楕円の型をした小袋だった。

 布の柄は、ここ、迷宮都市ロアのマスコットキャラクター、『ろあちゃん』だ。

 幻獣ロアは、ダンジョンロアのダンジョンの最上階に住むと言い伝えられている幻獣だ。


 まだ誰も踏破してないため、当然そこにいるという幻獣ロアの姿を見た者はいない。

 幻っていうか、想像上の生き物である。

 そのロアをデフォルメし可愛くしたのが『ろあちゃん』だが、幻獣ロアはキメラ系の生命体で、白い山羊の母体に足が八本に角が三つ、背中に翼があって尻尾が二股に分かれている。そして何故か頭に王冠が乗っている。


 ……というわけで役場も頑張ったんだがあまり可愛くはないマスコットキャラクターが出来上がってしまった。そのろあちゃんのイラスト付きである。


「落とし物なら届けないと……」


 こわごわカチュアが小袋に触れようとした時、いきなりカチュアの目の前に透明な板が出現した!


「ステータスボードだわ!」


 ステータスボードとは冒険者登録をした際、新人が必ず受ける一時間のペラッとした研修でサクッと習った『ナニカ』をすると出現する謎の板のことだ。

『ナニカ』とはレベルアップだったり、パラメータが上がった時だったり、特殊ボスを倒したり、ダンジョン内で新しいアイテムを手に入れたりと様々なのだが、カチュアはまだレベル1。

 ステータスボードを見たのはこれが初めてだった。


 ステータスボードは一度、目を通すとすぐに消えてしまう。

 だからあわてずゆっくり読むべしと教わった。


 ステータス自体はその人の状態を数値化したものなので、『鑑定』の能力を持つ魔法使いに魔法を掛けてもらったり、教会に行って寄進すると確認出来る。

 ただその際には当然お金が掛かり、そしてその結果得られる『鑑定』とは言ってみればその人の状態が分かる『だけ』なのだ。



 カチュアも冒険者ギルドに所属する時、有効なスキルがないか簡易検査してもらったが、役に立ちそうな特技はないと告げられた。

 ぶっちゃけて言うと、素晴らしいスキルがあれば、鑑定に頼らずとも本人がとっくに気づく。

 つまり高いお金を出して鑑定を受けても特別な才能が見つかるケースは非常に少ない。

 そういうわけで『鑑定』は庶民にはあまり縁のないものだ。


 カチュアは生まれてこの方、一度も見たことがなかったステータスボードをドキドキしながら見つめる。


 そこに書かれていたのは。


『ログイン100回ボーナス! スキル【主婦/主夫】 おめでとうございます!』


「きゃっ!」

 カチュアが悲鳴を上げた理由は、『おめでとうございます!』を読んだ瞬間に「パーン」という音と共に画面に紙吹雪が舞ったせいだ。


 ボードをガン見していたカチュアはかなりびっくりした。


 ボードにはまだ何か記されていたが、まばたきの拍子に文言はすべて消えて、次の文章に差し替わってしまった。


「!? どうしよう?」

 カチュアは焦るが、もう取り返しが付かない。


「よーし、もう目は閉じないわよ」


 カチュアは気合いを入れて、ボードに書かれた文章を見つめる。


『スキル【主婦】解放!

 スキル覚醒特典! その一、オシャレがま口』


 オシャレながま口のメッセージの後ろに矢印が伸びており、たどっていくとそれはあの小さな小袋を指し示していた。


 あの謎の袋は『オシャレながま口』というものらしい。


 ステータスボードには、


『オシャレながま口:

 可愛いイメージキャラクターが書かれたオシャレながま口』


 と書かれている。ろあちゃんが『可愛い』マスコットキャラクターか否かは置いておいて。(せいぜいきもかわだと思うの)

 カチュアは次の説明に集中した。

 オシャレながま口とはどんなアイテムなのだろうか?


『主婦のマストアイテム!

 毎日一回、中を開けると美味しい飴ちゃん(モンスター味)が入っているよ。モンスターと子供に大人気! ※本特典は一日一回配布されます』


「飴入ってるんだぁ」

 なんかもっといい物でも良かった気がするが、確かに子供が好きな飴はいくらあっても嬉しいアイテムだ。

 でもモンスター味って何?

 子供が食べて本当に大丈夫なの?

 色々疑問だが、ステータスボードには、


『早速中を開けてみよう!』


 と書かれていたので、カチュアはメッセージに従ってがま口を手に取った。


 がま口をパチンと開いて、中を見てみると、中には飴ちゃんがなんと五個。


『スキル覚醒特典! その二、飴五個プレゼント!』


「ショボッ」と思うだけではなく、口からダダ漏れたカチュアだったが、ちょっと嬉しかった。

 カチュアの子供は二人。

 一個なら喧嘩になるわぁ、と思っていたし、『モンスター味』なる飴を子供にあげるのはなんか怖い。

 出来れば、毒味してからにしたいなと思っていたので五個は嬉しい。

 さすが、スキル【主婦】。

 主婦の気持ちが分かっている。


「…………」

 カチュアは飴を一つ取り出し、ちょっと迷ったが、「えいっ」と食べてみた。


 ビコン!

 と音が鳴り、ステータスボードには新しいメッセージが書かれていた。


『モンスター味の飴:

 ソーダ味の美味しい飴。モンスターの気持ちを静める効果がある。子供も大好き』


 ソーダ味は甘くて爽やか、ちょっとシュワシュワしている。


「家に帰ったら、エドとバーバラにもあげましょう」

 とカチュアはがま口に飴を入れ直す。


「あら」

 その時カチュアはがま口に内ポケットが付いているのに気づいた。

 そこには何か紙切れのようなものが入っていた。

 手のひらくらいの小さな紙切れには『モンスターポイントカード』と書かれていた。


「モンスターポイントカード?」


 ステータスボードが切り替わる。


『スキル覚醒特典! その三、モンスターポイントカード!

 モンスターポイントカード:

 モンスターを一体倒すごとに一ポイント加算されます。ポイントを貯めて豪華特典をもらおう!

 ポイントデーにはさらにポイントアップ! お見逃しなく!!』


「あら、嬉しい」

 今は空欄がズラッと並ぶポイントカードだが、これを貯めていくと豪華特典とやらがもらえるらしい。

「へぇ」

 視線を走らせたカチュアだが、十コマめに釘付けになった。

「あら、10ポイントで『スライム帽子』?」


 スライム帽子は、ダンジョンのモンスターを倒して得られるドロップアイテムなのだが、最近は子供達に大人気だった。


「スライム帽子、エドが欲しがってたのよねぇ」


 でも。

 カチュアはため息をつく。

 カチュアはただのポーターだ。

 武器も防具もないので、ダンジョン内最弱のモンスター、スライムも倒したことはない。


「十体モンスターを倒すなんて、私には無理よねぇ」


 カチュアはその時、ハッと気づいた。


「バーバラのお迎え! 間に合わなくなっちゃう!」


 ポイントカードをがま口にしまい、カチュアは慌てて立ち上がった。

 ステータスボードにはまだ何か書いてあるが、こうしてはいられない。


 リュックを背負って歩き出そうとするカチュアの頭上から、ペラッと大きめの一枚の紙が落ちてきた。

「?」

 カチュアはその紙を何気なく拾う。


「ダンジョンチラシ?」


 お得情報がたくさん書かれたカラフルな紙だ。

 思わず読み込みそうになったが、

「本当にお迎えに間に合わなくなっちゃう!」

 ぐっとこらえてカチュアはチラシを手早くたたみ、がま口に押し込んだ。


 そして今度こそ、ダンジョンを後にしたのである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ未読だった部分にわりと重要な事が書いてありそう… [気になる点] 27歳の若奥様の同行者とか、荒くれ冒険者の男共にとってはヨダレが出そう(個人的評価)な存在に思えるけど、強引なナンパと…
[良い点] 楽しい。ほんわかしている。 [一言] お百度にログボがつくの初めて見た(笑)
[一言] 「飴入ってるんだぁ」のところが、なんかすごく良かった。 今後も応援してます。
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