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18.クイーンヒエヒエ鉄蟻戦その2

 カチュアのお玉から飛び出た炎は巨大な火炎弾となり、クイーンヒエヒエ鉄蟻の巨体を焼き尽くした。


「うわっ」

 アンとオーグはカチュアの炎攻撃で敵が倒せるとは考えてもおらず、一瞬でもひるんでくれればその隙に攻撃を加えるつもりでクイーンヒエヒエ鉄蟻の側で構えていたのだが。

 火炎弾の炎にまきこまれそうになり、あわてて飛び退いた。


「きゃー! こーわーいー!」

 カチュアも驚いてダッシュで逃げる。


 カチュア達はクイーンヒエヒエ鉄蟻を倒した!



 クイーンヒエヒエ鉄蟻はいくつかドロップアイテムを残したが、その中に白い石が落ちていた。


「何かしら?」


 ローラが息を呑んだ。

「癒やしの石……」

「え、これが?」


「なるほどね、おおかた、石を盗んだ冒険者はクイーンヒエヒエ鉄蟻に食べられちまったんだろうね」


 ほこらから石を盗んだ後で、クイーンヒエヒエ鉄蟻と出くわし戦闘になったらしい。

 盗人は食われ、石だけが消化されずクイーンヒエヒエ鉄蟻の体の中に残ったが、本来クイーンヒエヒエ鉄蟻は用心深くほとんど巣から出ることがない。

 冒険者達に見つかることもなく、石は行方不明になったということのようだ。



「じゃあ、これ、女神像に戻せばいいのかしら」

「そうね」

「あー、疲れた」

「女神像が無事に修復されたら体力魔力を回復して貰える」

「行ってみましょう」

「……と、その前に」


 カチュア達の周りにはまだモエモエ鉄蟻達がうごめいている。

 モエモエ鉄蟻は飴の効果で今は大人しいが、いつまた襲いかかってくるか分からない。

 可哀想だが、我に返る前に倒させてもらう。






 ***


「あれか」


 ほこらの中には、女神像が部屋の一番奥に安置されていた。

 一階の女神像と同じぐらいのサイズで同じように慈愛に満ちた微笑みを浮かべているが、額に輝く白い石がない。


 女神像は地面より少し高い所に置かれている。

 パーティの中で一番身軽なリックが女神像の額に石をはめ込むと、その瞬間、辺りは清らかな光に包まれた。


 カチュア達の怪我が治った!

 体力魔力も回復した!


「ふー、結果オーライってところかしら」

「うん」

「せっかく体力魔力が回復したから、もうちょっと探索しますか?」

 リックの問いかけにアンは「いいや」と首を横に振る。


「体力魔力が回復しても、激戦の後は精神的に疲れているもんさ。無理せず戻った方がいいね」


「女神像が修復出来たことをギルドに報告しないと」とローラ。


「そうですね、カチュアさん、子供のお迎えあるし」

 とリックもそう促してくれるが、カチュアは躊躇する。

「……いいの?」


 十一階に行く絶好の機会だ。

 若手のリック達は先に行きたいだろうに……。


「いいですよ。確かに疲れましたから、俺も無理に進まない方がいいと思います」

 リックは肩をすくめる。


「リックは頑張った」

 ローラが褒めると、リックは照れながら返す。

「いや、カチュアさんの飴のおかげだよ」


「さっきも言ってたけど、飴ってなんなの?」

 とアンが尋ねる。

「モンスター味の飴よ。モンスターを大人しくさせる効果があるんですって」

「あの火属性の魔法攻撃は? すごい威力だったけど」

「あれはモンスターポイントカードが貯まってお玉がアップグレード(炎)したの」


「アンタのスキルは途方もないね。……まあ、詳しいことは後で聞かせてもらうとして」

 と言った後、アンはオーグの方を向いて声を掛けた。


「オーグ、地上に戻る前に包帯まき直しな」

「!?」

 オーグは驚いた様子で自分の頬を触った。


 オーグの包帯はさっきの大乱闘でほどけていた。

 本人は気づいていなかったが、他のパーティメンバーは気づいていた。

 カチュアは、「うわー、触りたーい」という葛藤と戦っていた。


 オーグの顔は茶色の犬のような獣毛に覆われていて、頭にはやはり犬のようなふさふさの耳がのっている。



 あわてて包帯を巻き直すオーグにカチュアは言った。

「オーグ君は獣人族だったのねぇ」

 迷宮都市ロアの住人のほとんどが人間族で、亜人種である獣人族はかなり珍しい存在だが、並外れた身体能力を持つ彼らは冒険者向きだ。

 高ランクの冒険者に数名、獣人族がいるという。


 包帯を巻き終えたオーグはくぐもった声で言った。

「地上に戻ったら俺はパーティを脱退するから、帰還だけは一緒にさせてくれ」


 カチュア達は驚いた。

「えっ、脱退しちゃうの?」

「せっかくここまで一緒にやったきたんだぜ、俺達」

「……考え直して」


「だって、俺の顔、見ただろう?」

 とオーグは悲しげに言った。


「見たけど……」

 獣人族を忌み嫌う者は多く、ひどい差別をする人間もいる。

 オーグが顔を隠しているのはそのせいだろう。


 彼らは口を揃えて獣人族を危険な存在というのだが、カチュアはそもそも獣人族を今まで見たこともなかったので、ぜんぜんピンとこない。


「種族は関係ないと思うわ。オーグ君はオーグ君よ」

 カチュアがそう言うと、リックとローラも続いて言う。

「そうだよ」

「私も関係ないと思う」



 アンはおもむろに尋ねた。

「オーグ、アンタ、生粋の獣人族じゃないね」

「…………」

「探しているものがあるって言ったね。もしや、アンタ、人狼かい?」


「アン、ジンロウって何?」

「獣人族が忌み嫌われる理由は、彼らが噛んで人間や他の亜人種を同族にしちまえるってことなんだ」

「そうなの?」

 そんなすごい能力があれば、確かに警戒されるかもしれない。


「合意の上なら問題ないし、ほとんどの獣人族が伴侶を同族にする時以外は人を噛まないが、時折、片っ端から人間を噛む者が現れる。そいつらはことごとく狼種なんだ。だから彼らに噛まれて獣人にされた者を、人狼と呼ぶのさ」

「じゃあ、オーグ君は元々人間ということ?」


 オーグは重い口を開いた。

「俺は元々は人間だった。最上級状態異常解除ポーションなら獣人化を解けるという。俺はその薬を探しにダンジョンに来たんだ」


 獣人族の種族同化は、強固な状態異常系の魔法と言われている。魔法であるのなら、解除の方法は必ずある。


「……確かに最上級状態異常解除ポーションなら解除は可能だろうね」

 とアンが呟く。

「知っているんですか?アンさん」

「存在だけは、だよ。十以上の非常に珍しい薬草を混ぜ合わせて作るって聞いたことがある。最上級の薬は上級薬師以外は作成出来ないそうだ」

 オーグは悔しそうに首を振る。

「俺も調べてみたけど、必要な素材すら分からなかった」



「じゃあ、早速帰りましょう」

 カチュアがぱん、とスカートをはたいて立ち上がる。

「早く帰って皆でその最上級状態異常解除ポーションをどうやって手に入れればいいのか、考えましょう?」

「うん」

「俺達も協力するよ。なんとか手がかりを探そう」


「皆、いいのか?」

 オーグはおそるおそるカチュア達に尋ねた。


「いいに決まってるじゃない、私達、仲間なのよ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 盗難防止の対策してもらわないとまた盗まれるんじゃ?
[一言] すごい好きです。 一話から最新話まで読みました。 続き楽しみです! 応援してます☺︎
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