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11.鑑定!スキル【主婦】その1

 パーティはダンジョン内を順調に進んでいく。

「なんか、魚多いな」

 というオーグの一言に、カチュアは今日が水曜日であることに気づいた。


「あ、今日、お魚の日だわ」

 毎週水曜日は「お魚の日」である。


「なんすか、それ」

 カチュアのつぶやきをリックが耳ざとく拾う。

「今日は水曜日だからお魚モンスターが多く出現する日なのよ」

「……お魚」

「ダンジョンてそういうのあるんすね」

 とリックとローラが感心している。


「いやいや、ないって。聞いたことないわよ。カチュア、アンタ、もしかしてレアスキル持ち?」

 アンがズバッと核心を突いてきた。


「……実はそうなの。でも本当に大したことないスキルで……」

 カチュアは恥ずかしくてスキル【主婦】を持っていることは言えなかった。


「まあ言いたくないならいいけど、スキルの内容はちゃんと分かってるの? 教会でも冒険者ギルドの鑑定でもどっちでもいいからさっさと受けた方がいいわよ」

 アンはジェシカと同じことを忠告してきた。


 スキルや職業は長所と弱点が表裏一体であることが多い。

 例えば、スキル【防御】はその名の通り、防御の技を覚えるスキルだが、一部のステータスにも影響を与える。守備力が上がりやすい一方、素早さパラメータの伸びが少し悪いといった具合だ。

 一般的なスキルなら長所も弱点もよく知られているため、補う方法が研究されている。

 だがレアスキルは保有者が少ないため、分からないことが多い。

 それ故に早い時点でスキルの詳細を確認することが望ましい。

 ステータスの伸びは後から矯正するのはかなり難しい。取り返しが付かないことになりかねないのだ。


「もうじき七階にたどり着きそうだからいいわ」

「ああ、そんなのあったねぇ、鑑定の泉でしょう?」

 とアンは納得する。

 アンは本人曰く、「大昔」冒険者だったそうだ。

 ブランクが長いので新規に冒険者登録をし直したそうなのだが、ダンジョン内のことはよく知っている。


 一方でダンジョンに詳しくない若者組、リックとローラ、それにオーグの三人は顔を見合わせた。

「鑑定の泉ってなんですか?」

「その名の通り、泉の水面をのぞき込むと、鑑定魔法が発動するのよ」


「そんな便利なもんがあるんですか!?」

「みたいよー、噂に聞いただけで行ったことないけど」

「……行ってみたい」

「うん」


「じゃあ、七階目指して行くわよー!」





 スキル【主婦】の話題が出たので、休憩の時間、カチュアは久しぶりにがま口を開けて、モンスターポイントカードを取り出して見てみた。


 パーティに参加し、カチュアは何度も戦闘を繰り返している。一体どのくらいポイントが貯まっただろうか。


 わくわくしながらポイントカードを見てみると。


「……あら? なんで?」

 ポイントカードに押されたスタンプは十四個。

 前回お魚の日で二体のモンスターを倒した後から一ポイントも増えていない。


「何でだろう?」と考えて、カチュアは「そういえば」と気づく。


「私、自分でモンスター倒してないわ」

 パーティが倒した数は含まれず、あくまでカチュアが倒したモンスターの数がポイントの対象になるようだ。


「なーんだ」

 ちょっと残念に思うカチュアである。






 ***


 それから何度目かの探索の後、カチュア達は七階にいる鑑定の泉にたどり着いた。

 戦闘を繰り返し経験値を得て冒険者レベルがアップし、それに付随して体力や攻撃力や防御力や魔力などの各種パラメータが上昇したことと、貯めたお金で強い武器や防具を買ったことで、パーティは強くなった。


 目標にしていた七階にたどり着き、カチュアはドキドキしながら鑑定の泉をのぞき込む。

「レベル15、まあまあだな……」

「よっしゃあ、スキル『盗賊』レベル2になったー!」

「……補助魔法増えてた」

 と華々しい周囲の声を聞き、カチュアも自分の成長に期待する。



 そして。

「……はっ?」

 とカチュアは声をあげた。


 カチュアの冒険者レベルはなんと5。


 冒険者ギルドでは挑戦の目安とされるのが階数×2のレベル。

 七階だったら、レベルは14あるのが望ましいのに、カチュアのレベルはたったの5。

 カチュアは愕然とした。


「私のレベル、低すぎ……?」




 レベルアップ時にはステータスボードが出現してレベルアップを知らせてくれるのだが、戦闘直後のあわただしさの中で、カチュアはざっと読み飛ばすのが常であった。

 しかし、よくよく考えると、その時から変だったのだ。

「なんか皆と比べるとレベルアップの回数が少ないと思ったら……」

 カチュアは人のステータスボードを見ることは出来ない。

 だが強モンスターを倒した後、「あ、レベル上がった」「俺もー」というキャッキャウフフの会話がパーティの若い者の間で繰り広げられる間もカチュアのステータスボードは反応しない。

 そんなことが多かった。



「こんなに低いとは……」

 薄々感じていたことを突きつけられ、カチュアはショックを受けた。

 ショックを受けている最中にも、「ピコーン、ピコーン」と鑑定の泉から変な音が鳴っている。


「え、何?」

 のぞき込むと、カチュアのレベルの横にどどめ色の下矢印が付いている。


「これは!? ダウン表記」

 これは何らかの理由で弱体化作用が働いているという合図だ。

 下矢印に意識を向けると、そこには。


『スキル【主婦】 経験値×1/10の効果』


 ……と記されていた。


「えっ、スキルのせいなの?」

 驚愕の事実に悲鳴をあげたカチュアにアンが言う。

「あー、やっぱり、なんかあったの?」


「スキルのせいで経験値1/10だって」

「強力なスキルほど、マイナス効果も大きいものだからね」

「全然強力じゃないのに?」

 涙目になるカチュアであった。


「強力っすよ! この忍者装備も魚と肉の日のおかげで買えたんですから!」

 とリックが熱く語る。

 忍者装備と言っても一番安い『下忍』装束だが、これを身につけたら盗賊業としては一人前と言われる装備だ。

 お魚の日、お肉の日、そして薬草の日はいつもの倍は稼ぎが良い。

 パーティは十分カチュアのスキルの恩恵を受けているのだ。


 さらに。

「……あの、俺、気づいたんですけど」

 オーグがぼそっと言い出した。

「何?」

「俺の武器スキルがおかしいんです」

 オーグは爪装備と剣装備を対戦するモンスターに合わせ、使い分けて戦っている。

 こうすることで戦闘は有利になるが、代わりに装備した武器でモンスターを倒すことで上がる武器スキルという上達値は上がりにくくなる。

 そのためメインの武器は固定にしている冒険者が圧倒的に多い。


「思っていたより、ランクが上がってて……」

 だがオーグの武器スキルは両方ともスキル2に昇格していたそうだ。ちなみに武器スキルは10でMAX。


「今日二十七日だから7の日で、ポイント三倍デーだからかも?」

 モンスターポイント、すごい効いてる。(カチュア以外に)


「アンタのスキル、めちゃくちゃ支援効果高いじゃん、なんてスキルなの?」

 アンに問い詰められ、カチュアはついに白状した。

「……スキル【主婦】なの」


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