08.女子+3会
翌日、ガンマチームはゆっくりと休養し、激戦の疲れを癒やした。
そしてその次の日、カチュアはバーバラを冒険者ギルド保育園に送り届け、家に戻るとささっと家事を済ませた。
その後、再び昼前に家を出て、街の中心部へと出かけた。
行く先は冒険者ギルド近くの美味しい料理屋『はらぺこ山猫亭』だ。
「こんにちは」
女将に声を掛けると彼女は愛想良く笑いかけてくる。
「あら、カチュアさん、皆さんお待ちですよ、どうぞこちらに」
女将は辺りに気にしながら、こっそりとカチュアを店の一番奥の宴会場に案内してくれた。
彼女も冒険者ギルド保育園に子供を預けている。いわゆるママ友である。
そのため、色々と融通を利かせてくれるのだ。
「おっ、カチュアさん、来た来た」
「待ってたよ」
「お疲れさーん」
「どーもー」
扉を開けて中に入ると、そこにいたのは邪神を倒した十三名の女性達とガンマチーム一同だ。
邪神のような強力なモンスターを倒した者達は、英雄に認定される。これは大変に名誉なことだった。
生け贄の女性達は今街で一番話題の人物だ。
今日は、その彼女達が密かに集まって開かれた女子会だった。
誰かに知られると困るため、念には念を入れ、参加者は時間をずらして集合した。
カチュアが一番最後の参加者だ。
テーブルの上にはすでにご馳走がずらっと並んで美味しそうな匂いがしている。
「カチュアさん、何にする?」
「そうね、ワインはある?」
「あるよー」
一同にお酒が配られ、
「じゃあ、改めまして、邪神討伐お疲れ様! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
と剣士マーサの乾杯から女子会は始まった。
女性ばかりなので場の空気は、気楽にわいわいと盛り上がった。
皆所属チームが違うので、よく知らない人もいるが、共にスレッドベインと戦った仲である。
お互いにどこか気が許せるというか、信頼感がある。
ガンマチームの男子三人は最初こそ肩身が狭そうだったが、鉄扇使いのベルゼアは冒険者業の傍ら、酒場で踊り子もしているナイスパディの美女だ。
「せっかくだから、踊りましょうか?」
セリアのギターでベルゼアが踊りを披露した。
男性陣は、プロの踊りを堪能している!
他の女性はカチュア、ローラ、アンに口々にお礼を言った。
「いやー、助けてくれてありがとー」
「うん、あの時はてっきり死んだと思ったわ」
「いや、死んだでしょう、私達」
「そうよ、スレッドベインが現世に召喚されたんだし」
冒険者ギルドで、グレイス達生け贄となった女性陣は色々と事情を聞かれたが、その辺りは彼女達自身も理解出来ていない。
謎の冒険者チームが蘇らせてくれたのだろう、と適当に答えておいた。
その『謎の冒険者チーム』の一人であるカチュアが言った。
「ここにいるローラちゃんが『リザレクション・サクリファイス』を唱えて私達のことを生き返らせてくれたの」
「そうか、『リザレクション・サクリファイス』だったの……」
グレイスが思案顔で呟き、メリダが真っ青になって叫んだ。
「そっ、それは、禁呪です!」
「うん、助けてもらったあたしらが言うのはどうかと思うけど、命は大事にしてね」
「本当にそう」
年上の女性達からローラは口々に諭された。
『リザレクション・サクリファイス』は有名な禁呪だ。
一般的に禁呪は詠唱の条件を整えるのが難しいものが多いのだが、『リザレクション・サクリファイス』はある程度の回復魔法の使い手なら簡単に唱えられてしまう。
だが、その代償は術者の命……。
それゆえに禁呪なのだ。
「……はい」
ローラは神妙に頷いた。
ローラの様子があまりにも悲しそうなので、女性陣はお灸を据えすぎたかと焦った。
「そんなに落ち込まないでよ。助けてもらったことは感謝してるの」
「そうよ、本当にありがとう」
「でも、どうしてローラちゃんは無事なの?」
サリーは首を傾げた。
『リザレクション・サクリファイス』はその強力な効果の代わりに術者は死亡してしまうのだ。
「それは私のぬいぐるみが身代わりになってくれたからなの」
とカチュアは説明した。
「カチュアさんのぬいぐるみ?」
「えっと、どうしてぬいぐるみが身代わりに?」
「よく分からないんだけど、私が縫ったら『いきいき』としちゃって……」
カチュアはスキル【主婦/主夫】のことはぼかして、サブスキル【裁縫】で作り出した傀儡ぬいぐるみのことを説明した。
「生きてるぬいぐるみかぁ」
「ぬいぐるみ使いは珍しいわねぇ」
「一種の傀儡師?」
皆、冒険者なので、珍しい能力には興味津々だ。
「ローラちゃん、もしかして、そのぬいぐるみが助けてくれたの?」
イラーナの問いにローラは「はい」と小さく頷いた。
ローラはあれからずっとうさみを握りしめている。
「……うさみはローラちゃんのこと好きだったから、きっとこれで良かったと思ってるわ」
カチュアはあまり悲しまないで欲しいと願っていた。
「そうかぁ」
「私達、ローラちゃんとうさぎのぬいぐるみのおかげで生き返ったってことね」
「そのうさぎ、生き返らせることは出来ないの?」
「『リザレクション・サクリファイス』は無理でしょう?」
「そうそう、あれは普通の蘇生魔法じゃ無理って話よ」
「教会の選ばれた人なら可能って聞くけど」
「どうなんだかねぇ」
「それにしても」
とマリーはため息をついた。
「私達、よく邪神を倒せたわねぇ」
「皆のチームプレイの勝利よね」
「うん」
「カチュアさんの計画あってこそよ。カチュアさんが指揮してくれなかったらきっと邪神は倒せなかったわ」
「うんうん、本当にそう」
と皆口々にカチュアを褒めた。
「そんな、あれは冒険者ギルド新聞に載ってた邪神の倒し方よ。私が考えたわけじゃないの」
カチュアはあわてて弁解した。
だが、そんなカチュアにアンが言った。
「そりゃ謙遜が過ぎるってもんよ。アンタが新聞を読んだことをあの時ちゃんと覚えてたから、倒せたんだから」
「そうかしら?」
「そうよ、もちろんあの時、私達一人一人がちゃんと自分の役目を果たしたからでもあるけど」
とアンは言った。
「それにしても運が良かったわね。攫われて生け贄になった私達がちょうど邪神を倒すのに都合のいい能力の持ち主ばかりだったなんて」
キャルがワインを呷りながら、ため息をつく。
こうして美味しいものが食べられて、お酒が飲めるのも、命あっての物種だ。
「それは、偶然だけど、偶然じゃないのかもしれないわ」
とグレイスが言った。
「どういうこと?」
「私達は邪神召喚の儀式の生け贄である『輝ける魂』の持ち主らしいじゃない?」
ロアアカデミーは、『輝ける魂』とは優れた力と善良な心を持つ者のことだと推測した。
この魂を持つ女性は、珍しいが滅多にいないというほどは珍しくない。
つまり女性のうち、何割かがこの『輝ける魂』の持ち主である可能性があるそうだ。
「その『輝ける魂』の中でも私達が特に選んで攫われたのは、スレッドベインが現世に復活した時、私達が邪神の強力な敵になり得るからじゃないかしら」
「あー、召喚の儀式の時にあたしらを食っちまえば、その分天敵が減るって寸法かい」
「よく出来てるわー」
「あいつら頭良いわねぇ」
と皆は感心した。
その後、話題は冒険者ギルド保育園に移った。
長年保育園に伝わる振り付けが変なお遊戯や園庭の危ないのに子供達に大人気の遊具や名物園長先生のことなど、話は尽きない。
ここにいる女性陣の半分以上が保育園に子供を預けた経験がある元保育園児のママか、現役保育園児のママだ。
未婚のジョシュア達も冒険者ギルド保育園の卒園者だったりと繋がりは深い。
そんなわけで宴会は大いに盛り上がった。
***
そして翌日。
「おはよー」
「カチュア、おはよう」
「おはようございます」
ガンマチームは再び、冒険者ギルドに集結した。
昨日はしこたま飲んで食べたが、付与魔法師のシンシアが二日酔い防止の魔法を付与してくれたので、ガンマチームは元気いっぱいだ。
冒険者ギルドでは、相変わらず行方不明の女性達が邪神スレッドベインを討伐した話で盛り上がっている。
カチュア達はこっそり彼らの会話に耳を澄まし、ガンマチームの『ガ』の字も出てこないことにホッとした。
皆、上手く誤魔化してくれたようだ。
これでガンマチームは以前と変わらなく冒険することが出来る。
「じゃあ、早速道具屋さんに行きましょう」
まずは先日出来なかった換金と物品の補充からだ。
「あの、ガンマチームさん、ちょっといいですか?」
「あ、メリダさん」
道具屋に行こうとしたガンマチームに声を掛けてきたのは、生け贄の女性達の一人、冒険者ギルドの職員メリダだ。
メリダはぺこりと頭を下げて、少し申し訳なさそうに、「ちょっとだけお時間をいただけませんか?」とガンマチームに言った。
通されたのは、冒険者ギルド内でも奥まった人気のない応接間だった。
お高そうなソファに座っていたのは、二人の男性である。
一人は冒険者ギルドのギルドマスターだ。
学校に例えるならば、校長先生ポジションである。
ガンマチームのメンバーのうち、ベルンハルトとアン以外は緊張して固まる。
そんなガンマチームを前に、ギルドマスターはスッと椅子から立ち上がると、深々頭を下げた。
「ガンマチームさん、皆さんのおかげでここにいるメリダ君始め、十三名の女性達は無事でした。お礼を申し上げる」
改まった様子で言われて、ガンマチームは恐縮した。
「は、はい。ありがとうございます。でもたまたまなんですヨ」
カチュアが声を裏返しながら、答えた。
「やはりカチュアさんとローラ君だね」
部屋にはもう一人の男性がいた。
目深にフードを被った男性は、穏やかに声を掛けてきた。
その人物はカチュアもローラもよく知っている。いつもいく教会の神父様である。
「えっ、神父様?」
「どうしてこちらに?」
カチュアが驚いて尋ねるとメリダが後ろから答えた。
「差し出がましいとは思いましたが、ガンマチームさんは、あのぬいぐるみを復活させたいんじゃないかと思いまして、神父様にお越し頂いたのです」
「そうね。あの、神父様なら復活させられますか? このぬいぐるみなんですけど。ローラちゃん、うさみを見せて」
「は、はい」
カチュアに促され、ローラはうさぎのぬいぐるみを神父に見せたが、彼はゆっくりと首を横に振る。
「いや、このぬいぐるみを復活させることは出来ない」
「えっ、どうして?」
「ローラくんが『リザレクション・サクリファイス』を唱えたのかな? ならば知っているだろう? 禁呪を唱えた術者は神の国に招かれた」
「はい……」
ローラは『リザレクション・サクリファイス』を覚えた時に、神父からこの禁呪の意味を聞いていた。
『リザレクション・サクリファイス』は大勢の人を生き返らせる代わりに自分が死ぬという献身の魔法だが、善行を積んで、神に召されることは聖職者にとっては一番の祝福でもある。
「今そのうさぎの魂は神の許で安らいでいる。そのため『リザレクション・サクリファイス』の術者の蘇生はしないと教会では定められている」
神父はキッパリと言い切った。
「そんな……」
「そこはなんとかならないの?」
とアンがじれったそうに聞く。
「このぬいぐるみは、俺達にとって大事な仲間なんです」
オーグが熱く主張する。
「そうだ。うさみを蘇生してくれ」
とベルンハルトも頼んだ。
うさみを復活させるのは、チーム皆の希望だ。
「『リザレクション・サクリファイス』の蘇生はとても難しいのです」
少し考え込んだ後、神父はそう言った。
「通常の蘇生魔法は、まだ現世に留まっている魂と体を繋げる魔法です。だが『リザレクション・サクリファイス』では既に魂は我々の手の届かぬ世界、神の国にある。そのため通常の蘇生魔法では復活は出来ないのです」
「待ってください。『通常は』ってことは、通常じゃない方法なら復活出来るってことですか?」
リックが聞くと、神父は少し目を眇めた。
「教会内でも特別な力を持つ聖人や聖女なら可能かもしれません」
ガンマチームはゴクッと息を呑んだ。
「聖人や聖女? その人達ならうさみを復活出来るんですね」
とカチュアが聞く。
「そうです。だが、カチュアさん、彼らはとても稀少な能力者で、みだりにその力を振るうことはないのです。我が教区でもたった一人の聖人しかおりません」
「あの、お布施とかそういうのでしょうか? だったら……」
お金の問題なら頑張ればなんとかなる……かもしれない。とカチュアは思った。
だが、神父は言った。
「お布施もですが、先程述べたとおりです。神の国にある魂を我らの世界に戻す。それは決して良いことではありません。うさぎのぬいぐるみも再び現世に戻ることを望まないでしょう」
「それは、分からないと思います」
とカチュアは神父の言葉に思わず反論した。
「うさみはまだ現世にいたいと思うはずだわ。だって皆がこんなに悲しんでいるもの。皆、あの子が還ってくるのを待ってる」
「神父様、どうか彼らの願いを聞いてもらえませんか」
そう言ったのは、黙ってガンマチームと神父のやりとりを聞いていたギルドマスターだった。
「ギルドマスター」
これには神父も少し驚いた顔をする。
「彼らは邪神スレッドベインを倒しました。その報奨をいくつか提示しましたが、どれも『いらない』と言われて困っているのですよ」
とギルドマスターは苦笑いした。
「だって……」
ガンマチームは顔を見合わせる。
ギルドからの提案は、ガンマチームをAランクに引き上げるとか、道具屋カードのプラチナをくれるとか、どれもこれもかなり目立ってしまう報酬なのだ。
メリダを通じて打診されたが、ガンマチームはどれも断った。
「その彼らが唯一望むのがうさぎのぬいぐるみの復活です。どうか叶えてあげてくれませんか」
「ふむ」
と神父は考え込む。
「あの、これ」
とメリダは紙の束を神父に差し出した。
「今回の生け贄の女性達全員が書いた嘆願書です。報酬はいらないから、ガンマチームさんのお願いを叶えてもらえませんか。お願いします!」
とメリダは神父に頭を下げた。
「これは困りましたな」
と神父は静かに微笑んだ。
「分かりました。聖人ナリスに連絡を取りましょう。ただし、彼は今別の任務で王都におります。それに聖人は教会内でも特殊な存在で、気に入らない依頼を断る権利を持っています。彼が引き受けてくれるかどうかは保証できませんよ」
神父はそう釘を刺した。
ストックができ次第、更新を再開します。
しばらくお待ちいただければ幸いです。





