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01.祝100回ログイン!

 ここは迷宮都市ロア。

 その名の通り、世界最大級とも言われる巨大ダンジョン、ロアを中心にして発展した都市だ。

 今まで誰も最上階に到達したことがないダンジョンを踏破しようと多くの冒険者が今日も行く――。



「ふう」

 転移魔法の巻物(スクロール)を使い、四階から一階に戻ったカチュアは思わずため息をつく。

「今日も無事に戻ってこられたわ」


 独り言を呟きながら、「よいしょ」と彼女は背負ったリュックを抱え直す。

 カチュアは冒険者だ。

 だが冒険者と一口に言っても、駆け出しのFランクから冒険者達の頂点に立つSランクまで、彼らには階級があり、能力や技能によって様々な職業に別れている。


 カチュアは最低のFランクの冒険者だ。

 口の悪い冒険者は彼女達を冒険者とは認めていない。

 何故ならカチュアの職業は冒険者達の荷物運び、ポーターだからだ。



 ダンジョンに出没するモンスターを倒すと、ドロップアイテムが手に入る。

 冒険者達のお目当てでもあるのだが、ドロップアイテムは結構かさばる。

 ポーターというのは、そのドロップアイテムや途中で採取したアイテムを回収して持ち帰る役目である。


 今日のカチュアは四階でリュックが満杯になったので、パーティと別れ一人帰投することになった。

 リュックは魔法具で見かけの五倍も物が詰め込めるスグレモノだ。さらに重さ軽減の魔法付き。


 マジックバッグとしては一番の廉価品なのだが、買えばびっくりするほどのお値段がする。

 だがそんな高価なマジックバッグを冒険者ギルドはポーター達には無償で貸し出してくれる。

 ごくごく普通の主婦であるカチュア二十七歳がポーターの仕事をやれているのも、このマジックバッグを始め、ギルドが貸与してくれる魔法具のおかげだ。




 冒険者達はパーティを組んで戦う。

 モンスターを倒すとパーティメンバーは等分で経験値を貰える。さらに貢献度によって獲得したアイテムや金を配分される。

 そうやって冒険者達はレベルを上げ装備を調え強くなっていくが、カチュア達ポーターはあくまで臨時の雇い人なので、戦闘には参加せず、経験値もドロップアイテムも手に入らない。


 貰えるのはポーターとしての賃金だけだ。

 安全な分、冒険者の日当としては一番安い。

 最低ランクの冒険者でもポーターと比べると三倍も稼ぎが違う。だから若い冒険者は金が貯まるとすぐに装備を調え、冒険者としてダンジョンを探索する。


 上を目指したい冒険者にとってはまったく魅力がないポーターだが、一介の主婦カチュアにとってはなかなかいい職業だ。

 冒険者としては最底辺賃金だが、街でお針子や洗濯の内職をするよりはちょっぴり多く稼げるし、冒険者ギルドは不人気職のポーター確保に頭を悩ませているため、補助が手厚い。


 パーティの戦闘中もカチュアは戦わず、隅っこの方で冒険者ギルド配給の防御魔法陣と身隠れの指輪で身を守りながら大人しくしている。

 だからこの仕事を始めて半年、カチュアはちょっと転んですりむいた程度の怪我しかしていない。



 カチュアはポーターの中でも一番ランクが低い初級ポーターで、貰える賃金も低いのだが、カチュアとしては実はそれがちょうど良かったりする。

 初級ポーターは上層階に連れて行けないので、大体昼過ぎには仕事が終わり、パーティの荷物を冒険者ギルドに預けたり、ドロップアイテムを換金したりともろもろの後始末をしても、夕食の買い物を済ませてギルド保育園の子供のお迎えに十分間に合う。


 高給ではないが、その分安全で時間の拘束も短い。

 カチュア達主婦や時間のない学生、第一線を離れた引退冒険者の小遣い稼ぎにはうってつけのお仕事なのだ。


 カチュアは下級騎士である夫のアランと子供二人の四人家族……なのだが、今夫は遠く国境防備のため赴任中で、三人暮らしだ。

 夫の給金で生活していけるが、家計に余裕があるわけではない。


 子供が望むなら進学させてあげたいし、何かの時のための貯金も少し増やしたい。何より単身赴任中のパパのところに家族揃って会いに行きたい。

 そんなこんなでカチュアはポーター業のパートを始めたのである。

 目標は100万ゴールド。

 それだけあれば家族三人の旅費もまかなえるし、ちょっと貯金に回せる。





 カチュア達ポーターは原則一人で帰投するが、ギルドで配給される転移魔法の巻物(スクロール)を使うので、安全に帰ることが出来る。

 スクロールは一回こっきりの使い捨ての魔法具である。

 転移する場所はダンジョンに入ってすぐ、一階にある転移魔法陣に固定されている。

 ダンジョンロアは天上に向かい高く伸びるダンジョンで、その最上部は千階とも言われている。


 一階転移魔方陣から三十メートルも進めば外に出られるのだが、カチュアはダンジョンを出る前に左手にある小部屋に寄るのを日課にしていた。

 そこは女神像が安置されている。

 カチュアは目を閉じて女神像に感謝のお祈りを捧げた。


「女神様、今日も無事に戻ってこられました。ありがとうございます」


 まつられているのは冒険者を見守る女神で、不思議なことに像に向かって祈りを捧げると、体力や魔力が回復する。

 だがここに立ち寄る人はほとんどいない。


 理由は入り口から近すぎる立地だ。

 これからダンジョン探索をする冒険者は一刻も早く先に進みたいと気が急いているし、帰りの冒険者達は早く地上に出たい。

 カチュアは家に帰ってからも家事育児が待っている。だから体力が回復するのは「助かるわー」と冒険者業を始めてからなるべくお祈りを捧げてから帰ることにしている。

 もちろん信仰心もある。

 カチュアがこれまで無事なのは心優しい女神様のおかげかもしれないのだから。


 そう考え心を込めて祈りを捧げるカチュアだった。


 その時、「パンパカパーン」とファンファーレが鳴った。

「!?」


「おめでとうございます!  ログイン100回目! 100回を記念してスキル【主婦】のログインボーナスを差し上げます!」


 どこからともなく響く謎の声がテンション高くカチュアに言った。


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― 新着の感想 ―
かなり成熟してる社会の予感。
もうね、これ見つけた瞬間声出して笑いましたわ  こんな切り口があるのかwwって  発想がおもろいので頑張ってください
[良い点] この世界は剣と魔法の世界だけど一部現代の仕組みもチラホラ。でもそんなアンマッチもうまく結びつけられていてスッと世界観に入り込める。 [気になる点] 本当にタイトル否定になっちゃって申し訳な…
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