27.復讐鬼
昭和のヒーローものの定番。
「あの3匹もだが。ひょっとしたらきみには、さらに過酷な運命をおしつけてしまったのかもしれんな」
苦々しく告げるクロップスの苦悩は、マントと鎧ごしでも、背中からアントニオに伝わってくる。
改造手術がおわり、アイザック立ちあいでの洗脳(偽装)がはじまるまでのわずかなあいだに。博士は、語るべきことを語れるだけ語りたおした。
おたがいの自己紹介にはじまり、アントニオがもう生身の超獣ではないこと。
クロップスも望んで、ここにいるわけでなく。力ずくで連れてこられたうえ、置き去りにしてきた助手の身の安全と引き換えに、悪に加担していたこと。
そしてこれから、その悪と対峙しようというおのれの決意と。純白のパンダにも、ともに闘う意思があるのかどうかを。
「博士、おれはむしろ感謝してるくらいですよ。
あなたの手術がなければ、おれはまた歩けるようになるかさえわからないほどの、重傷だったんでしょ?
それに……」
仮面の奥、黒く隈どられた瞳に昏い炎が灯るのを、クロップスは気づいたか?
「それに、やつらの操り人形になるくらいなら、この機体——血に染めて、赤白パンダになるまで闘ってやるほうが、ましじゃありませんか?
あいつら、ぎったんばったんにしてやる!!」
あぁ、なんとゆう悲劇か!?
悪夢のような運命は、アントニオを悪と闘うヒーローではなく、哀しき復讐鬼へと変えてしまったのだ!!
あどけないころの彼を知らないとはいえ。いまのアントニオの心を蝕む闇、その深さにクロップスは心を痛める。
だが、それと同時にまた、博士は信じてもいた。
いつか、アントニオがおのれの復讐のためにではなく、崇高な正義のために闘う戦士として目醒めることを。
なぜならば、憎悪の炎に焦がされてなお、鎧のしたの彼の機体はまだ、くすみひとつない純白のままだったのだから。
「とりあえず、まずは身を寄せる隠れ家を手に入れたなければな。私のもとの研究所や、きみの家にはもう帰れないぞ。
やつらの用意してくれたラボは、最高級だったが。これから闘いぬいてゆくためには、新しい研究所にもそれなりに充実した設備が必要だ」
居場所がばれれば、追われる身となろう。覚悟はいくらしても、したりない。
「博士、やつらはおれをつかまえて、こんどこそ洗脳しようとするでしょうね。
そこで、かんがえたんです。
この仮面で素顔を隠して、名前も変えて闘うしかないなって」
たしかに、仮面のデザインはアイザックにちらりと見られたていど。
ほかの連中には知られていないはずだが、それにしたって。いくらなんでも、アントニオだと気づかれないわけが——あぁ、意外と気づかれないものなのかもなぁ。
「もう、新しい名前だって、決めてあるんです。
パンダラス——きょうからおれは、アントニオ・パンダラスだ!!」
アントニオ。博士に、敬語になっております。