25.トルネード
ついに出ます!
左脚を軸にして、右脚で床を強く蹴る!
はじめは軸が定まらず、ややぶれぎみだった回転も、さすがはアントニオ。しだいに安定し、速度をみるみるとあげてゆく。
左廻りの旋風を纏った彼は、やがて一陣の竜巻と化し、猛威をふるおうと矛先を魔牛にむけた。
「うぉぉおっっ!!」
おたけびをあげてアイザックへと突撃する、その威力のすさまじさといったら!
すべてを吸い込む内巻きの回転とは逆で。アントニオのトルネードは、すべてをはじく外巻きの回転。
白き超獣ゴマは赤黒き弾幕を破り、魔牛本体ごとぶっ飛ばすのだった!!
どかぁんと轟音をたてて、ラボの頑丈な扉にめりこむアイザックだったが、背をもたれかけつつも、立ったままもちこたえている。
魔牛のタフネスもさることながら。アントニオも新しい機体とはじめて使う技であるうえに、髑髏の弾幕に威力を殺がれてしまい、会心の一撃ではなかったのであろう。
とはいえ、ダメージがまるでなかったわけではないようで。まさにいまこそ、脱出のチャンスなのに——ぶっ飛ばした方角が悪かったか?
ラボの唯一の出入り口である扉には、邪教の神殿に刻まれたレリーフのように、魔牛がめりこんでいるではないか。
こいつをどうにかして、ラボを脱出できたとしても。監禁されていたクロップスには、基地内の通路がどうなっているかどころか、ここが何階なのかすらわかるはずもないし。なにせこのフロアには、窓ひとつ目にしたことがないのだから。
(わるまろの1匹でもつかまえて、ちからずくで案内させるしかないかもな)
そんなふうに考えていた博士に。アントニオは、にやりと笑んで颯爽と言い放つ。
「博士。かんちがいさせたんなら、がっかりしてるだろうからゆっとくけど……」
枕もとにたたまれていたマントを纏ってひるがえすと、いっしょに置かれていとた仮面も装着。
見よ! この勇姿!!
「あいつをぶっ飛ばしたのは、道を切り拓くためじゃないさ!
さんざん好き放題やってくれた、その借りを返してやりたかっただけだ!!」
ずずいっとキメめてくれたアントニオは、ふたたび床を蹴って回転をはじめた。
さっきとはまるっきりちがう、軸の一本とおったような、きれいなスピンで竜巻を育む。
きたるべき2撃めにあわてる魔牛。
だが、アントニオはアイザックに襲いかかることなく。何を考えてか、背を向けて。扉と反対側の壁へと、トルネードの回転のまま跳躍する。
(鍛冶場や薬品だらけのこんな危険なラボを、わざわざ基地のどまんなかに造るとは、考えられない。
きっと、ここは地下か——排熱しやすい、いちばん外側の部屋のはず。
だとしたら、通路への扉の反対の壁。そのむこうはおそらくっ!)
竜巻の威力を帯びた右脚で、エース・ストライカーの脚力をぶちかます!!
「トルネード・キィィィック!!」
まさにいま。
白きパンダが、獣闘士として覚醒した瞬間であった。
トルネードは浪漫です。