21.すべてを語らねばならぬ
手術成功!
いったいどれほどの轟音と何枚のアルバムが、この空間を支配していたのだろう?
手術を終えて、すべてが鳴り止んだラボに立ち尽くすクロップス。静寂のなか、罪悪感のはいる余地もないほどの恍惚は、まだ彼を満たしたままだ。
やがて、ぴくんっとひとつ身震いして。ベッドに拘束されながら横たわっていた、アントニオがその目を醒ました。
麻酔から回復したのは、意識だけなのであろう。
感覚がなく、動きもしない四肢にとまどいながらも、きもちだけはチームメイトのもとへ。
「ちくしょおっ!
もう試合は、はじまっているのか?!
はやく行かなきゃ。あいつらが待ってるんだ!!」
置かれている状況を把握できないうちにも、しだいにアイザックによる襲撃の記憶はよみがえってきたらしい。
悔しさが涙となって、滲み落ちる。
魔道への覚悟を決めたはずのクロップスであったが、このときばかりは嘴を噛みしめずにはいられなかった。
だが、あまり時間はない。
これから彼は、運命の水先案内人として、アントニオにすべてを語らねばならないのだから。
魔牛なりのねぎらいなのか。さしいれのコーヒーは、ミルクが多すぎて、これぢゃあカフェオレだ。
カップをすするクロップスとアイザックのかたわらで、アントニオはベッドに縛りつけられたまま眠っている。だがそこに在るのは、漆黒の鎧を身に纏う変わり果てたすがた。枕もとには、ていねいにたたまれたマントと、ハーフフェイスのヘルメット型の仮面。
沈黙を守りつづけるステレオ、そのそばの円テーブルには。ヘヴィ・メタルではなく、例の洗脳用CDのケースが、なかみのないままひらかれていた。
意外と、仲良くやってるふたりなのですよ。
敵なのに。
基本はゆるいので(笑)