20.悪魔の所業
マッドサイエンティストキャラ、好きなのです。
「ネコのもう1匹くらい、ついでにさらってきてやるのに」
まだ暴れ足りないのか、ぶつぶつつぶやくアイザック。
(指示したやつは利口だな。
わたしでもじっさいに人質をとらずに、おどすやりかたをとるであろう)
人質を目のまえにすれば、どうしても救出を考えることになり。結果、反抗の意思がうまれるのを助長してしまう。
いっそ人質を拷問にかけ、そのさまを見せつけるならまだしも。捕獲対象にさえしておけば、ふつうはこと足りるはず。
何処かに潜伏したり、保護されたりしないかぎりは、いつでもつかまえられるとほのめかして、不安をあおるだけで充分なのだ。
だが、もはやその必要すらない。
魔道に堕ちる覚悟を決めたクロップスは、道連れ相席の切符と座席指定券をつかまされた、アントニオの寝顔をみつめていた。
優しく——冷たく——厳しく——頼もしく——そして、哀しく。
ラボにヘヴィ・メタルが響きわたる。
今回のアルバムは荘厳でシンフォニックな曲に、魂を揺さぶるまでの神々しい歌声。
改造手術が誕まれかわりの儀式ならば、これはかつての生身の躰への葬送曲なのか。
へし折れた骨を、引き裂かれた筋肉を、強化骨格と強化筋肉にとりかえながら。とっておきの26の秘密を搭載する。
悲痛なおももちで、施術にかかっていたはずのクロップスであったが。
あぁ、なんということか!
それは善悪を超越して、甘美な果実。
この悪魔の所業にも、科学者の血は彼のなかで湧き躍る。
生涯、最高傑作のひとつになるであろう芸術作品誕生の手応えに。
すでに博士は、浮かぶ笑みを沈めることなどできないでいた。
クロップス博士、今回はシリアスですけどね。