14.クロップス
描いておいて、心が痛みます。
彗星と流星では、その威力もバズーカ砲と散弾銃。直撃をくらって気を失ったものの、リチャードのケガは軽いようだ。
なるべく無傷で連れ帰りたかったのであろう。手加減するのも楽じゃないとばかりに、気怠いため息をひとつつくと、アイザックは彼を抱えあげた。
ひと仕事終えたはずの魔牛であったが、浮かんだ「やれやれだな」といった表情は、すでに消えている。
何故なら、アイザックにはまだ、もうひとりの標的が残っていたのだから。
悪魔超獣と残虐超獣をまとめて、悪辣超獣と称することがある。対義語として善良超獣という概念があるが、こちらが総じるのは正義超獣と天使超獣。
さて、この悪辣超獣たちというのは、悪の秘密結社とやらを設立するのが大好きな連中で、この邪悪な民俗舞踊もそのひとつ。
組織を構成する六部族の一角である、つの部族の前線基地、つの天閣。その一室にとある超獣がいた。
研究室と手術室と鍛冶場を詰めこんだような。手術台のベッドに薬品棚、大量の機材に、なんと炉まであるではないか。
趣味的と呼ぶにも、あまりにも巨大すぎるスピーカーからは——しばしば、クラシックをかけながら執刀する外科医がいるように——ヘヴィ・メタルの重厚なギター・リフが、大音量で刻み続けられていた。
多機能ということばでも不充分なこのラボの所有者は、やはり常人ならざる頭脳と肉体のもちぬしにちがいない。鍛えおわったプロテクターの強度を測定する彼は、博士であり、鍛冶屋であり、デザイナーでさえあった。
鼻っ柱に立派なつのをもつ、独つ眼のサイ = クロップス。
孤高の天才が苦悩と恍惚のうちに誕み出すのは、芸術にも似た、狂気じみた凶器。
※ 部族:「部活のような、家族のようなフレンドリーな共同体」を意味します
出ました、博士!