ヴァシル
放課後。自分の気になる本を一冊選ぶと、その他に孤児院で読み聞かせに良さそうな本を探す事にした。
孤児院には様々な年齢の子共達がいるから、どのような物だと皆が楽しめるのか、小さな子向けに絵本などもあった方がいいだろうか。などと思案しながら本棚を見つめ、歩いていた。
──冒険譚……これはどうかしら?
手を伸ばした瞬間、身体が何かにぶつかってしまい、驚き横を見やった。誰かとぶつかってしまったようだ。
咄嗟に「ごめんなさい」と口にした途端、相手からの謝罪の言葉も同時だった。
ぶつかってしまった相手をすぐに確認する。その人は図書室の窓から差し込む光に照らされ、人好きのする笑顔を浮かべる爽やかな男子生徒。
ヴァシル・アントネスクがそこにいた。
鮮やかなオレンジの髪がとても映えている。
「これはこれはスフォルツィア公爵令嬢、セレスティア様。お怪我はございませんか?」
彼ヴァシル・アントネスクは、アントネスク伯爵の嫡子。
普段はエリュシオンの隅にある領地で暮らしており、現在は敷地内の寮から学園に通っている。
「わたし……本棚ばかり見ていて、周囲に気を配れていませんでした、ごめんなさい」
わたしの言葉に一瞬眼を見張った彼は、本棚に手を伸ばし、本を取り出した。
「取ろうとしていたのは、こちらの本ですか?」
「そうです」
「どうぞ」
「ありがとう」
「懐かしいですね、俺も子供の頃に読みました」
「そうなのですね」
彼はわたしの手元に視線を移す。
「読書がお好きなのですか?」
「はい。それでは」
前世から人一倍人見知りなわたしは、特に男性との会話が得意ではない。
そそくさと場を離れた。