トラブル②
午後の授業を終えて、一緒に授業を受けていた令嬢達と教室に向かっていた。特にホームルームもなく、荷物を取りに行ってから後は帰宅するのみである。
ここでも私は途中で足を止めて、他の令嬢達に促した。
「ごめんなさい。用事を思い出したから、先に行ってて頂けるかしら?」
「そうなのですか?」
「えぇ」
「分かりましたわ。では、ご機嫌ようセレスティア様」
「ご機嫌よう」
一瞬不思議そうな顔をした彼女達だが、口々に挨拶を告げてくれる。深く追求せずにいてくれるのは有り難い。
教室に荷物を取りに行けば、後は各自の馬車で帰るので細かく行動を供にする理由もない。
わたしは踵を返し、来た道を戻った。そして足早に階段を下りる。
回廊を歩く際に、窓から見えてしまった物が勘違いでないのなら、急がなくては──
一階に降りると、裏庭を目指した。
普段ならば人気の無い筈の裏庭、その片隅の木陰には数人の女子生徒がいた。
「貴女の立ち振る舞いって、どうみても平民よね?」
一人の蔑みを孕んだ声を皮切りに、周りの面々も次々に口を開いていく。
「色んな殿方に声をかけて品がないって、皆んなが噂してるわよ。本当にみっともない」
「貴女のような方が学園にいるのは迷惑なのよ」
「得体の知れない貴女がダンドリュー家の養女になるなんて、一体どんな手を使ったのかしら?」
「余程貴族男性に取り入るのがお上手なのでしょうね」
──やっぱり……。
裏庭では女子生徒達がエリカさんを取り囲み、侮蔑の言葉を浴びせていた。わざわざこの場所を選んだのは、人目を憚っての事だろう。
彼女達に向かって、わたしは意を決して口を開いた。
「何をやっているの」
「セレスティア様!?」
振り返った面々は、わたしの姿を視界に入れた瞬間、動揺が走る。
そして自分でも驚く程、冷静で大人びた声だった。




