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朗読

 本を読む事でこの世界の知識を深めていった。ここは、いくつもの大陸に別れた広い世界。創世から事細かに紡がれる歴史を学び、この世界は創作ではなく現実だと確信するに至った。


 本日の授業は、詩集の朗読。


 詩集の作者は宮廷顧問を務めた人物で、政治家と同時に作家でもあり、植物学者としての業績も残した多彩な人物である。

 作家活動も詩集に限らず劇作など、様々な創作や、旅行記といった自身の体験を元に執筆されたもの。


 わたしは教師に指名され、立ち上がってその詩を朗読する。


 最初は緊張したが、声を発した途端に安堵する。

 昔からそうだ。オーディションの時も直前までは緊張でいっぱいだったのに、一声出した瞬間、場を制したと言っていい程に室内の空気が変わる。懐かしい感覚だった。


 教室内にはわたしの声が響き渡る。

 庭のライラックが咲く風景の描写と共に、春の暖かさを感じさせる詩だった。


 読み終わると、教室内は大きな拍手で溢れていた。皆が笑顔をわたしに向けている。


 無性に照れ臭くて、教科書に視線を落とすと、先生の暖かい声が向けられた。


「貴女の声は神様からの贈り物ですね、これからも大切にして下さい」

「ありがとうございます……!」



 :.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:.:*:



 授業の終わり、二人組みの女子生徒がおずおずと、わたしに声を掛けてきた。


「ご機嫌よう、セレスティア様」

「ご機嫌よう」

「あの、セレスティア様、朗読サロンなどにご興味はおありでしょうか?」

「先程の授業では、可愛らしく美しい美声もさる事ながら、読み方の癖などなく、聞き入ってしまいました。もしよろしければ、わたくし達が参加している朗読サロンに参加して頂きたく思います」

「朗読……」


 突然の思いもよらなかった申し出に、わたしの答えは直ぐに出てこなかった。


「朗読だけなの?」

「はい!」

「詩を作ったりはしないのですね?」

「基本的に創作は致しません!自分の詩を創作して発表するサロンは他にもあるのですが……。そちらの方が参加される方は多くいらっしゃいます」

「そう」


 素人演劇サロンより、個人プレイの朗読サロンの方が、もしかしたら今のわたしには合っているかもしれない。

 ナレーションも声優の仕事であり、詩がそのままナレーションに使われている事も珍しくはなかった。


 やはり発表の場がないよりも、たまには人前で朗読するのは、技術低下を防げる気がする。未だ私は生前身につけた、声優としての技能を手放したいとは思っていない。

 今後どんな人生を送ろうとも、その考えは変わらないだろう。

 死ぬまで、例え生まれ変わっても役者であり続けたい。


 そして何より、朗読のみというのがいい。自作ポエムを創作必須と言った、羞恥プレイのオプション付きなら、猛ダッシュで逃げだしていたところだった。


「あまり頻繁には、出席出来ないかもしれませんが……」

「セレスティア様がお妃教育などで大変なのは、皆が存じている事ですわ。是非時間のある日に、足を運んで頂ければ嬉しいです。皆、セレスティア様がいらっしゃる事を心待ちにしております」

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