確定③
「セレスティア様は……私の記憶にあるセレスティア様と見た目は、似ているのかもしれないけれど、印象が余りにも違います。当然性格も。それに記憶している声や話し方までも違う。この世界が現実だとすると、多少のズレは仕方ないにしても、今の所セレスティア様程違った人格のキャラクターが他に見当たらないんです……」
(実は声帯は一緒だったりするのだけど……)
「そういえば有名声優の起用で盛り上がっていた『エリュシオンの翼』だけど、セレスティア様の声優って誰だっけ……?攻略キャラは勿論、エリカの声優は超有名だから当然私は知っていたけれど、セレスティア様の声優さんって他に何か出てたっけ……?」
わたしには理解出来ないと思ってか、ぶつぶつと独り言を呟くエリカさんだが、
悪意のない呟きが、わたしのガラスの心に深々と突き刺さった。
無名だなんて自分が一番知ってるわよー!!と心の中で叫び散らした。
そりゃソシャゲで『豪華声優陣』と書かれた時なんて、有名声優の中に無名の自分がいる事に罪悪感があったりもした。
「無名が混ざっていてごめんなさい!」と一人、部屋の中で謝罪した事もある。
『エリュシオンの翼』なんて、主要キャラで無名なのはわたし一人であり、超有名声優演じるエリカに、わたし演じるセレスティアが上から目線で物を言う構図になっていてとてもドキドキした。
因みに超有名なエリカの声優さんは、わたしより歳上といっても二、三歳しか変わらない若手大物声優だった。歳は近いのに、えらい違いである。
でも、お陰で今のセレスティアの中身が、アニメでセレスティアの中の人(声優)と一緒だとバレずに済んでいるんだから、これは無名で良かったのでは?無名無名やかましいわ。
別に売れっ子なんて、わたしには荷が重くて売れっ子になりたいなんて思ってなかったし、声優でほそぼそと生活出来る分だけで満足だった。そもそも承認欲求があまりないタイプなので。
そして今、とある悩みに直面していた。自分も異世界の記憶がある、転生者だと打ち明けるか否か。ここまで私に話してくれたエリカさんを、信用したい気持ちと、最悪の事態を想定した場合で心がよれ動く。
大人しいわたしだったけれど、思考は限りなくポジティブであり、自死したいなど一度も考えた事はない。当然今世も、生き残る未来しか考えていないのだ。
完全に信頼していいのか、話してくれたのは、もしかしたら信用させるための罠である可能性も捨てきれない。
これからは貴族社会の駆け引きも必要だが、腹の探り合いが得意ではないのだから、馬鹿正直に打ち明けるよりも、黙っている方がやはり賢明なのではないだろうか?
決して信頼したくない訳ではない。信じたい気持ちと、黙秘すべき事を分けて考えているだけだ。
「ちなみに、物語上でエリカさんと恋愛に発展するかもしれない方で、好きな登場人物はいたりするの?」
「はい、長年の推しがいます」
エリカさんは瞳を煌めかせながら答えた。