ヒロイン
朝、制服に身を包み、準備を終えてから朝食を済ませる。
時間になると王家の家紋が付いた、二頭付の馬車がこのスフォルツィア邸の城門をくぐり、屋敷の玄関へと横付けされた。
フレデリック殿下だ。学園に通う三年間、毎日迎えに来てくれるらしい。
リア充なんて性に合わないから、何だか変な感じがする。
王室の馬車へと乗り込み、目の前に座るフレデリック殿下と挨拶を交わす。
朝でも眠そうな顔一つせず、フレデリック殿下は今日もキラキラと、爽やかな笑顔を向けてくれる。
「改めてこの三年間、学園でもよろしくねセレス」
「はい、フレデリック殿下」
「殿下だなんて、二人の時は名前で呼んで欲しいと言ったよね」
「あっ……」
言われて慌てて口元を手で押さえる。そんなわたしを殿下がじっと見つめてくるから、観念したように口を開いた。
「フレデリック様……」
「うん」
わたしは達は互いを『セレス』『フレデリック様』と呼び合うようになっていた。
校舎に入ると、ステンドグラスが等間隔に並ぶ廊下が続いている。光がふんだんに取り入られた廊下を、フレデリック殿下と並んで歩いていた。
その時──。
肩より少し伸ばした栗色の髪をなびかせながら、女子生徒がこちらへ走ってくる。
しかも滅茶苦茶早い!
(来た……!エリカだ……え、でも何で突進してこようとしているの!?)
エリカが現れたせいか、爆走してくるからか、何故かわたしは身動きが取れなくなっていた。
混乱というより、何も考えられないでいた。
わたしが立ち竦んだせいで、歩幅を合わせてくれていたフレデリック殿下もすぐに歩みを止めており、走ってくるエリカを唖然とした顔で見ている。
そしてわたしを廊下の端へと寄せてくれる。
だが、エリカは走ってくる角度を僅かに変え、そのままフレデリック殿下に体当たりするように突撃して来た。
「!」
フレデリック殿下は直前で、エリカをひらりと身軽にかわした。
そんな仕草まで優雅だが、避けてしまうとエリカの転倒は避けられない。
「うわぁ!」と、可憐な声とは真逆の、ハスキーな叫びを響かせるエリカ。
無意識に身体が動いたわたしは、咄嗟にエリカを庇った。だがエリカの勢いが凄すぎて、受け止めきれずに一緒にそのまま転んでしまった。
「セレス!」




