姉弟
学園から両親と帰宅し、私室に戻ろうとすると弟のアデルが出迎えてくれた。
「お姉様、お帰りない」
「アゼルただいま」
十四歳となったアゼルはぐんぐんと背が伸び、わたしの身長を抜いてしまった。わたしは身長が止まってしまったのに対し、アゼルはまだ伸び続けている。
「明日からお姉様が、本格的に学園に通われるとあって心配です。何かあれば、フレデリック殿下が守って下さると信じていますが……」
「ただ学園に通うだけなのに、大袈裟ね」
中々お姉ちゃんっ子に育ったアゼルの言葉に、思わず微苦笑してしまう。
日常的にこのような言動を取るアゼルに、ゲームと性格違うくない?そう思っていた時期があった。
だが、わたしや家族以外には、やはり冷めた態度を取っているようで、屋敷から出ると途端に愛想がなくなる。
彼が例外中に愛想良く接する人の中には、フレデリック殿下もいる。人に興味がないのかと思えば、フレデリック殿下をいたく尊敬しているようで、そこは安心していた。
「お姉様とフレデリック殿下のような優秀な方々を見ていると、他の人間がとても下らない人間に見えてなりません」
などと言っていたけれど、それはそれでどうなの?
この性格が、今後貴族間での社交で弊害が出てきやしないか、今から心配である。
しかしこのお姉ちゃんっ子に育ったアゼルなら、もし婚約が破棄されたとしても、わたしを公爵家に置いてくれるのではないか?と期待してしまう。
この王都の屋敷でなくとも、領地でもいいから身を置く事を許して欲しい。
そう考えると、やはり弟とは今後とも良好な姉弟関係であり続けたい。
婚期を逃した姉が、実家に居座ってニート生活というのは肩身が狭いけれど、事業などを手掛けて利益を生み出せば、置いてもらえる確率は上がるだろうか?
弟に寄生する気満々の思考と思われるかもしれないが、あくまで細かに枝分かれした未来予想の一つにすぎない。
道が完全に閉ざされるよりはマシだと思っている。
自分にとって一番良い未来は、このままエリカが現れず、波風立てられずに生活を送る事。
いつのまにか、フレデリック殿下と過ごす日々を望んでいる自分に驚いた。
やはり人は変化を恐れる生き物なのだろう。
現状がきっと一番。