入学
本日は王立学園の入学式。わたしは十五歳となっていた。
生前流行っていた量産型メイクや地雷系メイクやらの知識を総動員して、血色感を意識した僅かなメイクを施す事にした。
前世で生きた日本という国の女の子は、可愛いを追求する姿勢が印象的だった。わたしも例にもれず、日々のメイクや服装を常に研究していた。
というのも前世では芸能の世界で活動していたものの、顔出しの仕事ですら、ヘアメイクが付く事はあまりなく、全て自分でやるしかなかった。
にも関わらず一度メディアに出れば、半永久的にネットに残り続けるのである。
わたしや同世代の若手声優の女の子達は、アイドルのような売り方をされる事が多く、周りは可愛い子達ばかりだった。挙句、あの時代は有名アイドルグループから、声優に転身する人も多くいた。
元アイドル達とメイクが下手なままのわたしが、並んで写真を撮ってそれがネットに上がるとなると、大惨事になり兼ねない。
そのような理由から、メイクを独自で習得するしかなかったのだ。
学園に通うにあたって、違和感のない程度に化粧を仕上げる。
化粧は拘りがあって自分でやりたいと、侍女達にも散々言っていた。それに加えて、日頃のお茶会や、夜会での化粧も当然自前で行なってきた実績もある。
眉はいつもの平行眉に。目尻は薄いブラウンで影を付けて垂れ目を意識して甘い印象に。
薬用のリップグロスと、使わないピンクのパウダーを混ぜ合わせた、手製の色付きリップを取り出した。
透明の小さな容器に入れたリップを指で少し掬うと、目の下に叩き込む。
こうすると血色感が出て、可愛らしい印象になる。前の世界ではリップアンドチークという、リップとチーク兼用の物が製品化されていたけれど、この世界ではまだ世に出ていないから自ら作ってみた。
ちなみに生前は目元のクマ隠しとして活用していたが、セレスティアにクマは存在しない。
唇は中心部分を濃く、外側に向かうに連れて淡い色味になるように、グラデーションを意識。
セレスティアの本来の大人びた美しさに、幼さが足されて、自然でバランスの良い印象になり、わたしは出来上がりにとても満足した。
制服に身を包み、鏡の前に立つ。真っ白な上着とスカートには金糸と銀糸で精緻な刺繍が施されている。その姿を目にして、思わず呟く。
「美しいし可愛い……こんなの恋人がいなくてもずっと人生楽しいはず……」
彼氏より断然仕事が欲しかった私は、前世においても彼氏が出来ないといった理由で、悩んだ事が特になかった。