王子の訪問
王宮での交友会の後、すぐにフレデリック殿下の婚約者がわたしに決まった事が知らされ、唖然としてしまった。
──何故……?これが強制力というやつでしょうか?
家柄でいえば妥当なのだから、初めから既に決まっていたのかもしれない。
決まってしまったものは、受け入れせざるを得ないが、わたしには人生がかかっているのだ。この先の人生を、これまで以上に綿密に計算していかなくてはならなくなった。
普通に考えて最初から婚約者でなかった関係よりも、長年婚姻関係を続けた後にヒロインが現れて、婚約破棄される方がダメージが大きいに決まっている。
にも関わらず、ゲームでは婚約者がいる筈のフレデリック殿下が攻略者の一人であり、ヒロインとのエンディングが用意されている。
ヒロインがフレデリック殿下と結ばれるとなると、当然わたしとの婚約は破棄になるだろう。それどころか、行方不明になるかもしれないという、朧げな記憶が特に引っかかる。
──この世界にヒロインが現れて、フレデリック殿下がその子を選ぶと、わたしの身に何かが起こる……?
王子と公爵家の娘が婚約破棄されたり、ましてや行方不明なんて、大事件ではないか。
不確かな情報は役に立ちそうにもなく、フレデリックルートの知識がないのが痛い。
前世のゲームで攻略しておけばよかったと思っても、今更すぎる。
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公爵家自慢の庭園には、季節の花々が咲き誇っている。設えられた四阿には、お茶の用意がされ始める。
派手な色味が苦手で、落ち着いた色味を好むわたしは、この日はネイビーのドレスを選んだ。
黒も好きだけど、この国でそのドレスを纏うのは喪に服していると思われるらしい。
公爵家の身内が亡くなったなどの知らせはないまま、家族で私だけが黒ばかりを纏っていると、どう見ても変わり者認定を受ける事間違いない。
変人過ぎても目立ってしまうので、黒は諦める事にした。
悪目立ちする事は避けたい。
子供なのに暗い色味のドレスばかりを選ぶ私に、最初周りの大人は首を傾げていた。
本日のネイビーのドレスは、色味こそ落ち着いているが、白と黒のレースがふんだんに使われている。
銀糸の髪はツインテールで纏められ、薔薇とリボンが施された円形ヘッドドレスを頭部に飾った。
落ち着いた色味のはずなのに、全く地味な印象を与えず、ミステリアスな魅力を放っていた。
可愛らしいさと美しさを兼ね備えたゴシック人形のようなセレスティア自身と、そのセンスを周囲は褒め称えるようになっていった。
──ただゴシックファッションを好む、中二病なだけだけど。