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プロローグ

 夢のようなふわふわとした意識の狭間で、何とも言い難い浮遊感の中にいた。

 感覚を徐々に取り戻していくと、身体が手触りのいい布団に包み込まれている事を認識する。


 伏せられていた瞼を開くと、見覚えのある天蓋の天井が視界に広がっていた。


 ぼんやりとしていた意識が少しずつ、鮮明さを帯びていく。酷く長い夢を見ていた気がする。一体何が現実で、何処からが夢なのか。


 少しずつ状況を整理しながら、一番新しい記憶を思い返す。自分は高熱を出して以来、中々熱が下がらず体力も精神も疲弊していった。何日も続く高熱に、頭が朦朧とし始めると、しばらくすると意識を手放しそのまま昏睡してしまったようだ。



 一体、どれほど寝込んでいたのかまでは分からない。


 そこまで思い返してからふと気付く。直前まで高熱でうなされていたにしては、身体が軽い。もちろん寝起きの気だるさは多少感じるが、平熱時並に快調だ。


 上半身を起こしてみる。


 部屋を見渡していると、扉を叩く乾いた音が響く。自分を呼び掛けてくる声が聞こえ、返事をする間も無く扉が開かれた。

 きっと返事は返ってこないと判断されたのだろう。

 若い侍女が室内へと入室する。彼女は室内へと踏み出したところで、立ち止まった。


「失礼致します、セレスティアお嬢様。お加減は……!?」


 侍女は驚きのあまり、その光景を目の当たりにしたまま身体を硬直させた。


 黄金で花や唐草が施された、天蓋付きの寝台へと寝かされているのは、幼い少女。


 少女は透き通るような白い肌、絹糸のような銀の髪。そして輝くアイスブルーの瞳は、空ろに侍女に向けらる。


「お嬢様!意識が戻られたのですね!?今すぐ旦那様とお医者様に知らせて参ります!」


 侍女が慌てて部屋を後にすると、再び一人きりになったセレスティアは、僅かに口を開いた。


  「あー……あ、ああー……」


 血色の良い、薔薇色の唇から溢れる音は、間違いなく彼女の声だ。

 高熱が原因の、喉の痛みなども感じられない。


 そう、自分はセレスティア。セレスティア・フォン・スフォルツィア。

 スフォルツィア公爵家の長女であり、現在は十歳。


 自分に言い聞かせるように、セレスティアは脳内で復唱していた。


 ほどなくして父、スフォルツィア公爵が慌てて部屋へと入って来た。

 スフォルツィア公爵はセレスティアと同じ髪と瞳の色を持つ美丈夫。


「セレス!目が覚めたのか!」


 娘のいる寝台へと駆け寄ると、熱の具合を確かめるべく、彼は手を伸ばしてセレスティアの額に触れる。確かに熱は引いたようだが、今朝も意識がない中苦しそうにしている姿を確認しているため、信じられない思いだった。


 心配する父を安心させようと、セレスティアは落ち着いた声で話し始める。


「はい、お父様。ご心配お掛けして申し訳ございませんでした」

「そうか、本当に良かった。だが現在は回復しているように見えていても、数日高熱で寝込んでいた事実に変わりないからな。侍医にもきちんと見せておこう」


 セレスティアは素直に「はい」と返事をした。


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