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元殺し屋、英雄へ転職希望

作者: 椰子間 夜渡佳

 初めて投稿しました!

 全4話完結予定です! 

 まだまだ拙い文章ですが、楽しんで読んで頂ければ幸いです!

「殺し屋」という職業がこの世界では当然の様に存在している。 

                                                              

 報酬と引き換えにターゲットと自身の利害関係など関係なく確実に殺害を執行する。それが殺し屋だ。

 

 約360人。


 これは、1年間に殺し屋が手にかける平均人数だ。

 標的と、殺害の邪魔になる人間。

 それらを1件につき10人、月約4件とすると400人という数になる。


多ければ500人を超えることもあるが殺害人数の多さは手際の悪さや、殺し屋当人の過激さを表すと共に、強さも表していた。


 約1100人。


 これは、ある少年がデビュー後1年間に殺した人数だ。

「どういう事ですか、会長。詳しい説明をお願いします」       

 黒髪の少年が、眼前の男性に対してこう質問する。 

 少年の背丈は140〜150センチほどで年齢は11〜12歳といった所だろう。


 そして質問を受けた男性は、

「言った通りだ。お前に無期限の謹慎処分を与える」

 目に深いしわを刻んだ男性は5〜60代の初老といった感じだ。

「その理由が分からないんです。協会違反でも犯しましたか?」

「まあ、端的に言うとだな」

 ふう、と男性は一息ついた後で、


「ザイト、お前は殺し過ぎだ」

「え?」


 そのザイトと呼ばれた少年は思わず訊き返した。 

「お前は確かに凄い。デビューして1年でこんだけの依頼をこなしちまうんだから。それに、随分大物の殺しもやり遂げてるだろ?」


 彼が所属している殺し屋協会は依頼された仕事を殺し屋達に斡旋する役割を担っている。

 このセントベルグ王国に存在する殺し屋の内8割近くがこの連盟に所属していた。

 殺し屋という職業、及びこの連盟は王国に許可されている訳でもなく、むしろ邪魔者として扱われる事が多かった。

 

 にも関わらず彼らが王国から何の介入も受けないのは、単純にそこまでの余裕がないからだ。また、彼らの殺しはほとんどが男女の争いや、私怨による復讐の代行なので王国には影響がないのだ。

 

 ある1件の依頼が来るまでは。


「殺して欲しい男がいます」

「依頼ですね、その男の職業は何ですか?」

「国務大臣です」

「了解しました…え?」

 

 依頼人の話によれば、その国務大臣は国民の税金を不当に増額し、差額分を着服しているのだという。   

 そのことを突き止めた議員である彼が大臣にこの事実を公表すると言った所、その日以降彼の周りで不自然な事故が発生し始めたのだという。                        

 身の危険を感じた彼は殺られる前に殺ろうとこの協会に依頼してきたのだ。


 そうは言っても彼も協会がこの依頼を果たしてくれると本気で思っていた訳ではないらしく、もうここしか頼れないといった様子だった。

 

 あまりにも高難度で、リスクの高い依頼。

 協会は、この依頼を当時最強と呼ばれていた殺し屋に一任した。

 だが、協会にも半ば諦めムードが漂っていた。

 

 この最高難度の依頼の行方はーーー




 その殺し屋は、見事やり遂げた。


 この成功は風のように各地に伝わり、一気に依頼が殺到。その内容も要人関連のものがぐっと増えたのだ。

 

「……どうしても謹慎しなきゃだめですか?」

 2人の口論は終わりに向かっていた。

「だめだな」

 これは仕方のないことだと幼い子供をなだめるような口調で諭した後、

「家と土地はこっちで用意してやる。ほとぼりが冷めたら迎えに行くさ。案外、ゆっくり休むのも悪くないぞ?」


 こうして、ザイトの謹慎は正式に決定してしまった。


 それから5年が経った。

 

 森の中で、1人ナイフを木に向かって投げている少年がいる。ナイフは1度投げる度に回収しているが、木に残っているナイフ跡は1つだけ。

 少年がナイフを寸分違わぬ位置に当て続けているという絶技の証だった。


 家に戻った少年ーーザイトの背丈は5年前に比べ、170センチほどに伸び、年齢は16、17くらいだろう。


「…遅すぎる」

 誰もいない小屋で、1人呟く。

 この5年間会長や協会員は愚か、顔馴染みの殺し屋すら1人も訪ねてこなかった。

 人望が無いという訳ではないのだが、


「怖がられてるんだろうな」

 彼の殺しのスタイルは極めて苛烈だ。標的や、邪魔者はもちろん目撃者であれば女子供区別なく殺す。皮肉な事に彼は一切差別しない。強者も弱者も殺す。客観的にみるとヤバいやつだなと当人すら思っている。

 

 向こうから来ないのならならいっそこちらから協会に行ってやろうかとも思ったが、できなかった。 

 本当に彼が幼かった頃、路頭に迷い野垂れ死ぬだけの運命だった彼を拾ってくれたのが会長なのだ。

 彼にとって、会長は絶対。

 

 しかし、彼は知っている。会長が自分のような子供を拾ったのは、自分の両目に宿る力が戦力になると判断したからだ。


 そんなかつての情景を思い浮かべていると、どん!どん!どん!と、小屋のドアが激しく叩かれた。その瞬間飛び起きる。ここは山奥にポツンと建っている一戸建てで、同じく山奥にある村からすら遠く離れている。一応は王国の領土内であったが、王国の連中はろくに把握していないだろう。

 

 故にこんな辺境を訪れる人物は限られており、見当はついている。 

「やっと来てくれましたか」

 1人呟き、ドアを開けるためにドアノブに手を掛ける。普段の彼ならもっと警戒するだろうが会長であろう相手にそれは失礼だ。

 

 ドアを開ける。

 そこに立っていたのは会長だった。

「お待ちしてました、会長…」

 言葉を続けようとしたが、それ以上言葉を発する事ができなかった。

  

 会長が、倒れ込んで来た。

 慌てて受け止めると、ヌチャッという嫌な感触を感じる。自身の手を見ると赤黒い血がべったりとついていた。

「え、」

 無論、ザイトの血ではない。会長の腹部を見ると、そこは何かの攻撃を受けたのか、赤く染まっていた。

 

「会長!?」 

 必死に会長に声をかける。呻きながら会長が目を開ける。そして、

「悪ぃなザイト、やらかしちまった」

「いったい何があったんですか!?どうしてこんな致命傷を…すぐ病院に!」 

「落ち着け。病院につれてく必要もねえよ。…どうせ助からねえ」 


 小さく呟いた会長。どんどん弱っている証拠だ。

「いったい誰にやられたんですか!?」

 普段滅多に感情を出す事がない彼がここまで動揺するのは珍しい。

「俺らをやったのは、暗殺者の組織だ。恐らく、王国直属のな」


 王国直属、そのワードに少し合点を得た。暗殺者と殺し屋の根本的な違いはそれだ。

 彼ら殺し屋は、因果関係など気にしない。しかし、暗殺者は違う。暗殺者とは、組織に依拠している。暗殺者だけの組織か、どこかに所属しているかの違いはあるが彼らが殺害するのは組織の障害となる、なり得る人物だ。王国に直属する暗殺者が動いたというのは、殺し屋協会が王国の障害になったという証だ。


「でも、どうして」

「ま、心当たりがないと言ったら嘘になるわな」

 苦々しい顔で空を仰いだ後、会長は。

「奴らの国の要人共、消し過ぎたな。てめえに言った事を実践できねえたぁ情けねぇ」


 王国にとって重要なポストを消し過ぎたから報復された。客観的に見れば当然の帰結の様にも見えるが、1つおかしな点がある。

「僕達が消してたのは汚職まみれの連中ですよ?やつらは不慮の事故なりなんなりして処理できる。むしろ都合のいい事じゃないですか」

「にも関わらず暗殺者が出て来たっつーのは王国の上層部共がその汚れた連中からうまみを得てたって事だな」

「そんな…王国はどこまで腐ってるんですか!?」

「さあな、後ろ暗い連中が死んで王国がキレてんだから国がよっぽど非人道的な得をしてるんだろうよ」


 そう話す間にも目に見えて会長は弱っていっている。今すぐ近くの村へ連れて行きたいが、間に合うかどうか。そもそも連れて行った所でこの重症を治せるほどの腕の持ち主がこんな辺境にいるだろうか。


「なあ、ザイト」

「はい」

 会長が何か言い残そうとしている。1文字だって聞き逃すものか。

「俺がお前を拾った理由、知ってるか?」

「え?」

 

 会長の口から出て来たのは、予想だにしていない内容だった。

「知ってます。僕の目には特別な力があって、だから会長は」

「表向きはな、本当の理由は違う。恥ずかしくて誰にも言ってねえんだがな」


 自分を拾った理由?一体どのような理由があるのだろうか。死の間際に話す必要のあるような重要なことなのだろうか。


「お前を拾ったのはな…ほっとけなかったからだよ」

「ど、どういう事ですか?」 

 あまりにも見当違いの内容にザイトは動揺を隠し切れない。

「ほっとけないなんて、そんな理由で僕を拾ったんですか?」

「この世界なんてな、意外としょうもねえ理由があふれてるもんだよ。確かにお前の目の力を利用しようとしていないって言ったら嘘になる。でもな、俺が殺人の技術とか教える度、学習して成長していくお前をみてるとよ…」


 何かに感じ入ったように目を押さえ、そして


「息子のように見えちまったんだよ」


「ーーッ」


 ザイトが息を呑む。その目から涙がこぼれ落ちている。

「ザイト、お前を縛るもんはもう何もねえ自由に、やりたい事やって生きろ。俺の願いはただ1つーお前が笑って生きて行く事だ」

「かいちょ、いや、父さん!」

「自分を組織の一員として利用した男を父って呼んでくれんのか、嬉しい限りだな…」


 会長は涙を流しながら目を閉じた。そして、その目が開く事は2度となかった。

 



 会長が死んでから、1週間が経った。

 ザイトは、会長の墓を作って以降死んだように生きていた。ろくに飲みも食べもしない生活に限界が近づいていた。

「…何か食べなきゃ」

 会長が生きろと言った以上今は生きる事を最優先にしなければならない。

「あ…」

 

 ザイトが目を向けた先には、1つの鞄があった。会長を埋葬した後、外に落ちてあったのだ。恐らく会長の所持物。

「これ、僕の好きにしていいのかな…」

 ためらいがちに鞄を家の中に運ぶ。そして開く。

 

 中には様々な物が入っていたが、唯一複数個入っていたのは本だった。それも、難しい小説という訳ではなく童話といった年少向けの物である。

 その中の1つに目を惹かれた。1番分厚く、幅広い年齢に向けた物語だ。

 題名は、英雄紀行。


「これ、会長がよく読んでたやつだ」

 1度だけ、自分も薦められて読んだ記憶がある。ただ、その時の自分は鍛錬に集中したくて最初の数ページで読むのを辞めたはずだ。内容も関係していて、余りにも子供向けの幼稚な理想論だった。

 悪人も善人も等しく救い、どんな強敵にも絆の力とやらで勝利する、そんなくだらない話だったと思う。

 

「会長がよく読んでたって事は、それだけの価値があるのかな」

 もしかしたら、あの頃の自分に理解出来なかっただけでとてもいい内容が書いてあるのかもしれない。そう思い、本を開いた。



 2時間後、ザイトは泣いていた。

 内容は、はっきり言って面白く無かった。絵に描いた様な実在する訳がない英雄の話。

 人々の願望を無理矢理投影した様な物だ。

 でも、それでもーーー諦めず仲間を信じ続ける主人公の姿には感動を覚えた。気付けば涙をながしてしまうほどに。


「そうだ、もしかしたら会長は」

 こんな未来を目指したのかも知れない。黒幕も改心し、登場人物全員がハッピーエンドを迎えられるような余りにも非現実的で、余りにも尊い。

 もし、会長が目指していたならーー


「僕が、実現する」


 会長の望んだ未来だ。協会が事実上滅びた今、それを達成できるのはザイトしかいない。

 愚かで、実現不可能な夢だとしても、成し遂げてみせる。

 日差しが強くなりつつある春終わる頃、1人の少年は、そう決意した。






 読んで下さってありがとうございます!

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