1-2
目を開けると少し暗いが朝日が昇っているのを窓から確認出来たので体を起こし、固まりをほぐすため少し運動をする為に外に出る事にした。
「今日は少し冷えるな」
小さく呟きながら庭に出ると昨日に手に入れた力を試す事にした、体をほぐすのには丁度良いだろう。
「『アクセラレーション』」
左目に魔素と魔力を集め呟くと
「………変わらないな」
何も起こらない、いや、起こっているのだろうが理解出来ない。
「ふむ、よく分からないな」
首を傾げ考えていると鳥が飛んでいるのが見えた、しかしその動きはあまりにも遅く感じたので少し理解出来た。
「自分の動きなどの時間を早める力……か?」
試しに遠くに見える門に向かって走ってみると、体が軽く感じ気がつけば門の目の前に移動していた。
「これは良い、消費する魔素と魔力も少ない」
しかしあまり万能では無いな、体が軋むのを確認出来る、どうやら魔力や魔素で体を保護してくれるなんて事は無いようだ、ほぐすのには向いてなかったな。
「クシェル様?!いつのまにここに」
まずいな、門番が交代制で永遠にいる事を忘れていた
「『アクセラレーション』」
体が軋み、悲鳴を出している感覚があるが無視して屋敷の扉前まで戻る。
「……堪えるな」
幾つか骨にヒビが入った様なので魔素を体に回し魔力で包みヒビの所に流し込む、すると少しずつだが再生し始めているのが感覚で分かるのでロビーに行きソファーに座り休憩していると後ろから気配を感じたので声をかける。
「どうかなさいましたか?アルファド兄様」
「門からどうやって戻って来た?」
見られていたのか、まさかこの時間に起きるとは思わなかった。
「朝が早いんですね、貴族とは思えないぐらい健康的ですよ」
「その言葉を他の人達に言ったら首を撥ねられるから気をつけた方が良い、分かった?」
「気をつけます、ご忠告感謝します」
ふむ、貴族はプライドなんて言う小難しい物に執着するのをすっかり忘れていた、今まで司祭の愚痴で聞いた事ぐらいしか無いので貴族の暗黙の規則なんて考えた事も無かったな。
「とりあえず、その左目はなんだい?」
「ッ………気にしなくて良いです」
どうやらソファーの前にある手鏡に写っていたらしい、慌てて左目を手で隠す。
「へぇ、同じだね」
向かい側のソファに座りこちらに顔を向けているので左目を見ると、自分と違う魔術回路が浮き出ているのを確認出来た。
「何故それを?」
「王国の宝物庫にね、勲章の代わりに面白い本を見つけたから貰ったんだよ、誰も中身を解読した事が無い本だって言われてね」
解読出来たのか、やはり魔術回路を学べば解読が出来るようになるのだろう。
「まぁ今まで解読出来たのはまだ半分ってところかな?まさか精霊言語まで使う物だとは想像出来なかったね」
精霊言語……?聞いた事が無い物だ、この本にも使われているのだろうか?疑問が絶えない、やはりまだまだ知識不足が目立つな。
「精霊言語…?」
「精霊と交信する為に必要な言語だね、これが使えないと精霊の力を借りる事が出来ないんだ」
そもそも精霊とはなんだ?魔素で汚染された地域に出る魔物みたいな生物なのか?
「あぁ、精霊は魔素で出来る魔物と根本的には同じだよ、違うのは由来した物から魔力が付与されて自我を持つ事かな」
「なる…ほど?自我がある魔物と例えたら良いですか?」
「んー…少し違うけど基本的にはその考えで良いかな」
「この話は後にしよう、今はこの魔術回路についての話をしているんだからね」
そうだったな…その話なら気になる事があるし、質問をしよう
「アルファド兄様は本が無くなりましたか?」
「無くなる……?あぁ……確かに無くなってるね」
「頭の中に、ありますよね?私は黒い光が入り込んできた後に気絶して、起きたら本が無くなって頭の中にあります」
「殆ど同じだね、自分も黒い光が入り込んで本が無くなったけど気絶はしなかった代わりに想像できない程の魔力と魔素が入り込んで来てね、下手したら魔人になってしまう所だったよ」
「私も多分同じ現象が起きて気絶してしまったのですね」
成る程、気絶したのはそこまで膨大な魔力と魔素を同時に流し込まれたからか。
ふむ、私は完全に解読出来てないが半分まで解読出来ているアルファドの能力はどんな物なんだろうか?
「アルファド兄様の魔術回路はどの様な力を使えるのですか?
「少し早く走れたり大岩を持ち上げれたり、空を飛ぶ事が出来るね……この後仕事だけど昼に帰るからその時に見せるよ」
そう言いながら立ち上がりロビーから出ようとした時にふと気になって声をかける。
「アルファド兄様、なぜ昨日は殺そうとしたのですか?」
その問いにアルファドは振り向き少し面白くなさそうに、ぶっきらぼうに答えた。
「少し、見破られて悔しかっただけだよ、本当に少しだけ悔しかった……それだけの話だよ」
そう答えると扉を閉めて行ってしまった。
……相当悔しそうだったな、案外からかうのも面白いかもしれない、なんてどうでも良い事も考えながら未だに修復している体を見ながらため息を吐いた後、しばらくゆっくりした。